見出し画像

オレゴン大の中長距離陣が今凄い。

(写真:YouTube / Men's 3000M - 2021 NCAA Indoor Track and Field Championshipより)

先日行われた全米学生室内選手権には日本のクレイアーロン竜波(テキサスA&M大)が男子800mに出場したが(予選落ち)、オレゴン大男子が総合優勝した中で、中距離陣の破竹の勢いが目立った。

コール・ホッカー:21世紀のスティーブ・プリフォンテーンの登場か?

1970年代初期にアメリカの長距離シーンに旋風を巻き起こしたスティーブ・プリフォンテーン(オレゴン大在籍の21歳時にミュンヘン五輪5000m4位)の没後も、オレゴン大は全米の陸上強豪校として知られている。

中長距離種目においては、ロンドン五輪男子10000m銀メダリスト、リオ五輪マラソン銅メダリストのゲーレン・ラップ、リオ五輪男子1500m金メダリストのマシュー・セントロウィッツJr.(5000mの元全米記録保持者の親父もオレゴン大卒)などといったそうそうたる選手を輩出してきたが、今現在、そのセントロをも超えるような逸材が現れてきている。

2018年のフットロッカー高校クロスカントリー選手権(高校ナンバーワンの選手が決まる5kmのクロカン全米高校大会)で優勝したコール・ホッカー(インディアナ州出身)はその後オレゴン大に進学。

現在、19歳で大学2年のシーズンが始まったばかりであるが、2020年12月に屋外の5000mを13:32.95で走った後に、今季の室内シーズンで快進撃を見せている。

DMRで最初(1走)の1200mを走って2:49(400m平均56秒台)を叩き出し、オレゴン大チームの全米学生新に貢献(↑写真右から2番目)。その2週間後には1マイルで3:50.55という驚異的な記録をマーク(先輩のC.ティアが 3:50.39の全米学生新を出したレース)。

この3:50.55は10代の選手としては世界最高記録で(1500mだと3:33.63相当の記録)、世界歴代8位の好記録。また、大学の先輩のセントロウィッツの現在の室内1マイルの自己記録3:50.63よりも速い。

※参考までに1マイルの日本記録は荒井七海の3:56.60

圧巻は先日の全米学生室内選手権2日目の2レースでの2冠。ホッカーは大会1日目に1マイル予選を組1着で通過。大会2日目はまず1マイル決勝で終始先頭を走り2位に2.2秒差の圧勝。

3:53.71の大会新+ラスト200m 25.87 / ラスト800m 1:52.31というとんでもない後傾ラップでレースを締め括った。


特に凄かったのが「1マイルから55分後の3000m優勝での2冠達成」

驚きはその55分後の3000m決勝。

ヘッドコーチのロバート・ジョンソン氏は一時、ホッカーの1時間での決勝2レースを考えて3000mを棄権させる事も考えたというが、オレゴン大男子は大会2日目の半ばでLSU(ルイジアナ州立大)との入賞ポイントでの総合優勝争いを繰り広げており、ホッカーは1マイル決勝から55分後の3000m決勝に出場することとなった。

スローになる事を嫌った先輩のC.ティアが先頭に躍り出てからは、そのままオレゴン勢の1,2番手が続き、ホッカーは2番手をキープ。ラスト1周の競り合いではティアが一時は優勝するかと思われたが、最後にホッカーが差し切った。

優勝タイムは大会記録にわずか及ばない7:46.15も、ホッカーは2冠達成。ラスト200mは25.49という驚異的なラップだった。しかも19歳という若さで。

全米学生室内選手権の歴史で1マイル/3000m or 1マイル/2マイルの2冠を達成した選手は以下である。

ジム・ライアン:カンザス大 1968年
マーティ・リコーリ:ヴィラノヴァ大 1971年
スレイマン・ニャンブイ:テキサス大エルパソ校 1979, 1980, 1982年
バーナード・ラガト:ワシントン州立大 1999年
ラウィ・ララン:アリゾナ大 2013年
コール・ホッカー:オレゴン大 2021年

これらの全米学生室内選手権中距離2冠の達成選手のほとんどが五輪選手であることを考えれば、今回2冠を達成したホッカーが「21世紀のスティーブ・プリフォンテーン」と呼ばれる理由もわかるだろう。

3000m決勝でホッカに差し切られて僅差で2位に敗れた1マイル全米学生記録保持者のC.ティアは、ホッカーが出場した1マイルには出ずに、大会1日目にDMRのアンカーを務め、そこでは終始単独走で1600m3:52.99をマークし、先頭でフィニッシュした。


オレゴン大男子が全米学生室内選手権の"中距離4冠"

全米学生室内選手権でオレゴン大の男子は
・60m
・800m
・1マイル
・3000m
・DMR
・三段跳
の6種目で優勝。

1大学の選手が6種目優勝は大会史上2回目で、オレゴン大男子は大会史上2番目の総合得点79点で総合優勝を果たした。

チームの中距離陣はDMRやホッカーの2冠だけでなく、DMR優勝メンバーのC.ハンターが男子800mを1:45.90の好タイムで制し、オレゴン大男子は今大会中距離4冠(DMR/1マイル/3000m/800m)を達成。

チームの選手は今年にDMRと1マイルで全米学生記録更新しているが、屋外シーズンではまた学生記録の更新に期待がかかる。

今季はコロナ禍で全米学生クロカン選手権の日程が11月→3月と大幅変更となったことで、全米学生クロカンに中距離のライバル選手が流れた影響もあるが、それでもオレゴン大の選手の強さは際立っていた。

エアズームヴィクトリーのオレゴン大限定バージョンを履く男子1マイル全米学生記録保持者のC.ティア。


ヘッドコーチはロバート・ジョンソン

そんなオレゴン大の陸上部の指導現場を指揮するのが長身のロバート・ジョンソンコーチ。

全米学生タイトル17冠のエドワード・チェセレク、10000mで五輪標準記録を突破しているエリック・ジェンキンスセントロウィッツアンドリュー・ウィーティングスなどの中距離選手、またG.ラップといったオレゴン大卒の有名選手を指導したアンディ・パウエルコーチがワシントン大に移ってからは、このジョンソンコーチがオレゴン大の陸上部を指揮している。

現在の中距離陣のエースクラスのティア(左)とホッカー(右)は、大学の先輩であるセントロとのビーフ(仲違い)がネット上で勃発したことでも話題になったが、そのこともあってこの2人は「オレゴン大卒業後にBTCに行かないのではないか」と掲示板などで囁かれている。

彼らの大学卒業後にも引き続きユージンでジョンソンコーチが指導するのであれば、それは興味深いことだろう。

ユージンにはオレゴントラッククラブとマーク・ローランドコーチ、ポートランドにはBTCとジェリー・シュマッカーコーチ、元NOPのピート・ジュリアンコーチのトレーニンググループがそれぞれあり、これらのグループは全てナイキがスポンサードしており、オレゴン大もナイキがスポンサードしている。


オレゴン大学のトラックもすごい

オレゴン大のトラックは通称「ヘイワードフィールド」と呼ばれているが、2022年のユージン世界選手権の会場のトラックでもある。

ということで、大学のトラックで陸上の世界選手権が行われるが、そのトラックで彼らは日頃練習している。ヘイワードフィールドは2022年の(当時は2021年予定だった)世界選手権開催に向けて、2020年にトラックと観客席の改修工事を終えてリニューアルされた。

メインスタンドの横には塔もあり、夜にはご覧のように光ったりもする。

オレゴン大陸上部の快挙は今回多くの陸上関係者の目に止まったが、コール・ホッカーやクーパー・ティアという中距離選手の名前は、この機会に覚えておいたほうがいい。

彼らは全米代表の差をかけて、全米選手権に出場し、3位以内に入れば全米代表として東京五輪に出場する可能性があるからだ。

ティアは5000mで2020年12月に13:17.13をマークしており、1500mと5000mで五輪出場を狙うだろう。

一方の「21世紀のスティーブ・プリフォーンテーン」ことホッカーも20歳になったばかりのタイミングで、1500mの全米代表をかけて全米選手権に臨んでくるだろう。

オレゴン大の選手については今後も注目の存在だ。


【関連記事】


サポートをいただける方の存在はとても大きく、それがモチベーションになるので、もっと良い記事を書こうとポジティブになります。