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「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」を読んでみました


年を追うごとに注目度が高まっているESG評価とその評価機関に対し、金融庁が2022年12月に「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」を公表し、賛同を呼びかけているということをこちらの記事で知りました。


この文書はESG評価機関に対する呼びかけではありますが、これを読むことで、その反対側にいる企業=サステナビリティ(ESG)情報を開示する側の企業にとっても示唆が得られるのでは?と考え、「3.原則、指針および考え方」に示された6つの原則の「考え方」部分に着目して読んでみることにしました。



原則1(品質の確保)


この原則の「考え方」に関する記述で私が気になったのは以下の部分です。

評価を受ける企業においても、日々様々な情報開示・改善の取組みを図っており、一年前の評価が現在も当てはまるものとは限らない。このため、ESG評価・データ提供機関は、評価を行った日付や、評価の根拠となっているデータの取得・更新時期を開示することが重要である。また、評価機関等の内部においても、データの利用・更新の時点を含む記録を保持しておくことが重要である。

なお、ESGデータの品質確保については、ESG評価・データ提供機関が企業の開示するデータ等を転記する際に誤りがあれば、その責任は評価機関等に拠るものであるが、こうした場合を除けば、基本的には企業が開示するデータの質については当然に、一義的には企業に拠るものである。

ESG評価機関が古いデータに基づいて評価をくだしているといった事態は、開示内容が多岐にわたり、かつ、企業側の開示媒体(webなのかPDFなのか、PDFならばどの報告書やレポート等のどの部分に記載されているのか)も多様であることから、容易に起こり得ると考えられます。

企業側でも、ESG評価機関が必要なデータを(可能な限り他社比較可能な形で)迅速・確実に取得できるように開示を整えることが重要ですね。
(もちろん、英語対応も含めて!)


原則2(人材の育成)

この原則の「考え方」に関する記述で私が気になったのは以下の部分です。

しかしながら、現状では、ESG関連の取組みが急拡大する中で、市場全体として、この双方を兼ね備えた人材については、不足が指摘されている。

このため、ESG評価・データ提供機関においては、自ら人材等の能力開発を図るとともに、必要に応じ社外の関係機関とも連携し専門知見の導入・活用を図っていくことが重要となる。必ずしも個々の職員が必要な全ての専門性を有するものでなくとも、組織全体として必要な知見を確保・提供していく視点も重要と考えられる。

企業側でも(もっといえば企業を支援する監査法人やコンサルタントでも)サステナビリティ開示が急速に進展する中で人材の育成や確保が追い付いていないという状況の中、ESG評価機関でも人材が不足しているのであるなら、悪くすると「わかっていないもの同士」が担当した結果、企業への評価が下がってしまう…ということもあり得ると。怖いことです。


原則3(独立性の確保・利益相反の管理)

この原則の「考え方」に関する記述で私が気になったのは以下の部分です。

利益相反が考えられる場合には、これを回避するか、または、適切にリスクを管理・低減するための具体的な枠組みを整備しておくことが重要である。

潜在的な利益相反の具体的な内容は、評価手法やビジネスモデルにより異なる可能性がある。例えば、購買者負担モデルでは、利益相反の典型的な例の1つとして、ESG評価・データ提供機関が、評価等の対象企業にコンサルティングサービスを有償で提供する場合が考えられる。

現時点で私はこうした「ESG評価・データ提供機関が、評価等の対象企業にコンサルティングサービスを有償で提供」している事例をまだ知らないのですが、そういったサービスが欲しい企業、提供できる機関側…という構図は容易に想像がつきます。注意しておかなければならないですね。


原則4(透明性の確保)

この原則の「考え方」に関する記述で私が気になったのは以下の部分です。

ESGの課題は広範に及ぶものであり、評価の捉え方も様々なものが存在する。例えば、ESG関連の取組みによる財務的な影響を把握する場合であっても、ESGに係るリスクを評価する場合と、ESG要素を踏まえた将来の企業価値の創造を評価する場合とでは、あるべき手法も異なってくる。

そう、ここ、気になっていたんです。
あくまでも私の現時点の感触ですが、いわゆるメジャーどころのESG評価には「リスクやリスクに対するレジリエンスを測定」することに主眼を置いているところが多く、「ESG要素を踏まえた将来の企業価値の創造を評価」することにちゃんと力を入れているところは(少なくとも現時点では)見つからないような。。。

後者の評価手法をちゃんと確立しているところがあれば知りたいです。
とても。


原則5(守秘義務)

この原則の「考え方」に関する記述で私が気になったのは以下の部分です。

こうした状況を踏まえて、評価機関等との対話に当たっても情報のやり取りに特に留意を重ねる企業と、法令等遵守は大前提とししつ、出来得る限り詳細な情報を伝えつつ対話を進める企業の、双方が存在するとの指摘がある。

また、ESG評価・データ提供機関においても、こうした留意点が存在することも踏まえて、自らの方針として、非公開情報を入手しないこととする評価機関等も多い。

財務情報と同様に今後は非財務情報にもフェア・ディスクロージャー・ルールが必要になるし、整備されていくんだろうなと思っています。今はそのあたりの規制が(たぶん)存在しないので実は問題がある開示も結構生じているのではという気がしており、自戒を込めてこの点、引き続き注目していく所存です。


原則6(企業とのコミュニケーション)

この原則の「考え方」に関する記述で私が気になったのは以下の部分です。

購買者負担モデルを中心とする評価機関等と企業との間の現状のコミュニケーションについては、IOSCOの報告書や専門分科会でも課題が指摘されたところであるが、評価機関等においては、自らと評価対象企業が通常どのように関わるか、全体像を開示すること(「対話の手順」の開示等)が重要となる。

さらに、事前に日程の共有を行う、必要な情報が入手可能で適切であると考えられる場合には事前に入力しておく、経営の基本的な方針等の基本的な事項は予め理解しておく、企業の不明点に対してどのようなコミュニケーションが可能か検討しておくなど、一見些末に見えても評価対象の企業における事務負担を大きく軽減し得る事柄には、丁寧に対応することが大切である。

また、企業がESG評価・データに関して問合せ、問題の提起を行うことが出来る統一的な窓口の設置が重要である。当該窓口を通じて、評価対象の企業から、評価・データの根拠について重要又は合理的な質問・問題提起があった場合に、自らの評価手法や顧客対応の方針等を踏まえて、少なくとも根拠となるデータの正確性を企業が確認することを許容する等適切に対応することが重要となる。

なるほど、こういう記述が出るということは、現状、すでに企業側の負担も結構なものになっているということなのですね。

私は企業側の人間ですのでもちろん、こういった「配慮」や「体制整備」が進むことは歓迎なのですが、一方、ただでさえ原則2で指摘されているような人材不足があるとしたら、これって現実的な提言なのかしら…というところは気になります。



以上、サステナビリティ分野のnote更新1000日連続への挑戦・58日目(Day58) でした。それではまた明日。

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