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【投資家の旅】甘粛省慶陽市

甘粛省慶陽市へ

5月23日、投資教育ビジネスのパートナーであるティファニー・リュウと共に飛行機で上海からラーメン(拉麺)で有名な甘粛省都蘭州へ向かい一泊。5月24日、5時半起床の後飛行場へ。7時半発の飛行機で甘粛省第11位(人口)の慶陽市へ向かう。予定では1時間のフライトとあるものの実際の時間は30分強。慶陽の飛行場はゲートが僅か2つのこじんまりとした地方空港であった。

甘粛省は人口2500万の比較的小さい省(第22位)であるものの長い歴史を持つ。中国最初の統一王朝である秦は首都を今の西安(旧称:長安)に定めたものの、その起源は甘粛省礼県とされる。甘粛省都蘭州から陝西省都西安までは約600キロの道のり。甘粛省は中国の中でももっとも貧しい省の一つであり、人口一人当たりのGDPは6000ドル(約82万円)に過ぎない。主な産業は鉱工業であり、ニッケルの埋蔵と生産量は中国第一。その一方で、非常に乾燥した気候の為人口一人当たりの農地は中国最下位とされており、農業が主要な産業となっていない。その結果若者は大都市へ出稼ぎに行くことが普通であり、人口構造の空洞化も問題となっている。

甘粛省(赤) 参照:ウィキペディア

奨学金プログラム

Z世代投資倶楽部の奨学金プログラムは年間の家計現金収入が2万元以下(約40万円)の家庭出身の大学生に対して年間5000元(約10万円)の奨学金を四年間支払う。奨学金を受け取る条件として学生はZ世代投資倶楽部に入部し積極的に活動しなくてはいけない。貧困の定義を一日の収入が1.7ドル(240円)と仮定すると、年収(365日)で620ドル(約9万円)。四人家庭とすると中国元では1.8万元となる。この貧困家庭出身の高校生に「貯蓄」ではなく「投資」を教えるとはどういうことか、想像してもらいたい。おそらく彼ら彼女らの人生で「投資」という言葉を一度も口にしたことはなかったのではないか。もしかしたら聞いたことはあったかもしれないが、それが自分の人生と関係があるとは思ったことはないはずである。

白永玲は甘粛省慶陽市鎮原県という慶陽市から約4時間離れた村で2002年に生まれた。彼女の家に向かうには舗装されていない山道(写真下)を運転していかなければならない。4WDの車でなければ到底辿り着くことはできない。運転手からはかなり急勾配の山道なのでシートベルトをしっかりと絞めないと天井に頭をぶつけるから注意して欲しいと言われた時は冗談かと思ったが、実際冗談ではない道のりだった。

奨学生:白永玲

白永玲の自宅へ向かう、延々と続く舗装されていない山道

永玲は3年前にZ倶楽部の奨学生として入部。現在は湖南工科大学で心理学を専攻する。入部当初はまさに「ど田舎」からやってきた少女であり、クラブでの活動も消極的だった。クラブの他の学生は大金持ちではないものの恵まれた環境で育った清北復交(清華・北京・復旦・上海交通といった中国のトップ大学の総称)のエリート学生たち。彼らとしても永玲とどの様に付き合っていけばいいか、困惑していたと思う。しかし、過去三年の投資活動や上海・北京でのイベントを通じて永玲はその存在感を高め、今やクラブにいなくてはならないメンバーとなった。それだけでなく、彼女からこれまで興味を持っていた心理学関連の仕事から、投資アナリストになりたいという夢を抱くようになったという話を聞いた時、思わず涙が出そうになった。Z倶楽部の活動は一人の女性の将来に大きな影響を与えたのであえる。

今回の「投資の旅」の目的は永玲の担任が教鞭を取る三岔中学(中国では中学校を初級中学、高校を高級中学と呼ぶ)へ訪問し、奨学金プログラムの説明とインベスターZの中国語版【大赢家(大勝者)】の告知を行うことである。大赢家はオンライン上で40話を配信し、閲覧数が少なくとも2000万回に達する大成功を収めた漫画であり、今回中国の最高学府である清華大学の出版社から書籍が発行された。中国では検閲システムがかなり厳しく本を出版するという日本では簡単な手続きが予想を絶する程煩雑である。しかも清華大学出版社にとっては初めての漫画の出版であり、出版に至るまでの手続きは約一年間に及んだ。満を期して出版となった漫画を、投資のことを全くしらない高校生に知ってもらう為、三岔中学へ100冊あまりを寄贈することとした。

当初は永玲の母校である慶陽第二中学で奨学金プログラムの説明を行いたかったものの、教師陣が外部のプログラム、しかも外国人が主催するものということもあり反対を受けて断念。しかし永玲の成長を見守ってきた彼女の担任であった馬先生と李先生は、彼らの新しい赴任先で開催することを快諾してくれたのである(しかし、その事が後に大きなスキャンダルに)。

慶陽空港から車で4時間。途中で昼食休憩をしたものの、急勾配の山道を行く旅は楽ではなかった。三岔中学(写真下)に到着した時はすでに2時を回っていた。

三岔中学の校門

学校の向かい側にあるホテルにチェックイン。登記室(写真下)で女性にパスポートを渡し書類を記入。何故かチェックインに時間がかかる(その謎は後で判明)。

ホテルの登記室

スーツケースを部屋に置き、学校へ向かう。こじんまりとした田舎の学校で、校舎はおそらく30-40年ぐらい前に建てられたのだろう。老朽化が見られる。勿論空調などは全くない。

集会は3時からということで職員室でしばらく談笑。それでは行きましょうとの声のもと階段を降りるが、講堂はどこにあるのだろうと不思議に思った。校舎の入り口を指さされて初めて気づいたのだが、なんと校舎の入り口に机と名札が設置されていて、ここで集会をするとのこと。すると学生たちが続々と自分の椅子をもって運動場に集まってきた(写真下)。みんな隊列を組みやってくる姿を見て、やっぱりここは共産主義の国だということを実感。後で聞いた話だが、総勢1000人近い学生が運動場に集まった(写真下)。

校舎の入り口で講演会
1000人近い学生が続々と登場


出口:皆さん、今日は僕たちのために集まってくれてありがとう。まず最初に三つ質問があります。まず、最初の質問。勉強は好きですか?

〜静寂〜

出口:みんな、先生の前なんだから正直になって下さい。もう一度聞きます。勉強は好きですか?

〜静寂〜

出口:了解。勉強が嫌いでも問題ないです。僕も勉強は嫌いでした。授業中は寝てばかりで先生に怒られてました。

〜爆笑〜

出口:じゃあ、次の質問。漫画は好きですか?

(全員が)『大好きです!』

出口:それは良かった。もしもみんなが漫画を好きじゃなかったら、僕はこのまま帰らないといけなかったよ。

〜爆笑〜

出口:じゃあ、最後の質問。清華大学の学生の勉強方法の秘密を知りたいですか?

(全員が)『勿論です!!』

出口:今日は僕以外に二人清華大学生が来ています。一人はティファニー。彼女は清華大学を卒業しただけでなく、オックスフォードのMBAも卒業した天才です。もう一人は張冬宇君。さらにこの村の出身の白永玲にも話をしてもらいます。彼は現役の清華大学生です。これから彼らに清華大学生が漫画を使ってどの様に勉強しているか、そして聞いたことは無いかもしれないけど、投資というものが、君たちの人生にどんな影響を与えるかを話してもらいますね。

大学受験は現在の科挙であり、清華大学は北京大学と並ぶ最難関。三岔中学の学生たちは清華大学の名前を聞いたことはあっても清華大学生や清華大学卒業生とであったことはなく、まさに雲の上の人たちである。その雲上人が小さな村にやって来たということで学生たちは興奮を隠せない。まさに熱狂とよべる興奮の渦の中で、ティファニーと冬宇、そして永玲のスピーチが始まった。清華大学という人生のゴールデンチケットを夢見る学生たちは、聞きなれない投資にも興味を示す。しかも清華大学お墨付きの漫画とあれば、聞いておいて得することはあっても損はしない。当初一時間の予定が質問攻めにより2時間半の長丁場となった。集会が終わったあとも学生が集まり、ティファニーと冬宇、永玲に署名を貰おうと列を作る。まさにアイドル扱いである。これから先生方と夕食があるからと学校を去ったのは7時を過ぎていた。

白永玲の実家へ

次の日は学校近くで山盛りの包子(肉まんや野菜まん)と豆腐脳(おぼろ豆腐)の朝食(写真下)を取った後、山道を更に一時間かけて永玲の実家へ。

ティファニー(左)と永玲(右)
山盛りのでかい包子を前に苦笑する冬宇
地元臭漂う朝食店
豆腐脳は名前はすごいがおぼろ豆腐のようなもの(ただし辛い)

永玲は両親の他に姉と弟がおり、5人家族。姉は結婚して蘭州市で生活。弟は海南市の専門学校でソフトウェアエンジニアリングを勉強する。実家は中国の西北地方特有の窯洞と呼ばれる黄土高原の表土である沈泥を掘り抜いて作った「洞窟」の家に住む。

永玲の家(車は筆者が乗ってきたもの)
黄土の土壁を掘って作られた洞窟の家《窯洞》

彼女の両親は農業を営んでおり、主にトウモロコシ、小麦、トマトを栽培する。また、現金収入を増やすため、牛、山羊、豚、鶏を飼育している。前述した様に、土壌は乾燥し栽培できる作物も限られている。ほぼ全て手作業による栽培であり、生産性も低い。農地は丘の上から谷に向かって段々畑上に造られており、機械を使っても生産性を向上するのは難しいのだろう。

鶏(卵用)とヤギ
食肉用の鶏は放し飼い
ヤギの赤ちゃん
食肉用の牛
健康そうな毛並みの黒毛豚(これが美味しい)
麦畑にて記念撮影
「辛い」ネギ
乾燥した土壌
豊穣とはかけ離れた土壌
段々畑



家の周りの散策を終えると永玲の母親が昼食を準備してくれていた。全て自分の家で育てたものを調理してくれたそうで、鶏肉は滋味に溢れ、大量飼育されたブロイラーの嫌な脂の臭いは全くなく、放し飼いの鶏のしなやかな肉の歯ごたえは絶品であった。極め付けは豚のスペアリブ。かなり大きい肉だったのと脂身が少なかったので何か分からず食べたものの、果物の香りのする肉で、豚肉だと聞いた時は驚いた。甘粛省はりんごも有名で、周りにりんごの木もあったので、自然にりんごを食べた豚の肉だったのかもしれない。人生でベストスリーに入る豚肉だった。

自給自足の食生活(すごくおいしい)
鶏肉の煮込み
牛肉の冷菜
この豚のスペアリブが信じられないうまさ
また登場の巨大包子


砂糖を振りかけたトマト、かなりジューシーでおいしい
居間はこんな感じ


最後に記念撮影、左から筆者、運転手、ティファニー、永玲の母、永玲の父、冬宇、永玲

警察からの電話


すべての予定を終えて永玲の家から慶陽空港へ向かう。例の4時間の山道である。帰りのドライバーはかなりアグレッシブな運転をする人で3時間ぐらいで空港についてしまった。帰途で永玲から電話が。どうも警察から問い合わせがあったらしい。実は今回の活動について学校の許可は取っていたものの、県役場からの許可をえておらず、ホテルの宿町をチェックした警察が驚いて電話をしてきたらしい。これは誰も知らなかったことだが、新疆の人権問題があってから、県に外国人がやってくる場合は事前に許可を貰わないといけないらしい。とは言うものの、おそらく僕とティファニー(シンガポール人)が歴史上初めて鎮原県を訪問した外国人の可能性が高く、このルール自体誰も知らなかった可能性が高い。中国政府は情報統制を厳しく行っているため、最悪の場合、日本では予想ができないような状況になりかねない。結果、学校にも教師の方々にも迷惑をかける結果となってしまった。

中国は経済成長が著しいものの、貧富の格差もまだ存在する。持てるものと持たざるものの差は大きい。人口13億の中国でZ倶楽部と投資漫画が与える影響は微々たるものであろうが、それでも草の根でコツコツとやることに大きな意義はある。永玲の成長を見ると、まさにそれを実感するのである。

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