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宇宙とカサンドラ

私の夫も発達障害の診断があるが「ハッキリしない物事を明らかにしたい」という一心で、相手への追及が強くなることがある。それを私も昔、自分の母親相手にやっていた。

母はガッツがあるけど結構天然で、周囲の人たちは母の言うことに対してたびたびハテナを浮かべる。私はそんな母にイライラして、母の曖昧な表現を許せなかった。「曖昧さを認めてもらえないのは結構きついんだな」と今なら感じる。

キャパシティとキャパシティの対決。全部をいちいちキッチリ定義してられないというキャパ VS 定義したいがために気を配れないキャパ。みんな、自分の中にどっちのキャパもある程度あると思うけど、相性次第では火種になったりすると思う。

私は夫に詰められる(本人的にはただ事実を追っているだけ)という経験を通して、私は母の曖昧さに寛容になってきた。しかも私の父親は、何もなくても威圧的でいちいち嫌な言い方をするという人物だったので、困った夫と娘に挟まれてきた母の苦労を理解した。

ということをブログに書いた次の日、あるやりとりで久々に母に対してイライラした口調で話してしまった。母に頼まれたことの前提事項があまりに不明瞭で、私は鼻息荒く説明を求めた。

その時、私は呼吸が荒くなり、早口になり、「この前提がわかっていないのは信じられない」という気持ちでいっぱいだった。夫もこんな感じなのかなと思った。私は夫と母、どっちの気持ちも味わった。

思い出すに、昔の私はもっとくだらない、別に怒らなくていいところ、ハッキリさせなくていいところで母に腹を立てていた。

で、そう詰める側の本人はキッチリしているかというと、夫も私も自分自身のことには結構ルーズだ。この元々ルーズな私が、夫によって、待たされる相手の気持ちや、振り回されるほうの気持ちを理解することになるとは予想していなかった。

時間や準備に関しても私は母を散々振り回してきた。高校時代、私がしょっちゅう朝のバスを逃すので、忙しい母が本数の多い遠くのバス停まで送ってくれていた。ある朝、母がバタバタ準備していて、階段を下るときに最後の段を踏み外して転倒した。それを私は見下しながら「何してんの?」と冷めた声で言った。母はとても惨めな気持ちだっただろう。

私が母に抱いている罪悪感のひとつである。

個人的には、私は社交性に乏しく共感性があるタイプ(今は)で、夫には社交性があるが共感性に乏しいタイプだと思っている。

作家の筒井康隆の作品に、カサンドラを想像させるような短編がある。『最悪の接触(ワースト・コンタクト)』という作品だ(『宇宙衞生博覽會』収録)。これは、初対面の異星人同士が同じ言語を使ってしばらく共同生活をしてみるという話だ。

地球人と「マグ・マグ人」という生命体がしばらく一緒に過ごすのだが、マグ・マグ人の言っていることは支離滅裂だ。同じ言葉を喋っているのに絶妙に噛み合わない。ただ、マグ・マグ人にとっては、地球人の言うことこそ支離滅裂で、対話を試みるも最終的にはお互いにノイローゼのようになってしまう。

私も結婚後、夫に対してとんでもない奇天烈言動をして困らせた場面もあったし、今も気づいてないだけで何かが炸裂しているかもしれない。

自分の人生、いろんな場面で「説得」をされていたに違いない。違いないというのは、私本人にはいまいち通じていないためである。

私は周囲から何かを注意されても結構「???」状態で生きていた。日本語で何を言われているか文章としてはわかっていたが、注意される理由がその心情がいまいちわからなかった。しかし、いろんなやらかしを今思い出すに、周囲も私について「???」状態になっていたに違いない。

私が困ったことするので、周りは私にそれを尋ね、説明し、説得する。そこでスッと内容が通じるようであれば、ここまでのモンスターではなかっただろう。私はかなり大人になってから「当時のあれってこういうこと!? そりゃ指摘もされるわ!」となっている。

夫とのトラブルを振り返ると「もしかして、これは、ふざけてなくて、本人は”真剣に”そう思っているのか?」と思える場面が多かった。向こうは自信たっぷりに話すのだが、私から見れば、理屈の通らない困惑するような主張に感じることも多い。

話にならない、と私と夫は互いに口にした。向こうにとっては私の言ってることが無理難題で不可解。そもそもじゃあ異星人と共同生活をしなければいいと思われるだろうが、世の中見渡して、結婚と離婚ってそんな単純なものじゃないと、結婚したことある人なら感じると思う。大体の人が「ゆ〜て、うちは大丈夫だ」と思って結婚するんじゃないかな。

本人は自身のキャパの中で一生懸命やっている。訳のわからないことを言われて、訳もわからないなりに返している。仕方がないところはある。だが、それはそれとして「個人として嫌な思いをした」ことも事実。どちらの視点も大切な気がする。周りにとって私はマグ・マグ人だったし、私にとって夫はマグ・マグ人。これが私の言い分だ。

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