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ネイチャーポジティブって何?なぜ今注目されているの?

初めてサステナビリティの世界に足を踏み入れた私が、基礎知識を身に付けるために1000日連続でnoteを更新する挑戦をはじめました。今回はチャレンジDay3です。

1.はじめに


最近あちこちで耳にするようになった「ネイチャーポジティブ」という言葉。これってどんな意味なの?なぜ今注目されているの?環境保全とは何が違うの? 

…などなど、基本的なところがわかっていないので、ニュース記事を読んでもちっとも内容が頭に入ってこないのが、新米サステナビリティ担当者である私の残念なところ。

そこで、一念発起して初心者向けの本を読み、知識の土台づくりから始めることにしました。

今回選んだ本は、藤田香・著「ESGとTNFD時代のイチから分かる 生物多様性・ネイチャーポジティブ経営」(日経BP、2023年)です。


まずは第1部「ネイチャーポジティブ最前線」を読み、また、必要に応じて関連資料も参照する中で、学んだことや重要だと思った部分の備忘メモとしてこの文章を書きました。

このメモが、私と同じようにサステナビリティ分野について学び始めたばかりの方々や、日々更新されるこの分野の情報へのキャッチアップに苦労しておられる方々のお役に立ちましたら幸いです。一緒にがんばりましょう!


2.この章から得た学び


1)ネイチャーポジティブって何?

そもそも「ネイチャーポジティブ」とは何でしょうか?

この本のp.30には「生物多様性の損失を止め、反転させること」と書いてあるのですが、正直、これだけではよくわからなかったので、他のページを見てみました。

「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」の定義によれば、ネイチャーポジティブとは、自然へのプラスの貢献(=回復と再生)を、自然にかける負荷よりも大きくすることを言うそうです(p.55より)。

※なお、本書p.55にはWBCSDの図解が掲載されています。同じ図が日経ESGの記事「WBCSDが『ネイチャーポジティブ』を定義づけ 森林主要企業が独自ロードマップ」に載っていましたので、よかったらご参照ください)

2)ネイチャーポジティブはなぜ重要?

「生物多様性の損失を止め、反転させる」は、2021年のG7コーンウォール・サミットにおいて、G7首脳コミュニケ附属文書のひとつとして出された「G7 2030年自然協約」の中の表現です。そこで、さっそく外務省のページをのぞいてみました。

外務省ホームページより


G7 2030年自然協約が英文と和訳、両方ともPDFで掲載されています。これらの1~2ページ目を読んだことで、ようやく「ネイチャーポジティブ」がなぜ重要視されているのかがわかってきました。

少し長くなりますが、和訳を引用掲載しておきますね。

A.我々、G7首脳は、2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させるという世界的な使命にコミットする。我々は、2030年までに、自然にとって必要な2030年への道筋を定めることを支援するため、メッス生物多様性憲章及び「リーダーによる自然への誓約」を基礎とし、その履行に尽力し、今行動を起こす。

B.本協約を通じ、我々は、特に昆明における第15回生物多様性条約締約国会議(COP15)、グラスゴーにおける第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)において、自然に関する野心的な成果を2021年に実現するために、世界的なコンセンサスを支持し、大胆な行動をとることにコミットする。気候変動は生物多様性の損失の一つの主要な要因であり、生物多様性を保護、保全及び回復することが、気候変動への対処に極めて重要である。COP15及びCOP26に先立ち、この重要な10年に乗り出すに当たり、我々は、相互に連関し強力となっている危機に対し統合された手法で対処し、それにより持続可能な開発目標の達成や、新型コロナウイルスからのグリーンで包摂的かつ強靭な回復に貢献することにコミットする。

C.世界的な、システム全体の変化が必要とされている。我々の世界は、ネット・ゼロを達成するのみならず、持続可能かつ包摂的な発展を促進することに焦点を当てつつ、人々と地球双方にとって利益となるようなネイチャーポジティブを達成しなければならない。自然とそれを支える生物多様性は、我々の経済、生計及び福祉を究極的に持続させるものであり、我々がそこから引き出す物品及びサービスの真の価値を、我々が決定を下す際に考慮に入れなければならない。今日の若者及び将来の世代の生命と生計は、これにかかっている。

D.先進経済国・地域、また、グローバルサプライチェーン及び市場における主要な消費者として、我々は、我々独自の役割を認めるとともに、国外及び国内において我々の経済活動が自然及び野生生物に対して及ぼし得るネガティブかつ持続不可能な影響を認識する。したがって、我々は、全ての人々にとってうまく機能するような世界的なシステムの変化を促すため、共同のデザイン、意思決定及び履行に関して先住民及び地域社会の包摂を優先事項とし、貧困の中に生きる人々や、女性及び女児、障害を持つ人、若者といった、脆弱で周縁化されたグループの利益を認識しつつ、パートナー及びステークホルダーと協働して取り組むことにコミットする。

E.新型コロナウイルスが公衆衛生、経済、食料システム及び自然に及ぼす影響を考慮しつつ、我々は、生物多様性の損失への対処という使命が、本来的に、人間、野生生物、動物の健康を守り、将来のパンデミックを予防する使命と繋がっていることを認識する。したが2 って、我々はG7ワン・ヘルス作業部会の活動を支持し、英国の議長の下で設立された新たな国際人獣共通感染症専門家コミュニティ(IZCE)に、自主的な形で参加する。我々はまた、新たに設立されたワン・ヘルス・ハイレベル専門家パネルを歓迎する。

F.次の10年間を通して、我々は、生物多様性の損失を止めて反転させるために、それぞれが政府全体を基礎として動員し、(1)移行、(2)投資、(3)保全、そして(4)説明責任、の4つの主要な柱にまたがる行動をとる。

外務省ホームページ掲載の「成果文書(2) 附属文書 イ  G7 2030年自然協約 和訳」より


ここから私が読み取った「ネイチャーポジティブはなぜ重要?」という質問の答えは以下の2つでした。


  1. 気候変動の問題と生物多様性の保護・保全・回復の問題は、相互に関連し、より強い危機となっているから

  2. 生物多様性の損失に対処することは、将来のパンデミックを予防する意味でも重要だから(パンデミックは公衆衛生、経済、食料システム及び自然に及ぼす影響が大きい)


☆追記1:
上記2については「ワンヘルス」(=地球の健康と人間の健康は1つである)というキーワードで語られるようになっているということが、本書のp.27に記載されています。

☆追記2:
G7 2030年自然協約の背景となった生物多様性の危機的状況については、本書のp.26~27にわかりやすく説明されています。


3)気候変動問題への対応が終わっていないのにさらにネイチャーポジティブにも取り組まなればならないの?

この答えは、「G7 2030年自然協約」のBとCを読むとわかります。「ネット・ゼロ」も「ネイチャーポジティブも」ですね。

Bより抜粋:
”気候変動は生物多様性の損失の一つの主要な要因であり、生物多様性を保護、保全及び回復することが、気候変動への対処に極めて重要である。COP15及びCOP26に先立ち、この重要な10年に乗り出すに当たり、我々は、相互に連関し強力となっている危機に対し統合された手法で対処し、それにより持続可能な開発目標の達成や、新型コロナウイルスからのグリーンで包摂的かつ強靭な回復に貢献することにコミットする”

Cより:
”世界的な、システム全体の変化が必要とされている。我々の世界は、ネット・ゼロを達成するのみならず、持続可能かつ包摂的な発展を促進することに焦点を当てつつ、人々と地球双方にとって利益となるようなネイチャーポジティブを達成しなければならない。自然とそれを支える生物多様性は、我々の経済、生計及び福祉を究極的に持続させるものであり、我々がそこから引き出す物品及びサービスの真の価値を、我々が決定を下す際に考慮に入れなければならない。今日の若者及び将来の世代の生命と生計は、これにかかっている"

ちなみに、Cの「我々の世界は、ネット・ゼロを達成するのみならず」に該当する原文「our world must not only become net zero, but also nature positive」は太字で強調されていました。


4)「COP15」では何が決まったの?

上記Bに記載されているCOP15とは、2022年12月にモントリオールで開催された、国連の生物多様性条約第15回締約国会議です。

ここでは、生物多様性の新しい世界的な枠組み「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択されました。(この枠組みの全体像は、環境省が作成したページで見ることができますので、関心のあるかたはご覧ください)


5)企業がネイチャーポジティブに取り組まなければならないのはなぜ?

根拠は、昆明・モントリオール生物多様性枠組にあります。

本書では、同枠組の最大の特徴は「企業や投資家の役割や行動に焦点を当てたことや、定量的な目標を定めたこと」(p.32)と指摘しています。

また、特に注目すべき点は、2030年までの23個の行動目標「昆明・モントリオール2030年目標」であるとし、これらの中で特に多くの企業に影響があるものとして「目標15」を挙げています。

(目標15は)企業に生物多様性・自然に与える影響やリスクを把握して開示を求めるものだ。「企業が生物多様性へのリスク、依存、影響を定期的にモニタリングし、評価し、情報開示することを奨励する。特にすべての大企業および多国籍企業、金融機関には、サプライチェーンやバリューチェーン、またポートフォリオにわたってその実施を要求する」と定めた。

この目標により、企業は生物多様性への依存や影響を開示し、リスクと機会を開示することが今後求められるようになる。その開示情報を基に、投資家は企業の自然リスクを評価し、ESG投資に反映する動きが既に始まっている。2023年9月に枠組みが完成するTNFDとも連動する動きだ。

「ESGとTNFD時代のイチから分かる 生物多様性・ネイチャーポジティブ経営」p.32より


6)TNFDって何?

TNFDは自然関連財務情報開示タスクフォースで、世界の資金の流れを「ネイチャーネガティブ」から「ネイチャーポジティブ」に変えるために、企業が自然関連リスクを報告し、行動するための枠組みをつくることを目的としています。

”TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の自然版” だと本書が説明しているように(p.40)、TNFDの枠組みは、TCFDの枠組みととてもよく似たものとなるようです。

TNFDの枠組みは、TCFDの枠組みと同様に、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標・目標」の4つの柱から成り(その後、「リスク管理」は「リスクと影響の管理」に変更)、科学に基づく目標設定を推奨している。シナリオに基づくリスク開示も検討されている。

「ESGとTNFD時代のイチから分かる 生物多様性・ネイチャーポジティブ経営」p.40より


3.まとめ


  • ネイチャーポジティブとは、「生物多様性の損失を止め、反転させること」(G7の定義)あるいは「自然へのプラスの貢献(=回復と再生)を、自然にかける負荷よりも大きくすること」(WBCSDの定義)。

  • ネイチャーポジティブが重要視されている理由は大きく2つ。

    • 気候変動の問題と生物多様性の保護・保全・回復の問題は、相互に関連し、より強い危機となっているから

    • 生物多様性の損失に対処することは、将来のパンデミックを予防する意味でも重要だから

  • G7によれば「ネット・ゼロもネイチャーポジティブも」。気候変動問題とネイチャーポジティブは両方取り組まなくてはならない。

  • 企業がネイチャーポジティブに取り組まなければならない根拠は、2022年12月にCOP15で「採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組」。

    • この枠組の最大の特徴は、企業や投資家の役割や行動に焦点を当てたことや、定量的な目標を定めたこと。

    • 2030年までの23個の行動目標「昆明・モントリオール2030年目標」の中でも特に多くの企業に影響があるのが、企業に生物多様性・自然に与える影響やリスクを把握して開示を求める「目標15」

  • ネイチャーポジティブを促進するための情報開示の枠組みが、TNFD。



4.あわせて読みたい(発展学習)

今回学んだ内容に関連する新聞記事や論考、書籍などをピックアップし、追記していきます(随時更新)。

■TNFDの枠組みを公表  企業に自然のリスクや機会の開示求める

日経ESG・2023年10月5日記事です。2023年9月18日に米ニューヨーク証券取引所で公表されたTNFDの枠組みについて解説されています。

こちらもできるだけ早く目を通したいと思います。

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