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(2020/11/1)【SDGs-NY: Vol 19】米市場の動向: 2020年大統領選挙の要因と米金融アナリストらの今後の予測

  【SDGs】 サステナブルな経済成長と政治の安定化を目指して


【大統領選挙直前の市場、乱高下―ボラティリティ要因は3つ】

米国株式市場は10月28日に再び急落した。米ダウ平均株価の終値はマイナス943を記録し、主要3指数は軒並み3%超安で終了した。
(注:主要3指標とは、アメリカの代表的な株価指数のこと。ダウ平均株価、S&P500、ナスダック総合指数の3つを指す)

米国内では10月27日に、全米12州でコロナ感染症の入院患者が過去最多を記録していた。まさに3月にロックダウンしたニューヨークを上回る勢いで、各州の病院ベッド数は逼迫している状況に陥っている。

他方、この日欧州のフランスとドイツで、新型コロナ感染が再び拡大し再度の都市ロックダウンが決定した。これにより欧州市場が下落し不安材料が勃発し翌日NY市場に飛び火するというダブルのマイナス要因となった。

つまり今回10月28日の市場急落は、全米12州での感染者が過去最多を記録と欧州での新型コロナ禍の再拡大、ワクチンの見通しが依然として不透明、それに加えて、11月3日にくる米国を2分化している大統領選挙の先行き不透明感が、市場不安を後押しした。

10282020 _市場急落ダウ マイナス943

                                                                           (Photo:筆者Iphone)

上記の現状を踏まえると、今回の市場ボラティリティ要因は以下の3つに絞ることができる。

<10月28日の市場急落のポイント>
① 全米12州でコロナ感染症の入院患者が過去最多
 仏・独など欧州が再度ロックダウンとコロナ感染の第3波が市場連鎖
②大統領
選挙の先行き不透明感が長引くほど米国の信用力低下
③新型コロナのワクチン開発の見通しが明るくないという不安感


これらの材料が一気に市場を圧迫したとみられる。


ここ以下では、11月3日に米国を2分化している米大統領選挙日を迎えることから、大統領選挙の先行き不透明感と政治リスクが、米市場に対するリスク要因になることを踏まえて、選挙がどう市場に影響を与えるか、米金融アナリストらの見解をもとに纏めてみた。

大統領選2020

1)大統領選の勝敗が長引く不確定な政治リスク:

選挙の結果に関わらず、勝敗が長引く不確定な政治リスクで市場は選挙後も混乱を招く可能性が大。米金融アナリストらはそれを強く警戒している。

米大手金融JPモルガンのエグゼクティブエコノミストおよびS&P500のアナリストは、以下のように市場の混乱を予測している。

2016年の前回の大統領選挙では、民主党のヒラリークリントンが優勢と伝えられていた世論調査にもかかわらず、予想外にも土壇場でトランプ氏の勝利となり、金融市場は大きく揺れた。

しかし、今回金融市場が強く警戒しているのは、共和党のトランプ現大統領、民主党のバイデン候補の勝敗の結果を受けて市場が混乱することよりも、選挙結果がしばらく確定しないことによって生じる市場の混乱である。

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米大統領選挙では、敗れた候補者が潔く負けを認めることが昔から伝統であったが、仮にトランプ大統領が敗れる場合には、自分の負けを認めない可能性がある。その場合、トランプ支持者が各州各地で抗議デモや暴動化することが懸念されるからだ。

また、新型コロナの第3波が米国全土を襲っている今、感染リスクを警戒して、今回の選挙は郵便での投票を選ぶ有権者が多数。期日前に投票した人はこれまで9000万人を超えて、これは4年前の全投票の3分の2に達したと報道されている。

しかしトランプ大統領は、郵便投票は二重投票の可能性を高め、不正の温床になると繰り返し発言してきた。そうした発言でもわかるが、トランプ大統領が選挙に敗れた場合、負けを認めないことだろう。

つまり大統領がトランプ氏かバイデン氏かのいずれかに確定するまで長期間かかる可能性があると考える米金融アナリストは少なくない。

大統領選挙1

                                                                        (ABCnews:  Presidential Debate)           
他方、事前の世論調査ではバイデン氏が大きくリード(全米の世論調査ではバイデン氏が平均で8.4%リード)する中で、バイデン氏が敗れる場合、民主党に有利とされる郵便投票を、共和党が妨害行為が行ったなど共和党に対する批判運動に火がつくと予測される。バイデン氏の支持者の間で不正選挙とかかがえた抗議活動が勃発する可能性も想定される。


2)いずれにしても民主主義の信頼がさらに低下する可能性が高い。

米国の選挙は民主主義に則って行われていることを踏まえると、大統領選挙の結果が直ぐに確定しない事態となれば、それは米国の民主主義制度に対する信頼性を損ねることになると多くの金融アナリストは指摘する。

現在でも、民主党・共和党の両党間の対立から、追加のコロナ経済対策が決まらない状況が数か月も続いており、すでに米国は民主主義基盤の脆弱性を露呈している。

これに嫌気をさした米国金融市場は、2020年4月の大暴落から一時的に右肩上がりに回復していたものの、ダブル要因(新型コロナの感染拡大と併せて政治の不透明感)で再び10月下旬に急落。

米国ダウ推移 

                        (Newsweek)

そんな中、11月3日の選挙結果がすぐに確定しないという事態が重なれば、米国の民主主義に対する国内外の信頼性はさらに一段と低下することは目にみえている。

もしトランプ大統領が開票前に勝利宣言をしたり、敗北を認めなかった場合には、民主党支持者による抗議デモが全米で500件以上も計画されているという。最悪の場合、抗議デモは警官らとの衝突や暴動にもつながりかねない。

こうした政治リスクが勃発すれば、米国の金融市場の安定性のみならず、世界の金融市場に大きな打撃を与えることは避けられない事態となることが予測される。

米国ダウ推移

                                                                                                  (Newweek)

結果として、米国株価の再下落、米国金融市場への不信に反応したドル逃避(ドル安)を生じさせることになり、ドル安が発生すれば、その影響はアジア・欧州の金融市場にも飛び火し、各国の経済活動も連鎖的に悪化あるいは停滞に追い込まれることになる。

特に、ドル急落となれば、日本では急激な円高が経済活動や株式市場に大きな打撃となる事態も考えられる。その後もドル安円高がさらに続くであろうことを想定すると、欧米企業の含む海外と取り引きのある多くの企業は、さらに倒産の危機に追い込まれるだろう。


3)【2020年前半の振り返りと今後の予測】

JPモルガンの 「Quarterly Perspectives」の金融アナリストらへの問答調査によると(抜粋)

Q. 今年の金融市場の動きを振り返ると?
A. 2月から始まった市場急落は4月に底を打ち、8月には下落前の水準を回復、これは従来からみて異例の回復の動き。

1950年代以降の過去の米国株式の推移・回復トレンドと比べると、新型コロナの感染拡大がもたらした直近の市場ボラティリティの動きは、下記3つの特徴が見られる。

 ①米ダウ のピーク時からの急落が速く、1週間で13000ポイント急落。
  S&P500は2月にピークを記録したあと、3月下旬には34%下落。

 ② 底打ちするタイミングが早い。米ダウもS&Pも約1か月で底打ちした。
  S&P500は、2月の下落から8月中旬には下落前の水準に回復。

 ③ 総じて、全体的に下落前の株価水準に回復するまで4か月と短かった。

米国ダウ推移 3

                        (Newsweek)
             

しかし、新型コロナ禍の次に、いま米政治リスクへの懸念が高まっており、大統領選挙後の各両党の動き次第では、実体経済が以前の状態まで戻るにはまだ時間を必要する、最悪の場合数年かかると米金融アナリストらは慎重な姿勢をみせている。

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                                                         (NY Wall Street外観 / 筆者撮影)

Q. 今後の経済の見通しは? 米市場と金融アナリストの注目点は?
A. 力強い景気回復は終わり、回復ペースは鈍化へ。目先の投資家の注目点は、①経済対策と信用安定、②コロナ対策とワクチンの動向。

9月にThe Motley Foolが行った全米登録有権者を対象にしたオンライン調査を基に、次期大統領に期待するテーマを見ると、コロナ禍における経済対策や雇用改善策、ワクチン開発等の対応策といった要望が強く、家計の好転を重要視する傾向にあることが明らかとなった。

2020年選挙において重視するテーマ

                     (The Motley Fool調査)

上述のように米大統領選挙の不確定要因と新型コロナの拡大で、米金融市場が不安定なまま景気回復ペースが鈍化する中、上調査結果を踏まえて、今後の市場の見通しを短期、中期、長期視点でまとめてみた。


① 短期視点:年末にかけてのリスク要因:

①新大統領の未確定による各地での暴動デモと米信用リスク懸念高
②大きな暴動やデモが勃発しなければ、今の小さい乱高下の状態のまま緩やかな右肩上がりで回復
③新型コロナウイルスの拡大感染(フランス・ドイツでの再ロックダウンからの影響)影響による下落

② 中期視点:年末~来年初旬の2~3か月:

①大統領選挙後の不確定(長引く新大統領未決)と経済回復の遅延
②新型コロナ感染拡大と各都市ロックダウン長期化
③ワクチン開発の見通しが不透明


③ 長期視点:金融市場が新型コロナ禍前の水準に戻る要因として:

①新大統領の選出確定と新たな新経済政策の公約による市場安定化
②雇用創出の拡大
②ワクチンの開発成功で、新型コロナが収束に向かうとの期待が高まる


上記のように段階的にみる短・中・長期的な要因が、米市場の乱高下、あるいは安定化に影響する材料となると米金融アナリストらはみている。


いずれにしても、早い段階での新大統領決定と新たな経済政策の打ち出し、および全米に広がる新型コロナ対策の対応が急務であり、それにより米ダウ平均株価(主要3指数:S&P500 とナズダック)の安定回復につながることは明らかである。

まずは11月3日の大統領選挙での共和党トランプか民主党バイデンか、正当な選挙開票による新大統領の正式な早期確定に期待したい。


  【SDGs】 サステナブルな経済成長と政治の安定化を目指して

SDGs ウエディングケーキ


(参考資料)
米金融JPモルガン・モルガンスタンレー
S&P500アナリスト
The Motley Fool調査
FT・ファイナンシャルタイムズ紙
PWC・プライスウオーターハウス


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【SDGs NY】Vol. 19
(2020/11/1) サステナビジネスNYから見た所感
Hiroko Furuichi
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執筆:古市裕子  (本文は個人の見解)
NY Marketing Business Action, Inc 代表取締役
US JAPAN Career Network
日米キャリアコンサルタント・厚労省国家資格
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国連フォーラム幹事・所属
SDGs NY(持続可能な)×次世代×事業再生・企業存在価値

(略歴)
NY市立大学大学院・政治経済学国際関係論修士課程卒。
1998年~2015年:ジェトロ・ニューヨーク(経済産業省貿易保険部NY)。
(⁂現在の NEXI 日本貿易保険)。 中南米各国カントリーリスク及び企業信用リスク調査に従事。当時「貿易保険」誌や「通商弘報」(METI刊行物)・「New American Policy」ジェトロ配信等にリスク分析レポを寄稿。

2015年独立起業。国連提唱SDGs×企業価値×キャリア支援の観点から、多数
日系企業のNYビジネス進出支援や市場調査、またキャリアコンサルタントとして次世代への日米キャリア支援も手掛ける。

オフィシャルサイト:https://ny-mba.com


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