見出し画像

『持続可能性の経済理論-SDGs時代と「資本基盤主義」』の背景

7月9日に、『持続可能性の経済理論-SDGs時代と「資本基盤主義」』が東洋経済新報社から刊行されます。その成立の背景について、本のあとがきに書きましたので、その一部を抜粋します。

 大学の学部時代に、はじめてミクロ経済学に接したときに感じた違和感が本書の原点にある。当時、若き伊藤元重先生が担当教員だった。当時の氏は、講義中に、科学が発達すれば、効用も測れるようになるだろうと話されていた。この言葉に強い違和感を抱き、ミクロ経済学を疑うようになった。とくに、当時から関心を抱いていた環境問題に対して、十分に対処できないという思いは強かった。そこから、経済活動の物質的側面に着目しようとする異端の経済理論に関心を寄せていった。
 学部3年生のゼミを選ぶ際に、宇沢弘文先生の門戸を叩いた。『自動車の社会的費用』(岩波新書、1974年)を出版され、教授陣の中でもっとも環境問題に通じている方だったからである。先生からは、新古典派経済学の虚構性や社会的共通資本の考え方を学んだ。
 大学を卒業後、環境庁に入ることとなった。宇沢先生から、君と僕は敵同士だからね、と告げられた。先生は、国を訴える道路公害訴訟の原告団を支持していた。先生とは、以来、疎遠になったが、先生の社会的共通資本の考え方が、この本の資本基盤論の元になっている。
 環境庁に勤務する中で、折に触れて、環境保全のために市場に介入すべきではないという主張に遭遇することとなった。その背景にあったのが「市場主義」の考え方である。市場主義者は、可能な限り規制を緩和し、企業の自由な経済活動を促進しようとする。ミクロ経済学的思考が、現実社会に悪影響を及ぼすさまを見てきた。
 環境庁に11年勤務した後、千葉大学に移り、市場主義に対抗する理論体系を構築することに取り組んで来た。本書がひとつの集大成となる。本書では「市場主義」に対抗する考え方として「資本基盤主義」を提示した。「資本基盤主義」とは、資本基盤の持続可能性を確保するために市場外的判断を行い、市場に介入していくべきとする立場を指す。
 本書では、資本基盤主義に立脚して、通過資源と資本基盤の管理原則が示される。とくに人口減少社会においては、資本基盤を健全に保つことが経済運営の主眼となって行くであろう。そして、一人当たりのストックの豊かさを確保することや、その維持のための「ケア労働」を充足させることが、新しい経済指標となって行くであろう。

Kindle同時発売です。よろしくおねがいします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?