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おいしいエッセイ

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おいしいお店を紹介。平野紗季子さんに憧れた“パクリスペクト”な文章たち。
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#東京グルメ

クラシカルな江戸前の仕事が光る #松野寿司

 半年に1回のペースで通っているお気に入りのお店。普段は握りのおまかせ(5000円前後)だが、今回はつまみから握りまでの一通りを頼んでみた。「おまかせ全部レビュー」は以前に書いているので、今回はクラシカルな江戸前の技術を感じられるネタとつまみをいくつか紹介することにする。  軽く酢で締めているようで、しっかりした質感の身が咀嚼を誘う。脂をしっかりと感じさせながらもしつこくないメリハリのある味わいが、これから始まるコースへの期待を高める。  煮鮑の身と肝を一片ずつ。むちっと

田園風景を思わせる異国焼酎 #DEDESUKE SAIGON KITCHEN

 ベトナムと言えばフォー、フォーと言えばパクチーとばかり考えてしまうが、現地を想像すると一面の田園風景が頭に浮かぶ。広大な緑の中にたたずむ三角の帽子(「ノンラー」と言うらしい)を被った一人の農民、そんなシーンを想起させる米焼酎に出会った。  ルアモイとネップモイはベトナムの米焼酎。うるち米(普通のお米)を使ったルアモイは、クセのほとんどない透き通った味わい。焼酎という響きから感じる重さはなく、軽やかに飲める水の上位互換のような口当たり。  私のお気に入りはもち米を使ったネ

おまかせ全部レビュー #冨所

 コロナで半年続けていた予約が途切れ、それからは月初めの予約戦争に負け続けていた私は、我慢できずに2万円以上する夜のおまかせコースを予約(6000円~のランチコースは人気過ぎて予約が取れません)。  一食にかけるお金としては理に適っていないように見えますが、本当に美味しい鮨が食べたい人は知らなきゃ損するレベルのお店です。「旨い」ではなく「美味しい」と表現した裏には丁寧な仕事と、分かりやすい味のインパクトに頼ることのない繊細な味わいへの尊敬の気持ちがあります。  店内は6席

流行とは一線を画す完成された韓国料理 #赤坂一龍 別館

 ソルロンタンと言えば、塩やオキアミの塩辛で自分好みの味を作り上げるもの。そのためスープが薄く、味気のない状態で出てくる印象があるが、ここはかなり完成されたバランスで提供される。背骨のビシッと通ったような牛骨スープに、食べ応えもありながら旨味を邪魔しない濃度の塩加減は、素人の私が下手に味変してしまったら申し訳ないと思わされるほど。  メインはソルロンタン一択で、足りなければサイドを頼む。入店と同時に人数分のソルロンタンを頼んで、後はその日の気分で食べたいものを追加すれば良い

おまかせ全部レビュー #築地青空三代目丸の内

 カウンター寿司デビューをしたい人や、ちょっと贅沢なデートをしたい大人カップルにおすすめしたいお店がここ。つまみ4品に加えて、業界では有名なフジタ水産の鮪3貫を含む握り9貫が8800円で食べられるミドル級の人気店です。4回目の訪問でもしっかり楽しめる質を維持している板長佐野さんの努力に頭が上がりません。  この店が面白いのは、チェーン店だということ。実は本店が築地にあって、東京はもちろん名古屋や沖縄にも複数店舗を構えている実力派です。更に面白いのは、仕入れや料理が全て板長の

がっつりお腹を満たしたい時は #金子半之助 Otemachi One店

 大手町近辺で天ぷらを食べるとすれば、選択肢は主に2つある。以前は"天ぷら"そのものを楽しみたい時のお店を紹介したが、今回は天ぷらを通してがっつりお腹を満たしたい時のお店を紹介する。  この店で一番豪華な天丼は穴子がメインに置かれているようで、海老は大きすぎず、他の具材も過不足なくバランスよく配置されていた。見栄えの良い海老に重きを置きすぎて全体として物足りなくなってしまうよりも好感が持てる。味噌汁を一口飲んで簡単に胃を温め、天丼を自分のそばに引き寄せる。  「江戸前」の

大手町てんぷらの選択肢 #博多天ぷら やまみ 大手町店

 オフィスビルの灰色で満たされた大手町も、地下では和食からエスニックまで多くの飲食店の活気で色づいている。それぞれが独立して建っているように見えて地下では繋がっていて、昼休憩の会社員は複雑な地下道を縫うように目当ての店を目指す。私は貴重な1時間を1秒も無駄にしないように、でも社会人の体は保つように小走りで店に向かう。  会社から通える距離でてんぷらを食べようとすると、思い浮かぶお店は2つ、金子半之助か博多天ぷらやまみ。半之助の天丼は以前に一度食べているので、今回はやまみに並

見逃していたファミレス #ロイヤルホスト 新宿店

 いつの間にか行かなくなったファミレス。大人になって身に着けた偏見と先入観がチェーン店を遠ざけていた。なぜ行こうと思ったかと言えば平野紗季子さんに影響されているわけだが、せっかくの機会なので訪問することにした。内容を知らずに行かないことを選択するのも勿体ない。  新宿店はガラス張りになっていて、モダンロイヤルを体現。気軽に入れるファミレスの域を超えず、特別感も与えてくれるファサードだった。  3月だが外はまだまだ寒い。身体が即効性の温かさを求めていたのでスープ系を探す。メ

メキシコにトべる味 #MUCHO MODERN MEXICANO

 私とメキシコを繋いでいたのは1枚のトルティーヤ。と言うとなんだかかっこいい(?)が、実際にはスーパーに売っている5枚1組のフラワートルティーヤ。これが固くならない程度にフライパンで熱を通した上に具材を乗せ、ドレッシングで調味した後に挟んで食べる自家製タコスが好きでよく食べる。自分なりに試行錯誤しながらお気に入りのバランスを構築していた。  そろそろ本格的なメキシカンを食べてみようと思い立った私のメキシカン初戦は東京駅から歩いてすぐのMUCHO MODERN MEXICAN

欲望のままに #根室花まる KITTE丸の内店

 コロナに感染して鮨の予約を3件キャンセル。私は遂に"スシタベタイ"以外の感情を失い、仕事終わりに根室花まるに突撃しました。結論から言うと北海道のグルメ回転寿司はうまくて安い!札幌で食べたトリトンも美味しかったのですが、こちらも負けないくらいの美味しさ。しかも空腹&食べたいタイミングで食べられたことが最大の幸福で、口福感に包まれました。  しかも男2人で食べて会計は約6500円。100円寿司は安いですが、こちらはコスパが良い。その上北海道ならではのネタが揃っているので満足感

大手町で蕎麦2.0を見た #MINATOYA2

 無機質なビルの灰色に大きな黒い穴が開いていた。大手町にブラックホールが開いたと思ったらそこは黒塗りの蕎麦屋。「蕎麦屋」の語感から想像する落ちついた和空間とは裏腹に、黒で統一された空間が私たちの鼓動と食欲を高ぶらせてくる。  メニューは1000円の「冷たい肉そば」の1つのみ。これが気に入らなければ客はもう来ない。他のメニューに逃げられない、まさしく退路を断ったこの姿勢は客への挑戦だ。リピーターを期待していないはずもない。この一杯にどれだけの中毒性が眠っているのかも楽しみにし