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〈問〉 SDGs実施指針および当指針の改定内容を教えてください。

〈回答〉

2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の実施における重要な挑戦に取り組むための国家戦略となる実施指針です。当アジェンダにある17の目標と169のターゲットのうち、日本が特に注力すべき8つの優先課題と具体的施策が示されており、政府、関係府省庁、ステークホルダーなどすベての関係者が課題解決のために連携することが期待されています。
2016年12月に最初の実施指針が発表され、その後、取組み状況の見直しを受けて、2019年12月に一回目の改定、2023年12月に二回目の改定がなされました。

〈補足〉

  1. ビジョン、実施原則および8つの優先課題と具体的施策により構成

  2. 一回目の改定を実施(2019年12月)

  3. 二回目の改定を実施(2023年12月)


〈補足詳解〉

1.

SDGsの17の目標と169のターゲットの中には、日本国内において既に達成されているものが多くありました。少子高齢化に対応するために「一億総活躍社会」に取り組んでおり、経済政策を一層強化するとともに子育て支援や社会保障の基盤を強化するなど、すでに他の先進国に先駆けてSDGsの取組みを実施していました。しかし、それでも国内外において取り組むべき課題は依然として多くあることから、2016年10月に、SDGs推進本部がSDGsの中で特に注力すべき8つの優先課題(上図)と具体的施策を絞り込み、これにビジョン実施原則を含んだ指針の骨子を策定しました。同年12月、この骨子を基にした「SDGs実施指針」が策定されました。この優先課題の取組みにおいては、次の5つの実施原則を重視しています。

  • 普遍性:国内実施と国際協力の両面で率先して取り組む。

  • 包摂性:誰一人取り残さない。国内実施、国際協力のあらゆる課題への取組において、人権の尊重とジェンダー平等の実現を目指し、子供、若者、高齢者、障害者、難民、国内避難民など、脆弱な立場におかれた人々一人一人に焦点を当てる。

  • 参加型:脆弱な立場におかれた人々を含む誰もが持続可能な社会の実現に貢献できるよう、あらゆるステークホルダーの参画を重視し、全員参加型で取り組む。

  • 統合性:経済・社会・環境の三分野の全てに、複数のゴール・ターゲットの相互関連性・相乗効果を重視しつつ取り組む。

  • 透明性と説明責任:取組状況を定期的に評価し、公表・説明する。

8つの課題のうち「①あらゆる人々の活躍推進」の具体的施策の例

実施指針には、この他に、取組み状況の把握のために統計データや地球観測データを積極的に活用することや、KPI(重要業績指標)となる具体的な指標を可能な限り導入することが求められています。また、SDGs推進本部による当実施指針の取組状況の確認(モニタリング)、及びこれに基づく指標の策定・ 修正を含む見直し(フォローアップとレビュー)は、3年後の2019年を目処に実施することとなっていました。

2.
SDGs推進本部において取組み状況の見直しが行われ、2019年12月に実施指針の一回目の改定が行われました。
実施指針決定から3年が経過し、国際社会が新たな課題や一段と深刻化した課題に直面する中、SDGsの取組みが遅れている現状を踏まえて、国内外における取組みを加速させるために、時代に即した形で実施指針を改定することが決定しました。

2019年11月時点で、SDGsの認知度は国民の約4人に1人に達していたものの、社会的課題の取組みが遅れていることが指摘されていました。ドイツのベルテルスマン財団と持続可能な開発方法ネットワークが共同で発表した2019年の報告書において、SDG5(ジェンダー)、SDG12 (生産・消費)、SDG13(気候変動)、SDG17(実施手段)、SDG1(貧困)、SDG10(不平等)等の取組みに課題があると評価されてしまいました。また、OECDが発表した2019年の報告書においても、SDG5(ジェンダー)、 SDG10(不平等)、SDG11(都市)の取組みに課題があるという評価でした。
また、SDGs推進円卓会議(SDGs推進本部直下)においてパブリックコメントを実施したところ、303件のコメントが提出され、ジェンダーに関するコメントが3割に達したことが報告されました。他にもステークホルダーの参画強化や教育等について声が上がっており、これらパブリックコメントの声を反映した上で、初版から大幅に加筆される形となりました。女性活躍中小企業の支援と共に、サステナブルファイナンスの積極的な活用や気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同など、ビジネス面における具体的な取組みが盛り込まれました。

それぞれの企業が経営戦略の中にSDGs を据え、個々の事業戦略に落とし込むことで、持続的な企業成長を図っていくことが重要である。また、官民が連携し、企業が本業を含めた多様な取組を通じてSDG達成に貢献する機運を、国内外で醸成することが重要である。 また、ジェンダー平等及び女性のエンパワーメントのために、包摂的かつ公正な労働市場を促進する。地球規模課題や社会課題に企業活動が与える影響に対する消費者の関心の向上や、ESG投資の活発化により、大企業を中心に経営層へのSDGsの浸透は一定程度進んできたが、企業数でみると99.7%を占める中小企業への更なる浸透が課題となっている。中小企業は、地域社会と経済を支える存在であり、SDGsへの取組を後押しすることが重要である。

SDGs実施指針第二版 (3)主なステークホルダーの役割 (ア)ビジネス より抜粋      

SDGs達成に必要な資金を確保するためファイナンスの裾野を継続的に拡大していく観点から、SDGs達成に向けた取組を様々な手法で経済活動の中に組み込んでいくことが重要である。公的資金(財政資金等)と民間資金(投融資等)の両者の有効な活用・動員、資金量の拡大・質の充実を考える必要がある。SDGs達成のために、持続可能な社会の創り手として社会課題の解決を進める市民社会団体・民間非営利団体等への資金的な支援も不可欠である。SDGsは、すなわち経済、社会及び環境という持続可能な開発の三側面を調和させるものであることから、環境・社会・ガバナンスの要素を考慮するESG金融やインパクトファイナンス、ソーシャルファイナンス、SDGsファイナンス等と呼ばれる経済的リターンのみならず社会貢献債としてのJICA債の発行など社会的リターンを考慮するファイナンスの拡大の加速化が、SDGs達成に向けた民間資金動員の上で重要である。今後、ESG金融の拡大に向けた支援やこれらファイナンスを実用化するに際しては、それらの仕組みの情報開示に努め、 有効性を検証していく必要がある。また、気候変動対策、脱炭素化等を進めるためのファイナンスは重要である。近年、G20の要請を受けて設置された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が2017 年に公表した「TCFD 提言」を踏まえた企業の気候関連情報の開示への関心が国際的に高まってきており、今後、TCFDの考え方に基づく企業の積極的な情報開示や、投資家等による開示情報の適切な活用を進めていく必要がある。

SDGs実施指針第二版 (3)主なステークホルダーの役割 (イ)ファイナンス       

3.
SDGs推進本部において取組み状況の見直しが行われ、2023年12月に実施指針の二回目の改定が行われました。2023年はSDGs達成に向けた中間年であるものの、2023年9月に開催された「国連SDGsサミット」において、国連事務総長より、SDGs 達成が危ぶまれていることについて強い危機感が共有されました。SDGs推進本部は、当年に4年ごとの見直しを実施したこともあり、今いちど国内外における取組みを加速させるために、二回目の改定を決めました。

2023年11月時点で、SDGsの認知度は国民の約9割に達していたものの、引き続き社会的課題の取組みの遅れが指摘されていました。経済協力開発機構(OECD)による2022年版報告書では、依然として目標 5(ジェンダー)、目標 10(不平等)等で課題がある旨が指摘され、2022年に開催された「SDGs 実施指針改定に関するパートナーシッ プ会議」を経てSDGs 推進円卓会議の民間構成員が作成した政府への提言においても、企業や環境分野の取組に重点が置かれる一方で、貧困、ジェンダー、人権等の社会的側面への取組みに課題があるという内容でした。
SDGs円卓会議における意見交換、民間構成員からの提言やパブリック・ コメントの結果(提出119件)を反映させた上で二回目の改定が行われ、8つの優先課題の下で5つの重点事項を加速させることが示されました。

①持続可能な経済・社会システムの構築
「人への投資」GX・DX の推進による経済・社会改革を進め、インパクト投資やESG 投資等の促進を含め、社会課題の解決を担う事業者の支援を強化する。
②「誰一人取り残さない」包摂社会の実現
こども施策の抜本的強化、質の高い公教育の再生、女性登用の加速化を含む女性の活躍、孤独・孤立対策等を強化する。
③地球規模の主要課題への取組強化
気候変動や生物多様性を克服するためにネット・ゼロを加速する。気候変動は、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)を通じてアジア地域の脱炭素化を主導や、「仙台防災枠組 2015-2030」の推進を国内外で加速する。生物多様性は、「昆明・モント リオール生物多様性枠組」を着実に実施する。
④国際社会との連携・協働
環境や国際保健等の分野における新たな法的文書の作成といった国際的なルール形成に貢献、AIを含む新しい国際的なガバナンス体制づくりに貢献する。日本の財政状況を踏まえた上で政府開発援助(ODA)を拡充する。
⑤平和の持続と持続可能な開発の一体的推進
HDP(個人の保護、個人の能力強化、様々な主体間の連帯)を柱とした「人間の尊厳」を中心に置いた開発協力を推進する。

一回目の改定で強調されたビジネスとファイナンスについては、ビジネス面では革新的なデジタル技術やビッグデータを活用すること、ファイナンス面では気候変動対応や国際保健分野に資金の流れを強化していくことが具体的に示されています。

〈あとがき〉
実施指針はSDGs活動を行う上で最も重要な考えが盛り込まれた文書です。実際のところ、当指針をどれだけの方が読み込んでいるのかとは思いますが、これからの日本全体の動きを先取りできるので、ザッとでも目を通した方が良いでしょう。

〈参考〉