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男子10000mエチオピア選考会のハイライト動画と3人の日本人選手の結果(相澤晃、市田孝、伊藤達彦)

2022年6月5日にオランダのヘンゲロで男子10000mのエチオピア選考会が開催された。これは、FBKゲームという国際陸上大会に付随したレースであるが、毎年この時期に世界大会のエチオピア選考会が開催されている。

エチオピアの中長距離選手達は、世界で最も高地であるという環境で試合が行われているが、高地の記録は平地よりも劣ってしまうため、標準記録の突破も兼ねて平地で10000mが開催されている。

元々、10000mは近年ダイヤモンドリーグ のレースから省かれてしまい(世界陸連はコンパクトな放映時間の陸上大会を目指しているため:90-120分程度のテレビ、ライブ配信枠)、1990-2000年代のように10000mのレベルの高い欧州の競技会が減ってしまった。

ヘンゲロ の10000mではかつてハイレ・ゲブレセラシェが1998年に26:22.75 の世界記録をマークするなど、ハイレベルな戦いが行われていた場所である。今回のエチオピア選考会の10000mでは日本から3選手が参加した。

相澤晃、市田孝(ともに旭化成)、伊藤達彦(Honda)と2022年の10000m日本選手権のトップ3の選手達が、ユージン世界選手権の参加標準記録を目指して6月中旬のホクレン深川大会ではなく、今回のエチオピア選考会に急遽参加することとなった。


今のエチオピア勢と日本TOP3の現在地

※3位のアレガウィは26:46.13 PBが正式記録。

レース結果はエチオピア勢が上位を占め、26分40秒台の決着。東京五輪王者のセレモン・バレガはさすが、というレースぶりだった。バレガはこのレースの1週間前にアメリカで5000mを走り(DLユージン、13:07.30 3位)、このレースの4日後にローマで5000mを走った(DLローマ、12:54.87 4位)。

2位のタデッセ・ウォルクは昨年のU20世界選手権3000mで優勝、5000mで2位。現在はT.ベケレ、M.エドリス、そして今回4位のY.ケジェルチャらとアディダス契約選手のトレーニンググループに所属する若手のホープ(コーチ:N.ウォルク)。

3位のベリフ・アレガウィは東京五輪10000m4位で、昨年のDLファイナルで5000m優勝。今年は室内3000mで7:26.20の世界歴代5位をマークし、DLユージンの5000mで12:50.05と圧勝。ウォルクは20歳でアレガウィはまだ21歳と若く、エチオピアの5000、10000mの未来は明るい。

4位のヨミフ・ケジェルチャはバレガ、アレガウィとともに10000mで東京五輪に出場して8位。今回は26:49.39で代表入りを逃したが、このレースの4日後のDLローマで12:52.10をマークして5000mの代表候補に名乗りあげた。

(今回2位のウォルクと4位のケジェルチャの2022年4月21日の練習風景)

一方の日本勢は3人とも28分台の記録に終わり、参加標準突破とはならず、今の日本のトップ3の選手が、3人ともベストパフォーマンスとは言えなかった。

このトップのエチオピア勢と日本勢との今回の10000mでの1-2分の差(周回遅れ)はとても大きく、走った3選手や指導者、関係者、そして日本の長距離ファンでさえもこの現実を受け止めるしかない。

海外遠征は時差やコンディショニングが難しいということもあるが、バレガに関してはこの12日間でアメリカ、オランダ、イタリアで3レースを走っている。

また、東京五輪に出場したアジア、オセアニア以外の選手は時差だけでなく、隔離された状態で調整が難しかったように思う(日本での事前合宿ができず直前の入国に変更を余儀なくされた海外の選手が多かった印象)

何事も事前の入念な準備が重要であるが、世界レベルのアスリートになろうとしたら、海外遠征の経験を多く積み、不測の事態や悪いコンディションでもパフォーマンスを落とさず安定感を保てるようになることが最も重要である(食事や体力面だけでなく、メンタル面が最も重要かもしれない)。


レースのハイライト動画からわかること

私はレース結果を見て、どのようなレースぶりでそれぞれの選手がこのような結果だったのか、ということが純粋に気になった。このレースはライブ配信が一切なかったからである。

そこで、現地のヘンゲロでこのレースを撮影していたポーランド人のジャーナリストである、アレクサンダー・デュダに連絡を取って、レースの動画をシェアしてもらった。

Alekが撮影した動画を私がハイライト動画として編集したのであるが、以下のことがわかる。

・エチオピアのトップ選手の強さが際立っている
・レース後半に日本の3選手が先頭集団から周回遅れになった
・レース時の風がやや強かったように見える

エチオピア選考会では去年の五輪選考会の時もそうだったが、後半はペースの上げ下げがあって、一筋縄ではいかない。世界大会の決勝のようなレースになりやすい。一方、後ろの集団は世界選手権の参加標準のために前半はペーサーが集団を引っ張っている。

レースの後半は相澤、市田、伊藤選手の苦しそうな顔と、風になびく腰ゼッケンが確認できるが、一方ではエチオピア勢の先頭争いが激しい。

動画の序盤にある真横からの動画を見ると、トップのエチオピア勢はまるで三浦龍司選手のような、しなるように柔らかいフォームでストライドの大きい走りであることがわかる。

これで25周と周回を重ねるわけであるが、動きの1つ1つをみても何が違うのか、ということを考えるうえで、こういったグラウンドレベルで撮影された動画の存在は大きい(動画を提供してくれたAlekには感謝している)。

レース当日のヘンゲロはやや風が吹く予報で、その通りに風があるように見えるが、それでも上位の3選手は26分40秒台のPB。

思うに、彼らは秋から冬の絶好の条件で行われる10000mを走ることなどほぼないので、気温が高いとか、風が強いといった一見厳しい条件でもコンスタントに26分台を出せる実力を持っていると思う(仮に真冬にレースの大多数の引っ張るペーサーがいて彼らが10000mを走ると25分台で数名走る可能性があると思うが、その時期に彼らはロードレースやクロカンに出るか、休養をしていることが大半である)

日本の選手はこのレースで色んなことを学んで体感したと思うが、もし日本のレースだけを走っていたら、このような経験はなかなかできないはずだ(東京五輪を除いては)。そういう意味では深川の10000mではなく、このレースに出場して感じたことは彼らにとって今後に生きてくるだろう。

2023年にはハンガリーのブダペストで世界選手権が行われ、2024年のパリ五輪に続いていく。深川の10000mで標準を再び狙いに行くこともできるが、今年のユージン世界選手権の出場に拘らなくても、まずは今回の1-2分の差をいかにして縮めていくか、それを今回の日本の選手達は考えていることだろう。

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(出典:Instagram / Tuscany Camp

このレースではブルンジの選手が27:24をマークして世界選手権の参加標準記録を突破(他にもエリトリアのU20選手が突破)。こうやって、標準切りに挑んだのは日本人選手だけではなかったが、風が強いように見えるレースでもきっちりと標準切りを掴んだ選手がいることもまた事実である。

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