てれびくんを買ってもらう方法

インドア派の私を外に連れ出すのはかなり大変であるといえよう。晴れてるから、イベントがあるからとかいう世間的な理由で私を連れ出そうなど100年早い。私が外に出るのは数少ない知り合いに会うときか、映画に行くときか、本屋に行くときぐらいしかない、というくらいには、筋金入りのインドア派である。
その休日も特に用事もなく午後になり、今日も部屋にこもるかなーと心を決めかけていたところ、なかなか面倒な問題に突き当たった。

尻が痛くて椅子に座っていられない。

これはまずい。どうやら椅子の座りすぎで尾てい骨のあたりを圧迫しすぎたらしい。とりあえず立ち上がってトイレに行くと、幸いにも便座は尾てい骨を圧迫しないと分かったので、とりあえずそこに落ち着いた。
10分ほど便座の上で思考した結果、本屋に行くことに決めた。買いたい本もあったし、もしその本がなくても、面白い本を探しながら歩いていれば痛みも引くだろう。

で、タイトルの話に入る。
目当ての本を見つけたので、「思ってたより時間つぶせなかったなー」と思いながら本屋を出ようとしたところ、足元から声がする。

「ママ、てれびくんかってよー!ほかのはいいからさー!いっぱいのってるからこれひとつでいいんだってー!」

私は子どものころ、めったにものをねだらない子だったと母は常々語っている。その精神は背丈が伸びてもあまり変わらなかったようで、だれかにお願いをする図々しさを少しうらやましく思うこともある。
今、雑誌を抱えながら足元を走り抜けていった少年は、何としてもその雑誌を買ってほしいらしく、どこかにいるお母さんを呼びにいこうとしていた。
それを見て私は思った。

発言に説得力ありすぎでは?

少年の発言をまとめるとこうだ。
・てれびくんを買ってほしい。
・てれびくんを買ってくれたら、ほかの買ってほしいものは諦める。
・てれびくんはたくさん情報、おまけがついているから他の雑誌よりも優れており、しかもこれ一つで事足りる。
実際なかなかよくできているのではないか。ふつう「買って買って」を連呼するところ、きちんと譲歩しつつ、自分の要求を通そうとする交渉に持ち込んでいるのである。さらに、「てれびくんを買えばほかは買わない」という約束を、「これ一つ買えばたくさんおまけがついてくるから、これで十分満足できる」と裏付けしているところが優秀だといえる。かつて一度だけ慣れない駄々をこねて、「もういいから行くよ」と母に手を引っ張られた拍子に肩を脱臼した私とは大違いである。

成長とは自立の過程なのかもしれないが、必要な時に人に頼ることもまた大人には必要な技術である。少年に思わぬ学びを得る休日だった。