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サカナクション『SAKANAQUARIUM 2020 834.194 光』2020.02.05

音を空気に触れさせないままリスナーに届けたい

スピーカーのないレコーディングスタジオを紹介する山口一郎に凄みを感じて以来ファンなのです。

SAKANAQUARIUM2020は昨年リリースしたアルバム『834.194』をメインに据えたツアーで、テーマは"光"。

仕事を少し早めに切り上げて上野から大宮行きの宇都宮線に乗り込みます。
前日は日向坂46のライブだったので、そちらを流しながら電車に揺られて30分。
『ソンナコトナイヨ』は久しぶりにリリースが楽しみなアイドルのシングルですね。

会場の大宮ソニックシティに着くと、ロビーからスモークが漂っていて驚いてしまう。

物販をちらっと覗き、見本のパーカーを確認してから二階座席に向かう。山口一郎がボディからデザインしたと聞いてちょっと気になっていたのですが、フードが自立しなさそうなのですんなり諦めました。

ホールに入るとロビーの比ではないスモークで満たされています。

一階が存在するのかも分かりません。

開演時間になると、低音とともにヘルサレムズ・ロット顔負けのスモークが段々と青に染まっていきます。

満たされた青は、一瞬で白に変わり点滅。
点滅の速度は徐々に加速していき、脳の処理が追いつかなくなるころ、『グッドバイ』のアウトロのコーラスが流れはじめます。

"世界"というフレーズのリフレインに包まれて、涙腺が緩んでしまう。
光と音による脳への負荷が閾値を超えて脳内物質が出まくる。パーンとはじけたように多幸感が押し寄せて、感覚に身を預けて漂う。

そこからアクセルをかけるように『ネイティブダンサー』や『ワンダーランド』などアップな曲たちを披露した後、『流線』『茶柱』『ナイロンの糸』のチルタイム。
サウナ的緩急に整ったところで、『ボイル』で再びスモークが会場を包みました。

朝に書けて ライズしたんだ 今ライズしたんだ 今ライズしたんだ
意味が跳ねて ライズしたんだ 日々ライズしたんだ 日々が 日々が

朝焼けのようにライズする紅い光。
どんだけ演出が細かいんだと感心してしまう。

曲と舞台演出が5:5。
分かりやすく噛み砕かれた演出もあり、山口一郎のプロデュース力とバランス感覚はすさまじいなと。
あえて本物から"ぽいもの"に落としていくことでマスに届ける。そのバランス感覚が山口一郎は絶妙なのでしょう。インタビューを読む限り表と裏という言葉でよく表現しているよう。

そんなだから『アイデンティティ』のサビをファンに合唱させるのは彼なりのアイロニーなのではと邪推してしまう。だってこの曲が明るいテイストなのっておかしくないですか。
みんなで楽しそうに「アイデンティティがない」と歌う光景はかなりシュール。
時折見せるトーキーのようにおおげさでアイコニックな動きだって観客を置いていかないためにやっているのだろうな。

2時間弱MCなしでバリバリに演奏し、本編が終了。
山口一郎の言葉も楽しみにしていたのでちょっとガッカリしていると、アンコールで喋る喋る。
めちゃくちゃ楽しいな。

いちばん良かったのは、ツアーのコンセプトについてしっかり説明してくれたところ。

グッズの834.194が反転しているのは「look back」がツアーコンセプトだから。
振り返ると反転して見えるでしょう

思考の跡が見える、残しておいてくれるのがサカナクションの大衆を置いていかないための戦略なんですね。
「戦略も表現」は山口一郎が言うと格好よすぎやしませんか。

やりたいこととやるべきことの境界をぎりぎりまで探す姿勢がエンタメになっています。
山口一郎はライフワークとライスワークと呼んでいるそう。ただただ言葉が上手い。

氏のインスタ曰く「追加公演ができるかもしれない」らしいので、必ず見にいくぞという気持ちです。

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