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掌編小説

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掌編です だいたい、適当
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2017年11月の記事一覧

灯台と懐中時計

夜の海に優雅に浮かぶ一隻のタンカーがボォーっと汽笛を鳴らし、その曇った音が、だれもいない遠くの入江に響き渡った。

その入江には、集落があった。切り立った岩礁でできた海岸線があり。その一角の小さな砂浜の近くに閑散とした錆びついた漁村と、侵食されつつある不安定な崖の上に据えられた古い灯台が一つ建っていた。よく言えば、風光明媚であり、悪く言えば何もない不気味な集落であった。

夏場は、少ないながらも観

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あるパフォーマンス

それなり大きな駅前にある。それなりに立派な駅ビルの中にテナントがあるそれなりの値段帯のイタリアンレストランで、それなりの男と女が真剣に話し合っている。

最初はよくある痴話喧嘩か、もしくは別れ話か。レストラン中の誰もがそう思ったが。どうやらそんな単純な話ではないらしい。何人か客とウェイターは、全く興味がないふりをしながらも彼らの話に耳をそばだてていた。

「なんで、なんで。私と婚約破棄する

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