封印されたゆるキャラ 前編
バスを待っているときほど憂鬱な時間はない。
まだ眠りから覚めない並木が立ち並ぶ優しい坂道の中を、労働の世界からやってきた緑色の巨体が出来損ないのイノシシの嘶きのようなエンジン音を響かせ、昨日の淡い夢の幾つかを機械油にまみれた錆色の鈍器で破壊する為にやってくるからだ。
今日はシトシト雨が降っていて、シルクスクリーンみたいな朝靄が掛かっていた、そのスクリーンの中からボウっとしたヘッドライトを映しながらやってきたのは、残念ながらデビットボウィが軽やかに乗りこなすシトロエンのバス