見慣れた光景(清水-磐田まとめ)

第三者的に言えば、今回の静岡ダービーはエンタメ性抜群だったでしょう。後半アディショナルタイムでの失点だけで今季8回目になります。32試合中8試合ですから、4回に1回は失点しています。さすがに多すぎです。

フォーメーション

GK権田
DF片山・立田・鈴木義宜・山原
MF中山・白崎・松岡・カルリーニョス
FWサンタナ・北川


FW杉本
MF金子・山田
MF松本・山本康裕・上原・鈴木
DF山本義道・伊藤・森岡
GK三浦

清水は前節の川崎F戦から2週間空きましたが、右SBを原から片山に変更したのみ。原も片山もメリットとデメリットと両方ありますが、最近の試合では原が絡むビルドアップでのデメリットが目立つようになっていましたし、セットプレーによる失点も増えていますので、改善を図ったと考えられます。

やることが定まった磐田

まず、コイントスで権田がコートチェンジを選択しました。日差しの問題はあれど、ホームで最終盤に失点を喫している試合が多いので、清水ゴール裏をバックに後半を戦いたいということだったのではないかと推測します。

磐田は10日前に横浜FMを撃破したメンバーのまま臨んできました。その試合を観ていたのですが、やり方も基本的に同じ。守備の時は5-4-1でセットしつつ、敵陣の半分くらいのエリアでは右シャドーの山田が左CBの鈴木義宜に出ていって、鈴木雄斗が連動して4-4-2に変形。とはいえハイプレッシャーを掛けて高い位置で奪う意図はなく、左シャドーの金子の出力も活かしながら真ん中のエリアで挟み込んで取ろうという意識が強いです。スカウティングができていたはずの清水としては、川崎F戦の反省も含めてですが、SBがあまり高い位置を取らずにじっくりボールを回しながら磐田の穴を探す立ち上がり。片山は久しぶりの先発でしたが、立田がパスを出しやすいよう早めに立ち位置を取り、白崎は片山と中山の間を取り持つ意識が強めでサポートすることを心がけていたと思います。

ただ、最初の15分は磐田ペースでした。1つ勝ったことで自信を持ったのはあると思いますが、帰陣してから前向きに出ていく守備が整理されていて、等間隔に立つ選手たちがこまめに脚を動かしてスライドしていました。特に清水のストロングポイントであるサンタナのキープ力、カルリーニョスの推進力といった強度の部分で引けを取らないよう、常に複数人で囲んできていて、2人とも背負ってから前を向くプレーが出せず、セカンドボールへの反応でも磐田が上回っていました。

磐田は良い奪い方をすればオートマチックにボールを動かせるように準備されていて、ボランチが前に飛び出すのか後方にとどまるのかを、山田が交通整理するような形でコーディネートしています。清水はボールを奪いたいのですが、サンタナがDFにプレッシャーを掛けても、サポートに入る山本康裕を管理できておらず、白崎が慌てて出ていって松岡が金子に寄っていくと山田が空く、磐田はそれを見逃さずにボールを差し込んできていました。磐田のテンポの良いボール回しに対して統制の取れた守備ができたとは言えません。

居場所を見つけた北川航也

とはいえ清水のアタッカー陣の力であれば、一度でもきちんとボールを運べた先にビッグチャンスを作れるというスタイルでもあります。そのボールの動かし方でリズムを生んだのは、ダービーに思い入れの強い北川だったと思います。20分、左のカルリーニョスへ展開した北川がすぐフォローして、松岡がサポートして今度は右へ揺さぶり、片山の低いクロスからサンタナが反転、最後は白崎にこぼれる決定機を創出。さらにクリアを拾って中山が縦に仕掛けてサンタナのヘディングまで持っていっています。まずここで決めたかったですが、清水のビルドアップの基本形4-3-3の左IHに立つ北川が戦術理解を深めており、川崎F戦にも増してこの試合ではよく起点になっていました。山田が出てきた背中を取れというのは言われていたんじゃないかと思います。

ゴールの匂いを感じさせてから、磐田は山田が出ていけず、5-4-1で撤退。ボールをより保持しやすくなった清水は山原、松岡、北川の3人で作って磐田を右にスライドさせてから、逆サイドに展開する攻撃で揺さぶりにかかります。最初は片山と中山の右サイドセットもギクシャクした場面がありましたが、立田が高い位置まで行きやすくなりましたので、相手を引き出しておいて背後に中山を走らせたり、逆に片山が内側を走って大外の中山を空けることもできるようになるなど、時間を追うごとに連係は高まったと思います。28分には白崎が前を向いて、相手が後手に回ってきているのを利用してサンタナに差し込み、北川を通過してカルリーニョスに渡る2回目の決定機までいきました。磐田は絶対的な“個”がいるわけではありませんので、1箇所で後手に回った時にそれを力づくで止めるすべがなく、全てがズレていって決壊するパターンに陥りがちです。

そして待望の先制点は34分。これも立田の持ち出しから始まって中山の仕掛けで右CKを獲得。山原のボールを白崎がファーへそらし、鈴木義宜の折り返しをサンタナが蹴り込みました。右CKは通常だとピカチュウと山原の2人が立ち、ピカチュウがコーナーから離れるのを合図に変化を起こしますが、この日は中山でも同じことを実行。ニアポストに立っていた山田は白崎がどこにいるかを見てはいましたが、白崎がペナルティーアークから一気に走り込んで山田に競り勝ったことが全てでした。見事なデザインプレーだったと思いますし、今の清水はCKの準備が念入りにされているのが分かります。若干、声出し応援が聞こえたのはよくありませんが…。

1点取ったあとも「絶対に引かない」という意思は感じることができました。カルリーニョスと松岡で連係して山田を追い詰めた場面にしても、山本康裕と上原の2ボランチのパス回しに対して中山がアクションを起こして全体が追随したプレスにしても、守備でリズムをつかむという表現に該当したと思いますし、危ない場面はセットプレーでゾーンの間に入られたところくらい。42分のカウンターで、左で持ったサンタナがニアに走り込む北川を見ていればもう1点取れるチャンスになったかな……という欲はあれど、1-0で前半折り返しは悪くない形で収まったと思いました。

ちなみに、前半終了間際に権田がボールを素早くリリースするのを妨げられ、森岡の胸ぐらをつかんだ場面がありましたが、おそらく川崎F戦に続いての事象だったことと、若い選手であることも踏まえて駆け引きの一環だったんでしょう。ただ、映像に残るのもありますし、見たくない行為ではあります。

またも“1-0の後半”

ハーフタイムを挟んで、磐田はボールを保持する時間を増やして落ち着きを取り戻そうとしていました。50分、上原が松岡のマークが来ているのを理解しながら少し下がって後方を空けて杉本へのパスコースを作り、そこに森岡が差し込んで、鈴木雄斗が背後に抜ける動きを披露します。ただ、川崎F戦の苦い記憶がある清水としては、引き込んで守るのではなく、クロスを上げさせない、シュートを打たせないというように脚を動かして守っているのでピンチにはなっていません。51分には山本康裕が持ち運ぶところで白崎が前に出て、松岡が中央にスライド。磐田は上原がそれを感じて空間で受けたいところでしたが判断が遅く、山田と松本のワンツーも片山が冷静に処理しました。ここまでは大丈夫です。

ビルドアップも悪くはなかったです。白崎が山本康裕を引き出し、松岡がすぐフォローしてサンタナにワンタッチでつけた判断も良く、山本義道を釣り出してサンタナがワンタッチで白崎へ、中山を走らせてクロスまでいった55分のシーンなんかは完全に狙い通り。特に中山は、相手が3バックだったことでWBの裏を狙いやすく、スピードを活かしてクロスまでいく場面も多かったので、起用としては当たっていました。

60分を過ぎて、徐々に取ったボールを失って守備の時間が長くなってきました。59分にジャーメインと大津の2シャドーに変更していた磐田は、67分に松原と遠藤を投入してさらに活力を付与。松原に関しては左足を切りさえすれば大きな問題にならないと分かっているつもりですし(苦笑)、片山がしっかり外側を切って対応してくれましたが、百戦錬磨の遠藤にボールを持たせてしまうと何が起こるか分かりません。70分には内側を抜けてくる大津を誰が見るのか判断が遅れて、速いクロスを入れられるヒヤッとする場面も迎えました。

そして73分、中山がふくらはぎを痛めてピカチュウと交代します。ここで交代カードを1つしか切りませんでしたので、おそらく脚がつった選手から順に1枚ずつ代えていくんだろうなというのは過去の采配傾向から想像がつきました。ピッチ内では懸命にゲームをコントロールしようとしていたとは思います。白崎がサイドチェンジしてカルリーニョスがキープした71分の場面では、山原が猛然と追い越したのを使わずにボールを回しています。それでも1-0のまま終わらせるのは大の苦手ですので、どうしても追加点が欲しかったです。75分にスローインで北川が背後に抜けて起点になった流れから最後はカルリーニョスがボレーで狙った場面もそうですし、79分の山原のCKに鈴木義宜が合わせて叩きつけすぎた場面もそうで、ピッチ内ではこのあたりで決めにいっていた感触がありました。でも入りませんでしたので、これは柏戦のようなまずい展開だな……と思いました。

繰り返される悲劇

磐田が79分にラッキーボーイの古川を入れて4-4-2にオーガナイズを変更。82分にはその古川が縦に仕掛けてのクロスを権田が触るので精一杯、ジャーメインのシュートを松岡がブロックでしのぐというふうに、ここから苦しくなりそうでしたので、すかさずコロリを入れて相手CBと同数でのカウンター狙いは当然だと思います。ですが、そこに徹底して配給するようなアクションがあるわけでもなく、うまくいきませんでした。それでも、磐田がボールを回している間に杉本と白崎が熱くなって主審が止めざるを得なかった場面は、わざわざ流れを切ったという意味で磐田側の自滅と思いましたし、清水の福岡戦と同じで休む時間ができましたのでラッキーと思ったくらいでしたが、89分のサンタナからピカチュウへのパスが通らなかったシーンは、やり切るわけでもなく、キープでもなく、後ろの選手たちは激怒していい場面です。逃げ切り経験が少ない中で負担が大きすぎます。

ATに入り、片山が脚をつって原を入れたところで、締めに入ったのは間違いありません。ですけど、失点場面はピカチュウと原が2人がかりで松原を止めて倒れたところで、主審にアピールする選手もいれば、ラインを割るだろうと判断する選手もいて、ボールを追っていたのが相手の古川だけというのが本当に本当に残念です。川崎F戦のまとめで、「あと一歩、あと半歩」とか「ラクをしていないか?」という提言をさせてもらいましたが、あのキワの場面こそ、まさにこれだったと思うんです。難しい展開ながらもせっかく脚を動かしてきたのに、一瞬で台無しにしてしまいました。

そこから数分が超オープンな展開になることは妥当なところでしょう。もちろん直後のサンタナのシュートは入った可能性もありますが、失点のショックで集中が切れた守備陣の対応は緩く、山原が出ていったあとのカルリーニョスが完全にボールウォッチャーになっていて背後を取られて絶体絶命でした。古川が決めて伝説の静岡ダービー(磐田視点)にならなくて救われたというのが率直な感想じゃないでしょうか。そういう意味では本当に痛み分けだと思います。

まとめ

試合後のゼリカルド監督のコメントには、「チーム全体にゲームの状況を読む力があって、落ち着いてゲームを運ぶことができれば、終盤の流れも変わってくるはずだと思う」とありますが、どこまで指示を出すのかという部分でベンチが意図していることがピッチに反映されていないのかもしれません。読む力というのは失敗から学んで伸びていくものでもあると思います。しかし、これだけ同じことを繰り返すとなると、「こういう局面ではこうしよう」というコミュニケーションが不足しているのではないでしょうか。練習で想定した通りのことが起きるほど簡単な話ではなく、だからピッチ内で解決しなければならないことがあります。正直、今の清水の選手たちのスキルはそんなに低いとは思いません。でも、ピッチ上の11人が同じ画を持てないと、頑張っても惜しい止まり。特に、日本人同士やブラジル人同士は話もしやすいですが、そこの垣根を取っ払って主張し合っていかないと、リードしても一向に勝てないのかなと思います。

うまくいっていた時期からの課題ではあるのですが、アタッカー陣の強度が自慢であるがゆえ、どうしても行き切りますし、早く追加点を取るのは当然ですが、時間が迫ってきて、それが相手に攻め口を与えてしまうリスクがあるのであれば、後ろの負担を減らすためのボールキープもしなければなりません。そこのバランスを見つけられないまま、ここまで来てしまったなと。残り2試合なのか、プレーオフを入れて3試合なのか分かりませんが、テコ入れとかではなく、本当にディテールだと思います。

追い込まれたという表現が適切かは分かりませんが、前を向くには少し時間がかかるかもしれません。でも、もう次からは試合の間隔が大きく空くことはありませんし、すぐ試合がやってくる感覚になると思います。今からスキルアップは難しくても、できることはあるはずなので、遠慮なしでやれることをやってください。あとは覚悟だけです。

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