タイトル未定

母の携帯にかかってきた間違い電話のせいで、彼女は予定より早く起きてしまった。
今日は一日中病院なので、もう少しゆっくり寝ていて欲しかったのに。「もう少しだけ横になって」と寝室に声をかけてきた。

わたしは、今日の付き添いが怖くてもうとっくに起きていた。

以前なら、こんな早朝から物音を立てた母に半ば八つ当たりで苛立ちを覚えたり、分からない番号に直ぐに出たら駄目だよと叱ったりしていたかもしれない。

でも今は、母のやる事に何も腹が立たない。
わたしはなんて浅ましい奴なんだろう。今更穏やかな優しい娘のふりをしたって遅いのに。気の持ちようで、こんなにも母に対する態度を変えられたのに、ずっとそうせずにいた。
取り戻す事なんて出来ないのに、今更…そんな風に朝から自分を罰する。

今日治療方針が決まったら、何も知らない姉と姪に、この事を報告するというミッションがある。話す気力など無いのでLINEで送る事にしているが、改めて文字に起こすのも辛い。でも母から頼まれた事だから、ちゃんとやる。

末っ子で甘ちゃんのわたしが、1人で何もかもを抱えるなんて到底無理で、最初はパニックになって何の罪もない母にとんでもない暴言まで浴びせた。その事を思い出すと自己嫌悪で吐きそうになる。

それでも母は、そんなわたしを許し、「家族だからそんな事も言い合えるんだよ」と諭した。

わたしだって、他の姉達みたいに、遠くで母の無事を願うだけのポジションでいたかった。年に数回「皆さん変わりありませんか」と連絡するだけで母の安否を確認できて、家族水入らずで日常を送れるのだ。

年老いていく母に気付いてないフリをして、変わらず辛く当たってしまう自分に度々嫌気がさしたり、親孝行出来ない自分を日々呪ったりしながら過ごす毎日が辛かった。母を好きなままで、邪魔に思ったりせずに過ごしたかった。

もちろん今は少しも邪魔には思っていない。最初からこんな風に母と接してあげられたら良かったという後悔が膨らむばかりだ。

手のひらを返したように優しくなった娘を、母はどんな風に思っているだろうか。話しをしてこなかったわたしには、あまり彼女の事が分からない。

これから、沢山知っていきたいと思う。

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