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「政策批判」と「誹謗中傷」を混同する安倍総理

SNSにおいて「誹謗中傷」にさらされた方が亡くなられた件に関して、安倍総理への「誹謗中傷」はいいのかという議論があるみたいです。誹謗中傷と政策批判の区別が付かない人がいるんですね。世も末だと思いますが、当然、この二つは違います。でも、安倍総理自身が混同しているようなのです。困ったものです。

誹謗中傷と政策批判のちがい

誹謗中傷」という言葉は、根拠がないにもかかわらず、そのことが事実であるかのように考えて悪口をいうことです。とくに、公の場で言いふらすという意味合いが付いてくる場合が多いですね。

このことは「政策批判」とは違います。これは、ある政策について、その妥当性を問い、批判することです。検察庁法改正案については、検察官の定年延長を内閣の裁量でみとめる規定の妥当性について、検察の独立性を損なうものではないかとの批判が起こりました。検察の監督も必要じゃないかとか、基準が不明確な監督は問題点の方が大きいのじゃないかとか、いろんな議論がありましたが、このような「政策批判」は民主主義においては健全なプロセスだと考えます。

「誹謗中傷」と「政策批判」の違いを平たくいうと、根拠があるか、ないかです。相手が公人か否かにかかわらず、根拠のないことに基づいて批判すると「誹謗中傷」になります。公人だから「誹謗中傷」してもいいということにはなりません。

国会答弁における「誹謗中傷」

じゃあ、国会においては、「誹謗中傷」がどのように扱われたのかなと思って、国会会議録検索システムで検索してみました。以下、長くなりますから、引用部分は関心がある人だけ確認してくださいね。

ずいぶん遡りますが、昭和48年には、根拠のない事実に基づいた質問を行って懲罰動議が出された事例がありました。このときに「誹謗中傷」ということばが使われています。「誹謗」と「中傷」はそもそも別のワードのようですね。議事録も、句読点で区切られてます。

四月二十六日の物価問題特別委員会における議員小林政子君の総理大臣に対する質問のうち、推測に基づき事実に反する発言によって、個人の名誉をはなはだしく傷つけ、院の品位を失墜させる部分があったことは、以下申し上げます調査事実をもってしても明白であり、国会法並びに衆議院規則に違反しており、懲罰の対象となることは明らかであります。(拍手、発言する者多し)したがって、私ども提案者は、公の場である国会において、一国の総理大臣を誹謗、中傷し、さらに善良なる市民の名誉と権利を傷つけるこのような行為を、このまま見のがすことはできません。(拍手、発言する者多し)よって、ここに国会法第百二十一条第三項の規定に基づき、木部佳昭君を代表とし、以下六名の連名をもって、議員小林政子君に対する懲罰動議を提出した次第であります。事実無根のことを公の場で名ざしで発言することによって、総理大臣はもとより、何らの関係もない国民に対し、多大の迷惑を及ぼしたことは明白であります。(第71回国会 衆議院本会議 第32号 昭和48年5月10日 大村襄治議員)

ここでは、誹謗中傷という言葉は、事実無根のことを公の場で名ざしで発言することと言い換えられています。このときは、田中角栄首相が自分の買った土地の価格をつり上げるために公共事業をやったのではないかという批判でしたが、やっぱり、公人を対象としても根拠のない批判は、誹謗中傷とみなされるのです。

最も国会で「誹謗中傷」というワードを使った安倍総理

でも、残念ながら安倍総理ご自身が、「誹謗中傷」と「政策批判」の区別がついていない可能性が出てきました。過去の国会会議録検索システムにおいて、発言者身分を「内閣総理大臣」として、内閣総理大臣が国会において「誹謗中傷」というワードを発した事例を検索すると、昭和22年以降現在に至るまで、25件ヒットしました。実に、その19件が安倍晋三総理によって発せられています

いちばん古く「誹謗中傷」という言葉を発したのは小泉純一郎総理です。最初は、平成14年10月24日なので、昭和22年から平成14年までは、総理が国会で誹謗中傷という言葉を一度も発していないのですね。小泉総理の最初の発言は、野党議員の発言を受けたもので自分からの発言ではありません。二番目の発言は、議場の外で防衛大学生が誹謗中傷を受けたという発言です。

○小泉内閣総理大臣 何を見当違いなことを言っているんですか。よく読んで……(達増委員「誹謗中傷はやめさせてください」と呼ぶ)誹謗中傷はあなたですよ。国会議員同士で討論しているんだろう。(達増委員「後で議事録を見てもらえばわかりますが、私は一切誹謗中傷……」と呼ぶ)
(第155回国会 衆議院 予算委員会 第2号 平成14年10月24日)
○内閣総理大臣(小泉純一郎君) かつては防衛大学生に対して、一部勢力から不当な誹謗中傷が行われた時期もございました。しかしながら、そういう批判にめげず、黙々と努力されてこられた自衛隊諸君も立派だと思います。(第156回国会 参議院 武力攻撃事態への対処に関する特別委員会 第3号 平成15年5月20日)

次に第一次安倍内閣の安倍総理の発言が2件ヒットしました。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 私は、昨日、御本人がよく確認をしていないということで質問をされたので、それはよく確認をしてから質問をしていただきたいというふうに申し上げたわけであります。週刊誌の記事について言えば、私についての誹謗中傷を含む週刊誌の記事はもうあまたあるわけでありまして、私は今、日本のためにすべてを、私の時間を割いていきたいと思っておりますから、一々そういう週刊誌を読むつもりはございません。(第165回国会 参議院 予算委員会 第2号 平成18年10月12日)
○内閣総理大臣(安倍晋三君) イノベーション25については、担当大臣の高市さんからも答弁させてくださいよ、そういう今誹謗中傷に近いことをおっしゃったんですから。(発言する者あり)誹謗中傷ですよ、大学生の論文とかですね。それは正に余りにも私は失礼だと思いますよ。つまり、二〇二五年にどういう社会になっているか、イノベーションを進めていけばどういうことが可能であるか。これはまた、技術の革新だけではなくて、社会のシステムも変えていかなければいけない。このように社会のシステムが変わっていくということもお示しをしているわけであって、これは是非担当大臣からも答弁させていただきたいと思います。(発言する者あり)(第166回国会 参議院 予算委員会 第3号 平成19年3月5日)

最初の発言は、安倍さんについての週刊誌の記事が誹謗中傷を含むという文脈です。次の発言は、国会の場で野党からの批判を「誹謗中傷」と言い返したものです。政府のレポートを大学生の論文レベルと批判されたことを「誹謗中傷」と発言しています。後に鳩山総理も似たような発言をしてますが、安倍さんの方が古いですから、安倍総理が国会において野党からの批判を「誹謗中傷」と最初に称した総理大臣ということになりますね。

その次は麻生太郎総理です。2回発言されてます。自分の発言が誹謗中傷ではないという答弁と、ネット選挙では誹謗中傷とかいろいろ出てくるおそれもあるという答弁です。とくに問題ありません。

○内閣総理大臣(麻生太郎君)あの所信表明の演説で民主党を誹謗中傷したというよりは、与野党の違いを明確にしたというように考えていただいた方が正確だと、私はそう思っております。(第170回国会 参議院 予算委員会 第4号 平成20年10月15日)
○内閣総理大臣(麻生太郎君)インターネットを選挙運動の手段として認めるという話はもうもっと前からいろいろこの話は出ておりました。大分前です、出した。(中略)そういった意味では、我々としては、これ誹謗中傷に限らずいろいろ、我々の想像を絶するようなものがいろいろ出てくるでしょうから、そういったときにどうするかというのをきちんと決めておかないと、福山先生、これなかなか難しいんで、これ十分に御議論をいただかにゃいかぬところだと思いまして、議論を両党間でするのはいいことだと、私どもはそう思っております。(第171回国会 参議院 予算委員会 第14号 平成21年3月16日)

小泉さんも、麻生さんも、国会における政策論争自体を「誹謗中傷」とは言ってないですね。次に、この言葉を使ったのは、鳩山由紀夫総理です。鳩山総理は、政策論争を「誹謗中傷」と言ってしまっています。これはいけません。

○内閣総理大臣(鳩山由紀夫君) 林芳正議員の御質問にお答えをいたします。まず、国家運営に臨む姿勢についての御質問がございました。私どもの政策に関して何をもって社会主義的だとおっしゃるのか、全く理解ができません。私どもは、まずは利権政治、既得権益を根絶をして、税金の無駄遣いを一掃し、さらに、国民の皆様方が豊かさと安心を実感できる、そんな政策を推進すること、主権者である国民生活のために税金を使うという新政権の基本方針、これに対して国民の皆様方の期待に反するような御指摘をいただいたわけでありますが、まさにこのような誹謗中傷ともいうべき御批判に対してはおくすることなく、国民の負託にこたえてまいりたいと存じます。(第173回国会 参議院 本会議 第2号 平成21年10月29日)

ただ、この発言については、後日、釈明を求められて次のように回答しています。

○内閣総理大臣(鳩山由紀夫君) 私ども、社会主義の政党であるかのようにおっしゃるから、それは誹謗中傷だというふうに申し上げたのでありまして、その社会主義を信奉しておられる方々を誹謗中傷しているわけではありません。そのことは御理解いただければと思います。そして、社会民主主義的な発想をお持ちの福島党首、そして社民党と連立政権を取っているということも事実でございます。(第174回国会 参議院 予算委員会 第4号 平成22年3月3日)

やっぱり、誹謗中傷という言葉は「重い」言葉だったのです。以上が、第2次安倍内閣以前の総理大臣が国会で使った「誹謗中傷」という言葉です。

第2次安倍内閣での「誹謗中傷」という言葉の使い方


第二次安倍内閣では、17件の議事録がヒットしました。うち、2件は、誹謗中傷はやめるべきという発言です。問題ありません。

○安倍内閣総理大臣 いわゆる誹謗中傷はやめるべきではないかということについては、そういう趣旨のことは話をしました、誹謗中傷はですね。
(第187回国会 衆議院 予算委員会 第4号 平成26年10月30日)
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 小西委員、もう少し冷静になって議論をした方が私はいいと思いますよ。相手にレッテルを貼ったりとか、誹謗中傷をする場所ではございませんから、お互いにちょっと落ち着いて、相手をどんどん指さしたりとか、そういうことをするのはお互いにやめた方がいいと、このように思う次第でございます。(第189回国会 参議院 予算委員会 第10号 平成27年3月20日)

また、5件は、議場の外における誹謗中傷に関する言及です。個別の事実関係を認定する時間はありませんが、いずれも場外についての発言なので、まあ、問題ありません。

○内閣総理大臣(安倍晋三君)委員の取り上げておられる私のフェイスブックでありますが、私の意見がヘイトスピーチではなくて、書き込まれている中にそういうものが散見されるということなんだろうと、このように思います。他方、それをいさめる書き込みも随分あるのも事実でございますが、そこで私のフェイスブック自体は割とコメントが多いものですから、全部を全てチェックをしているわけではございませんし、基本的に削除をどんどんしているというわけではございませんで、私自身に対する誹謗中傷も随分そこには書き込まれているわけでございますが。(第183回国会 参議院 予算委員会 第14号 平成25年5月7日)
○安倍内閣総理大臣 先ほど申し上げましたように、間違った事実を並べて日本を誹謗中傷していることに対しては、しっかりと事実をもって、冷静にかつ礼儀正しく反論していかなければならない、このように思っております。(第186回国会 衆議院 予算委員会 第6号 平成26年2月12日)
○安倍内閣総理大臣 この場を通じて、盛んに島尻さんのことを攻撃しておられます。先ほどはネットの世界の発言まで紹介しておられることに、私は大変驚きを禁じ得ないわけであります。まさにネットの世界の中において誹謗中傷は大変飛び交っているわけでありますから、それを正当化してこの国会の場に持ち込むことは、私は明らかに品位を欠いているということは申し上げておきたい、こう思うところでございます。(第190回国会 衆議院 予算委員会 第3号 平成28年1月12日)
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 先ほど外務大臣からも答弁をさせていただきましたように、海外のプレスを含め、正しくない事実による誹謗中傷があるのは事実でございます。(第190回国会 参議院 予算委員会 第3号 平成28年1月18日)
○内閣総理大臣(安倍晋三君) かつてはいわれのない誹謗中傷を浴び、まさにその中で歯を食いしばって自衛隊の皆さんが今日の信頼を勝ち得てきた、自ら勝ち得てきたものなんだろうと、こう思うところでございますが、憲法学者による合憲性に対する疑問が投げられ、教科書の状況がそういう状況になっているのであれば、そうした違憲論争に終止符を打っていくということは私たちの責任ではないかと、こう考えているところでございます。(第197回国会 参議院 予算委員会 第2号 平成30年11月7日)

国会における議場からの不規則発言(やじ)を誹謗中傷としている発言は2件です。これらは、不規則発言の内容が記録されていませんので、本当に誹謗中傷かはわかりません。

○安倍内閣総理大臣 いわば我が党は……(発言する者あり)では、それを今私が説明しますよ。民主党の皆さん、少しは静かにしてくださいよ。こちらの席と向こう側の席は行儀よくやっていますよ。ただ、自席から私を誹謗中傷するのはやめてください。(第190回国会 衆議院 予算委員会 第17号 平成28年2月29日)
○安倍内閣総理大臣 そうすると、すぐこちらの方が皆さん興奮して……(発言する者あり)誰ですか、岡本さん。いつも興奮して、やじで誹謗中傷するのはやめてください。(第201回国会 衆議院 予算委員会 第6号 令和2年2月4日)

残りの8件は、野党からの指摘に対する反応です。そのうち3件は、根拠のない批判だとして誹謗中傷にあたるのではないかという発言です。これも用法に誤りはありません。

○内閣総理大臣(安倍晋三君)ただいまの質問は、私、見逃すことできませんよ。重大な名誉毀損ですよ。吉田さんは今その事実をどこで確かめたんですか。まさか週刊誌の記事だけではないでしょうね。週刊誌の記事だけですか。週刊誌の記事だけで私を誹謗中傷するというのは、議員として私は恥ずかしいと思いますよ、はっきりと申し上げて。この予算委員会の時間を使って、テレビを使って、恥ずかしくないんですか。自分で調べてくださいよ、それぐらいは。これは全くの捏造です。はっきりと申し上げておきます。当たり前じゃないですか。(第187回国会 参議院 予算委員会 第3号 平成26年11月4日)
○安倍内閣総理大臣 TPP交渉、これはいろいろな品目がかかわっております。岡田委員が、では、影響が出ているというのであれば、具体的に言ってくださいよ。ないというものについて、ないというものを、私はないと言っているんです。ですから、そこを、一党の、公党の代表として、嫌疑をかけるのであれば、TPP交渉において、どの品目についてどういう影響を与えたかということを具体的に述べなければ、それは無責任な、ただの誹謗中傷にすぎないですよ。そのことははっきりと申し上げておきたいと思いますよ。交渉そのものを汚すようなことを言うのはやめてください。それとこの問題は別の問題ですから。そこははっきりとしておく必要があると思いますよ。(第190回国会 衆議院 予算委員会 第6号 平成28年2月3日)
○安倍内閣総理大臣 これは私が言っているんではなくて、私の支持者が言っているわけでありまして、事実、井坂さんの支持者がそう思ったんでしょう。そう思ったというのは、皆さんがそういうことをここで言ったからですよ。それは大きな、全くの誹謗中傷なんですよ。だから、極めて私は、はっきり言って不愉快ですよ。極めて私は不愉快なんですよ、私が初めてあの記事を見て、GPIFの記述を。だって、ここで、井坂さん、井坂さんも私が指示できないということを認めているんでしょう。法的にできないじゃないですか。できないんですよ。できないことをまるでできるかのごとくに言うというのは、これはデマというんですよ。できないのにできるかのごとくに言って、私がGPIFの金を向こうに持っていくかのごとくの議論というのを、これをデマというんですよ、これを。(発言する者あり)(第193回国会 衆議院 予算委員会 第8号 平成29年2月7日)

さて、以下の5件のやりとりは、野党からの「政策批判」を「誹謗中傷」と称した答弁になります。まず、平成25年に、憲法改正原案について、福島みずほ議員から国民の義務を書きすぎているんじゃないかと質問を受けます。ちょっと長くなりますけど、全文引用します。

○福島みずほ君 自民党は、参議院選挙の公約に日本国憲法改正原案を出すというふうにおっしゃっています。日本国憲法改正草案の問題点について国民の皆さんに分かっていただきたく、質問をいたします。自民党の日本国憲法改正草案が規定する国民の義務です。(資料提示)国防の義務、日の丸・君が代、国旗国歌尊重義務、領土・資源確保義務、公益及び公の秩序に従わなければならないという義務、個人情報不正取得等禁止義務、家族助け合い義務、「家族は、互いに助け合わなければならない。」と、義務が二十四条に入ります。環境保全義務、地方自治負担分担義務、緊急事態指示服従義務、憲法尊重擁護義務、十個の新たな義務がこういうふうに規定をされるわけです。憲法とは、憲法というのは、国民の表現の自由を侵害するな、無理に、きちっとしないで逮捕するなというようなことを、そういうことを規定する、国家に対して規制をするもの、国家権力を縛るものが憲法です。どうしてこんなにたくさんの義務、しかも、今あるのは国民には憲法尊重擁護義務がありませんが、新たに憲法尊重擁護義務が課されます。世界で、国防義務、公益及び公の秩序義務、家族助け合い義務などこんなにたくさんの義務を規定している憲法はありません。これは憲法じゃないんじゃないですか。どうしてたくさんこんなに義務を期待しているんでしょうか。(第183回国会 参議院 予算委員会 第17号 平成25年5月14日)

この質問に対して、安倍総理は自民党憲法改正案を読み上げようとして、福島議員から時間がないので読み上げなくてもいいと言われます。その次の発言に「誹謗中傷」というワードが出てきます。

○内閣総理大臣(安倍晋三君)いや、時間がもったいないとおっしゃっても、一方的に誹謗中傷をされたわけですから、自民党が出した憲法改正草案ですね。そして、これは自民党においてずっと議論をしたんですよ。二時間にわたって議論をしたものを今ここでまさに福島委員が誹謗中傷を行ったわけでありまして、それはやっぱり大きな問題だと思いますよ。であるならば……(発言する者あり)またちょっと今、小野議員がうるさいので、もう会場から出ていってもらえますか。(第183回国会 参議院 予算委員会 第17号 平成25年5月14日)

ああ。憲法に国民の義務を多く規定することを指摘したことに疑義を呈する質問について、安倍総理は「一方的に誹謗中傷をされた」と答弁しています。「2時間にわたって議論したもの」を誹謗中傷したって。憲法改正案については、次のやりとりの中でも「誹謗中傷」を使っています。

○長妻委員 総理、予算を執行する責任者は総理大臣なんですよね。ここは予算委員会で、予算の質疑もしますが、やはり総理が基本的にどういう立場で、予算執行するときだって人権が侵害されたらこれは困るわけでありまして、人権に対してどういう理解をされているのか、この基本的な姿勢を問うのも私はこの委員会の重要な使命だと思いますよ。そのときに総理は、人権は守られる、しかし憲法を変えるこの自民党草案の、人権を制約すると私は思うんですが、そういう条文の変更の理由については言えない、しかしあなたはデマゴーグだと。これは論理の飛躍じゃないんですか。何で説明できないのに、デマゴーグ、デマゴーグと批判するだけで、国民の皆さんの不安が広がるばかりだと思いますよ。説明できないのであれば、デマゴーグなんという、そういう誹謗中傷を取り消しなさいよ、取り消してくださいと私は思うわけでありまして、ぜひ……(発言する者あり)
○浜田委員長 静粛に願います。
○長妻委員 谷垣総裁のときにつくった憲法草案だからというような言いわけじみたことをおっしゃるから、私は申し上げたわけですよ。総理、堂々と自民党の総裁として、これまでの予算委員会でお答えになっておられるわけですから、お答えになったらいいんですよ。何か、憲法改正が近づいてくるとお答えにならないような趣旨の答弁を金曜日にされておられましたけれども、それは逆じゃないんですか。何か後ろめたいような、そういう憲法改正だったら、一旦自民党の憲法草案を引っ込めたらどうですか。そういうふうに私は思うわけでありまして、ですから、総理、説明できないんだったら、デマゴーグという批判、誹謗中傷を撤回してください。(発言する者あり)
○浜田委員長 静粛に願います。
○安倍内閣総理大臣 また単なる誹謗中傷をしましたよ、今。どういう誹謗中傷かというと、我々が予算を執行するに当たって、人権を無視して予算を執行するかもしれないということを言われましたね。我々全員、憲法を遵守するという義務を負っています。憲法違反をして予算を執行するということはあり得ないじゃないですか。あり得ないことをあり得るかのごとく言うというのをデマゴーグというんですよ。重ねて言わせていただきますよ、それは。そういうことばかり言っているからなかなか、難しい問題に当たっていくんですよ。(第192回国会 衆議院 予算委員会 第3号 平成28年10月3日)

ああ、このやりとりはひどいですね。長妻さんの言葉に反応して、あんたも誹謗中傷したじゃないかと言ってしまいました。それも、「人権を無視して予算を執行するかもしれないということを言われましたね」って、言ってないですね。憲法改正案の趣旨について問われて、「憲法違反をして予算を執行するということはあり得ないじゃないですか」って、反論にもなってない。

3件目です。以下のやりとりも、明確に「政策批判」を「誹謗中傷」とした答弁です。保育士の給与を上げる際に、まず女性の平均賃金まで上げるという政策を、山尾志桜里議員から、中間目標として「女性の平均賃金」を用いることは妥当ではないと指摘されています。保育士には男性もいますしね。中間目標としてまず「女性の平均賃金」とするという政策自体は保育士全体の中の女性比率などから考えると一定の合理性はあるとおもいますが、安倍総理は、この政策批判を「誹謗中傷」としています。

○安倍内閣総理大臣 そこで、まずは、これは別に差別をしているとかそういうことでは全くないんですよ。確かに低い水準だからちゃんと段階を追って上げていこうということでありまして。今、まずはここまでは追いついたけれども、でも、一気に全部やる、それがそう簡単なことであれば、皆さん、民主党政権時代におやりになればよかったじゃないですか。なぜそれができなかったんですか。それは、そう簡単なことではないからですよ。それはそう簡単なことではない。ですから、私たちはまずはそこまで上げていくということでありまして、この問題は、ただ単に相手をののしったり誹謗中傷する話じゃないんですよ。これは、みんなで保育の現場をよくしていこうということなんですよ。そこで地に足のついた議論をしていくべきではないでしょうか。また厚生労働大臣からも答弁させます。
○山尾委員 総理、撤回されないんですね。女性の平均賃金まで保育士の賃金をまず上げることを目指すと、この予算委員会で多分総理が初めて発言されたと思いますけれども、総理が発言された。撤回しないんですね。私が申し上げたいのは、一気に十一万、難しいですよ。なぜ、徐々に上げていこうというときの途中の物差しが女性の平均賃金である必要があるんですか。私たちは、あり得ないと思いますよ。だから……。まだ私がしゃべっています。五万円上げましょう、こういう法案を出しているんです。女性の平均賃金にまず合わせていくということに対して、私が今批判をしています。これを総理はののしっているとおっしゃいました。あるいは誹謗中傷だとおっしゃいました。日本の人から見ても国際的に見ても恥ずかしいことだと思いますよ。それを指摘されて、おかしいと思わないんですか。今この場で、もし、女性の平均賃金という物差しが適切なんだと、だったら、なぜ途中の物差しとしてそれが適切なのか、しっかり答えていただきたいと思います。このままいったら、女性活躍政権どころか男尊女卑政権だと言われますよ。
○安倍内閣総理大臣 まさに今のが、山尾さん、誹謗中傷なんですよ。私は全くそんなことは言っていないじゃないですか。全く議論をすりかえています。まず、落ちついて聞いていただきたいと思います。つまり、保育士として働いている女性の皆さんが全産業の女性の皆さんよりも低い、まずは低いという問題があります。それとプラス、保育士においては男女の差が他の全産業と比べてそれほど大きくはない中において、まずはそれを上げていく。しかし、私はそれを肯定しているわけではないんですよ。男女差、私は一度もそれを肯定したことはないんですよ。それを、はっきりと意図的に山尾さんは、それを混同しているかのごとく。そういう議論をしているから軽薄な議論になってしまうんですよ。
(第190回国会 衆議院 予算委員会 第20号 平成28年5月16日)

安倍さんは、「もりかけ」の際にも「誹謗中傷」という言葉を使ってます。「私の名前が付いていれば全部物事が進んでいくかのごとくのこの誹謗中傷はやめていただきたい」ということですが、該当の案件についてどうであったかということと、要望は全部通っていないという反論が噛み合っていません。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) お答えする前に、私や家内がバックにいれば役所が何でも言うこと聞くんだったら、福島先生、長門市と私の地元、予算全部通っていますよ。誰が考えたって、私の地元でしょう、そこから要望する予算が全部通っていますか、通っていませんよ。様々な要望をしているけど、これ全部通っていませんよ。通っているのもあれば通っていないのもありますよ。そんな簡単なものではない。そういうのを言わば印象操作というんですよ。そんな、そんな、言わば、安倍政権のみならず、政府あるいは行政の判断を侮辱するような判断は、侮辱するような言辞はやめていただきたいと思いますよ。しっかりと皆さんちゃんと真面目に業務に精励しているわけでありまして、それが、それがまるで私の名前が付いていれば全部物事が進んでいくかのごとくのこの誹謗中傷はやめていただきたいと、こう思う次第でございます。(第193回国会 参議院 予算委員会 第11号 平成29年3月13日)

以下の5件目の答弁ですべてです。安倍さんは、野党は「さんざん私に対しての誹謗中傷をしている」という認識なのですね。

○安倍内閣総理大臣 私は一回も、特例水準を出したのは私の手柄だと今一言でも言いましたか。全く言いませんよ。(玉木委員「もうそんなつまらない議論はやめてください」と呼ぶ)いや、つまらない議論って、あなたはそうやって批判したじゃないですか、今私を。した以上、私はそれを取り消せなんて子供じみたことは言いませんよ。そんな子供じみたことは言いませんけれども、でも、私は今一言も言っていませんよ。我々の政権の手柄だと一言でも言いましたか。それを事実として、私は特例水準だったということを言っているだけじゃないですか。特例水準をいつ解消したかとも言っていないでしょう。特例水準を、確かに解消を決めたのは皆さんですが、実施したのは私たちですよ。ここで言わせていただければ、実施するというのも大変ですよ、そのときに高齢者はみんな自分の年金のあれを見るわけですから。さんざん私に対しての誹謗中傷をしているんですから、少し反論もさせていただきたいと思いますよ。言っていないことを言ったと言うのはおかしいということは言わせていただきたいと思いますよ。それと、やはり年金というのは冷静に議論するべきなんです。そこで……(発言する者あり)私は大体答えているじゃないですか。大体答えていますが、深掘りをしていくのであれば厚生労働大臣を呼んでくれと言うのは当たり前ですよ。だって、ほかの質問者は、維新の方だって共産党だって呼んでいますよ、担当大臣。玉木さん、あと山尾さんぐらいなものですよ、呼ばないのは。大串さんも呼ばないのかな。(第192回国会 衆議院 予算委員会 第5号 平成28年10月12日)

結論

長々とすみません。安倍総理が国会で「誹謗中傷」を多用するようになったので、その発言について、国会の場では問題視されなくなってしまいました。政府に対する批判全般を「誹謗中傷」と認識する人が増えていることは事実です。たとえば、足立康史議員は、国会で以下のような発言をしています。この人は、野党でしたっけ。

○足立委員 ありがとうございます。今聞いていただいたように、一部野党の皆さんは、安倍政権のことを、安倍総理を取り上げて、何かアベノマスクとかひどい誹謗中傷をネットとかでもしています。(第201回国会 衆議院 経済産業委員会 第7号 令和2年4月15日)

でも、国民が政府の政策についておかしいと感じて声を上げること(政策批判)と、根拠なく悪口をいって追い込むこと(誹謗中傷)は全く違います。民主主義は、選挙制度において選挙権を行使すれば、その後は民衆は為政者に全権を委任しろということを意味しません。民主主義においては、民衆は、為政者に対して、常に意見を述べる権利があります。政府の政策についておかしいと発言することを、誹謗中傷といって非難することは、このような民主主義のプロセスを萎縮させることにつながります。民衆からの発言が萎縮してしまえば、政権の独走が止まらなくなります。

政策批判と誹謗中傷の区別がつかない人が総理をやっているなんて、世も末ですね。これも誹謗中傷といわれるのかな。でも、根拠は書きましたよ。

(5月28日0:45追記)今回のエントリーがはてなブックマークに上がっていて、いろんな人にみていただいているようです。わたしのスタンスは上のNoteに書いてあるとおりですので、よろしくお願いします。

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