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「我が社の事業はSDGsの〇番に対応している」がESG開示にならないわけ


1,はじめに

サステナビリティにおけるリスクと機会ってなんでしょう?

上場企業のホームページによく見かける記述は、こんな感じなのですが…果たしてこれでいいのでしょうか。

環境・社会に関わるさまざまな課題は、企業のサステナビリティを脅かすリスクとなる一方、社会課題の解決に取り組むことは、新しいビジネスチャンスにつながります。

環境破壊や社会課題は事業継続において大きなリスクとなる一方で、社会課題の解決に取り組むことは、新しい事業機会にもつながります。

リスクは「企業の」「事業継続の」サステナビリティを脅かすだけのものなのでしょうか。そして機会は「ビジネスチャンス」とだけとらえて良いものなのでしょうか。


2,参考になった本はこれ

そんなことを考えていたら、ありました。
私の悩みにきっぱり答えてくれている本が。

浜辺 真紀子「『株主との対話』ガイドブック: ターゲティングからESG、海外投資家対応まで」(中央経済グループパブリッシング、2023年)です。

著者は元ヤフー㈱(現Zホールディングス㈱ )ステークホルダーリレーションズ本部長ですので、現場の感覚が満載の本です。


3,参考になった箇所はここ

p.34~35が、まさに私の悩みへの答えが書かれている場所でした。

「機会」とは、企業が環境・社会の「役に立つ」、つまり「ポジティブインパクトを与える可能性」を指しています。

一方、「サステナビリティ・リスク」とは、企業が環境・社会に「迷惑をかける可能性」、つまり「ネガティブインパクトを与える懸念」を指しており、企業はこのリスクに対処し軽減・解消する必要があります。
(中略)
なお、「サステナビリティ」を「企業(自社)の持続可能性」と誤解している方が稀にいますが、本来は「地球と社会の持続可能性」を指します。もちろん、「地球と社会の持続可能性」を考えない企業は今後、生き残っていくことが難しくなります。そういう意味では、サステナビリティと「企業(自社)の持続可能性」は二次的にリンクしているといえます。

誤解のないように申し添えますと、冒頭でご紹介した企業さんも、実際の取り組みを拝見するとこのあたりはちゃんと理解していらっしゃるように見えます。ただ、書き方を間違うと残念な印象を与えてしまいかねないので、自分も十分気を付けなければと思った次第です。


4,規定演技と自由演技

サステナビリティ界隈ではこれらのワードもよく使われていますよね。規定演技と自由演技。これらはおおむね、

  • 規定演技=制度や開示ルールへの対応

  • 自由演技=自社らしさや独自の価値創造ストーリーなどの開示

といった意味で使われているように見えます。

ですが、この本では以下のように書いていました。広い意味では同じことを言っているのだとは思いますが、頭の整理という意味では、私にはこちらのほうがイメージしやすかったです(p.36~38)。

「サステナビリティ・リスク」は将来の企業価値を大きく毀損する懸念があるため、取組みと開示は「規定演技」であり、まず真っ先に着手すべき事項

「機会」への取組みと開示は「自由演技」であり、「規定演技」で合格点を取ったうえで評価されるべき事項


5,「我が社の事業はSDGsの〇番に対応している」の落とし穴

タイトルに関連する記述もご紹介しておきます(p37~38)。

上場企業のウェブサイトを見ると、「サステナビリティ」というタイトルのページに「当社はSDGs〇〇番を推進しています」という記載をよく見かけます。ところが、そうした企業サイトの中には「規定演技」に関する取組み、つまり環境や人権などに関する方針や実績データ、目標等の記載が一切見られないケースが散見されます。

このような「規定演技」を行っていない企業は「ESGウォッシュ(偽ESG)」、「サステナビリティ・ウォッシュ(偽サステナビリティ)」とみなされる危険があるので注意が必要です。

負の影響を現に与えていること、あるいは与える可能性があること、まだできていないことなど、PR目線では書きたくない・言いたくないことがサステナビリティ開示には多く含まれます。

この認識をしっかり持った上で、コミュニケーションのベースを作っていくのがサステナビリティ報告には必要なのですね。改めて心に刻みました。


以上、サステナビリティ分野の仕事についたばかりの私の「1000日連続note更新への挑戦」23日目(Day23)でした。

それではまた明日。

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