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選択的夫婦別姓について少し調べてみた

 わたしのゼミで、新聞記事をわたして、30分ディスカッションするというアクティビティを行うのですが、その題材として、選択的夫婦別姓を取り上げたことがあります(「夫婦別姓認めず 「期待 裏切られた」 特別抗告側 「世論に言及」評価も」2021.6.24『読売新聞』)。どのようにディスカッションするかは、参加者に任せるのですが、導入の是非について、ディベートが始まりました。そうすると、圧倒的に、選択的夫婦別姓を導入するという側が優位に立ったのですね。
・別姓を義務づけているわけではなく選択できるようにするだけ。
・日本の歴史をたどっても、夫婦同姓はたかだか明治以降の制度。
・法律で夫婦同姓を定めているのは日本だけ。云々。
 夫婦同姓を維持すべきという側が、そのときに使った新聞から拾った理由が、
・家族の姓の喪失が社会的な混乱を招く。
という議論でした。すぐに「旧姓を使用することが認められているじゃないか。それで、社会的に混乱は起こっているのか」と反論を食らいます。新聞をみると、そのコメントをしたのが、八木秀次麗澤大教授でした。憲法学を専攻されているようですが、姓の喪失が社会的混乱を招くという議論はどうも憲法学的な議論ではないようです。

「夫婦別姓認めず 「期待 裏切られた」 特別抗告側 「世論に言及」評価も」2021.6.24『読売新聞』より

八木秀次・麗沢大教授(憲法)は「15年判決を踏襲した今回の決定により、夫婦同姓が持つ意義が改めて確認された」と述べた上で、「国会で選択的夫婦別姓を巡る議論を進める際には、家族の姓の消失が招く社会的な混乱などデメリットにも目を向けるべきだ」と指摘した。

日本では1898年(明治31年)成立の旧民法で「夫婦同姓」が法制化され、戦後の1947年(昭和22年)に成立した現在の民法でも維持された。ただ、江戸時代の庶民は基本的に名字の使用は許されておらず、明治初期にも太政官指令で夫婦別姓が導入されていたことがあり、同姓が日本の恒久的な制度なわけではない。

法務省によると、現在も法律で夫婦同姓が規定されているのは日本のみとみられる。

「夫婦別姓認めず 「期待 裏切られた」 特別抗告側 「世論に言及」評価も」2021.6.24『読売新聞』

 さて、この記事は、2021年6月23日の最高裁大法廷決定を受けたものです。最高裁は、夫婦同姓を違憲と認めていないのですね。その理由を確認しました。最高裁の多数意見では、「夫婦の姓について、どのような制度を採るのが立法政策として相当かという問題と、夫婦同姓の規定が憲法に違反して無効かという問題は、次元を異にするものだ。国会で論ぜられ、判断されるべき事柄だ。」として、国会に判断を委ねているのですね。国会が必要な措置を講じていないことは憲法違反であるという裁判官も4名いました。

「「夫婦別姓」決定要旨」2021.6.24『読売新聞』より
【多数意見】
 夫婦同姓を定めた民法や戸籍法の規定が、憲法に違反しないことは、最高裁大法廷の2015年の判決の趣旨から明らかだ。15年判決以降にみられる女性の有業率の上昇、管理職に占める女性の割合の増加、選択的夫婦別姓の導入に賛成する人の割合の増加などを踏まえても、大法廷判決の判断を変更すべきとは認められない。
 夫婦の姓について、どのような制度を採るのが立法政策として相当かという問題と、夫婦同姓の規定が憲法に違反して無効かという問題は、次元を異にするものだ。国会で論ぜられ、判断されるべき事柄だ。
【深山卓也裁判官、岡村和美裁判官、長嶺安政裁判官の補足意見】
 婚姻及び家族に関する事項は、国の伝統や国民感情を含め、それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断で定められるべきだ。夫婦の姓に関する法制度の構築は、国会の合理的な立法裁量に委ねられている。
 15年の大法廷判決が指摘する姓の性質や機能、夫婦が同一の姓を称する意義などを考慮すると、民法と戸籍法の規定が合理性を欠き立法裁量の範囲を超えると断じることは困難だ。
(中略)
 選択的夫婦別姓の採否を含め、夫婦の姓に関する法制度については、民主主義的なプロセスに委ね、合理的な仕組みの在り方を幅広く検討して決めることがふさわしい解決だ。国会で真摯(しんし)な議論がされることを期待する。
【三浦守裁判官の意見】
 結論においては多数意見に賛同するが、夫婦別姓の選択肢を設けていないことは憲法に違反する。
 家族の在り方は著しく多様なものとなっている。婚姻しようとする二人のうち一人が、重要な人格的利益を放棄することを要件とし、その例外を許さないことは実質的な制約を課すものだ。多くの女性が、婚姻の際に姓を改めることにより不利益を受けており、夫婦同姓により、両性の実質的平等という点で著しい不均衡が生じている。
 夫婦別姓の選択肢を設けていないことは合理性を欠き、国会が所要の措置を執っていないことは憲法に違反する。国会は速やかに必要な立法措置を講じなければならない。
【宮崎裕子裁判官、宇賀克也裁判官の反対意見】
 夫婦同姓を定めた民法と戸籍法の規定は憲法に違反する。婚姻しようとする双方が生来の姓を変更しないことを希望する場合、夫婦同姓であることを婚姻届の受理要件とすることは、婚姻の意思決定に対する不当な国家介入に当たる。個人の尊厳と両性の本質的な平等に立脚した法律とはいえず、立法裁量を逸脱している。夫婦同姓に例外を設けていないことは違憲だ。
【草野耕一裁判官の反対意見】
 選択的夫婦別姓制度を導入することによって向上する国民の福利(個人として享受する利益)は、同制度の導入で減少する国民の福利よりもはるかに大きいことが明白である。
 これを導入しないことは、個人の尊厳をないがしろにし、立法裁量の範囲を超えるほどに合理性を欠いているといわざるを得ない。夫婦同姓を定めた民法と戸籍法の規定は憲法に違反する。

「「夫婦別姓」決定要旨」2021.6.24『読売新聞』

 さらに、新聞記事をたどっていくと、次のような記事も出てきました。法制審議会が選択制の夫婦別姓導入などを柱とする民法改正要綱を1996年に答申したのに、法案提出につながっていない。「最大の原因は、自民党内の根強い反対論だ。」「自民党内では「別姓は家族の一体感を損なう」などの意見が続出し、合意に至っていない。」ということでした。

「民法改正「答申」放置状態 夫婦別姓、棚上げ10年 非嫡出子の相続格差も」2006.3.14『読売新聞』

法相の諮問機関「法制審議会」が、選択制の夫婦別姓導入と、婚姻届を出していない両親から生まれた非嫡出子の相続格差廃止を柱とする民法改正要綱を答申して、丸10年が経過した。政府・与党による改正案の国会提出の見通しは立っておらず、法制審の答申が長期間、“たなざらし”にされる異例の事態となっている。

法制審の答申がこれほど長期間、法案提出に結びつかないのは、「民事法の分野では例がない」(法務省民事局)という。最大の原因は、自民党内の根強い反対論だ。

法制審は1996年2月26日、〈1〉夫婦が「同姓」か「別姓」を選択できる〈2〉非嫡出子の相続分を嫡出子の半分と定めた規定を撤廃する――などの民法改正要綱を答申。だが、自民党内では「別姓は家族の一体感を損なう」などの意見が続出し、合意に至っていない。

「民法改正「答申」放置状態 夫婦別姓、棚上げ10年 非嫡出子の相続格差も」2006.3.14『読売新聞』

 さて、なぜ、自民党は、選択的夫婦別姓に反対するのでしょうか。統一教会の影が見え隠れする気がするのはわたしだけですか。統一教会と「付き合う」ことが、本当に自民党の政策に影響していないと言えますか。


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