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封印されたゆるキャラ

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封印されたゆるキャラ 後編 その1

あたらしい着ぐるみの完成までの間、忙しい仕事の合間を塗って下準備を整えていた。 彼女は、一心不乱に取り組んでいく中で、いつしか本当に、<とろろん>の中に女の子の魂が閉じこめられているのか、そんなことはどうでも良くなっていた。いや、むしろ、本当にいるのかわからない女の子の魂よりも田中部長の心を救いたい気持ちの方が強くなっていたのかもしれない。しかし、その想いとは裏腹に少なくとも、彼女が実行しようとしている行為にたいして、田中部長は疑う余地もなく拒絶反応を示すであろう。だが、彼

封印されたゆるキャラ 中編

5ー 田中部長について 彼女が周囲の反対を押し切って鳳市役所に就職した理由は当然の如く呪われたゆるキャラ<とろろん>を助けることであった。しかしながら、市役所に就職したからといって<とろろん>ひいてはゆるキャラについて関われる訳ではなく、一介の市役所員として勤務することになったのである。 だが、唯一幸運だった事は、彼女が地域部防災課に配属されたことだった。なぜならば同じ地域部内に観光課があり、観光課では鳳市の観光PRの為の活動も積極的行われており、商工会の保有するゆる

封印されたゆるキャラ 前編

バスを待っているときほど憂鬱な時間はない。 まだ眠りから覚めない並木が立ち並ぶ優しい坂道の中を、労働の世界からやってきた緑色の巨体が出来損ないのイノシシの嘶きのようなエンジン音を響かせ、昨日の淡い夢の幾つかを機械油にまみれた錆色の鈍器で破壊する為にやってくるからだ。 今日はシトシト雨が降っていて、シルクスクリーンみたいな朝靄が掛かっていた、そのスクリーンの中からボウっとしたヘッドライトを映しながらやってきたのは、残念ながらデビットボウィが軽やかに乗りこなすシトロエンのバス