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おいしいエッセイ

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おいしいお店を紹介。平野紗季子さんに憧れた“パクリスペクト”な文章たち。
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2022年6月の記事一覧

自分なりのうなぎ屋の楽しみ方 #小川菊

 久しぶりに母と外出。私の母はあまり好みが合わないので、2人で食べるものは決まって鰻かとんかつのどちらか。とんかつは最近食べたので鰻をチョイス。川越では1、2位を争う有名店に1時間待ちで入店。  シンプルではあるが必要なものは全て揃っていて、老舗の余裕も感じさせる、そんなメニュー表。本日はお母様がご馳走してくれるとのことなので遠慮なく食べたいものを決める。  まずは「うざく(鰻ときゅうりの酢の物)」を頼んでウォーミングアップ。正午の太陽に晒されて火照った身体を酸味と冷たさ

【実食編】はるはな(春花) / しゅうせい(秋声) #Little MOTHERHOUSE

 四季を色と味で表現したイロドリチョコレート。「春」と「秋」、どちらも極から極へと移り変わる中間の季節ですが、人は全く異なる感覚でそれらを捉えます。今回はそんな季節を表した2種類を実食レビューします。  待ちわびた春の陽の下で美しさを競う花々のように、いちごとパッションフルーツが輝く鮮やかな味。はっきりとしたいちごの甘みとパッションフルーツの南国を思わせる香りが私に活力を与えてくれる。  なめらかな舌触りで表現する日本茶の奥ゆかしさ。抹茶の苦みはじわりと舌に浸透して存在感

【実食編】あじさい(紫陽花) / ゆうぐれ(夕暮) #Little MOTHERHOUSE

 インドネシア・スラウェシ島から届ける四季の味、「イロドリチョコレート」。萌黄(もえぎ)、蒼海(そうかい)、夜風(よかぜ)に続いて新たに2種類を実食レビューします。  ホワイトチョコレートの甘みは前半で落ち着き、鼻を通るラベンダーの香りとブルーベリーの酸味が合わさって最後まで残る。ほのかな刺激も感じさせる後味は涼しげな印象。梅雨の合間の雫を帯びた紫陽花とはこのことか。  全身で感じる夏から心で感じる秋へと移り変わるように、カシスからブランデーに向かって味から香りへと楽しみ

下町風情を味わう #七五三

 浅草散策の最終目的地に設定したお店。下町の味と言えばもんじゃとお好み焼き、こういう町は奇を衒わずに王道を楽しむのがいい。信頼できる浅草の住人がおすすめしてくれた「七五三」を事前に予約しておいた。  浅草は毎月祭りをやっているらしい。この日(6/11)は鳥越祭りだったらしく、男たちが豪華な神輿を率いて練り歩いていた。下町の枯れないエネルギーを感じながら店に到着。町の賑わいを吸収して増幅させる場所。  お腹が空いたのでまずはがっつりお好み焼きを食べたい気分。定番の豚玉は有無

キッシュで始める朝 #DEAN & DELUCA CAFES 丸の内

 同僚から朝活に誘われ、何も食べずに向かった朝7時の東京駅。待ち合わせのカフェに一足早く着き、ショーケースを眺める。DEAN & DELUCAは食の「美しさ」を中心に据えた"マーケットストア"。パンの香ばしい茶色に玉子の光る黄色、アボカドの爽やかな緑にマフィンの柔らかいオレンジ。早朝から人が集う朝市の活気がショーケースの向こうに。  空っぽのお腹を優しく温めたい気分がアボカドのキッシュを選んだ。奥の台所に覗く大量のフレッシュアボカドが味の想像を膨らませる。ケースのキッシュは

おまかせ全部レビュー #鮨一

 ”寿司不毛の地”渋谷でおすすめできる数少ないお店の1つ。若手の親方は明るく会話を絶やさず、カウンターデビューにも安心して臨める雰囲気。特に土日限定の8000円ランチコースはハイコスパが有名で、若者から年配の方まで広く利用している。  店名の「一(はじめ)」は親方の名前ではなく「皆が一つになる」という意味らしい。握り手が一人ではないので、チームワークを重視した温かい店内だ。ネタへの仕事は江戸前そのもので、1つ1つの説明からはシャリから薬味まで細部に至るこだわりを感じた。

コーヒーとチョコレートの行きつくところ #蕪木

 コーヒーとチョコレートの専門店。蔵前の並み居るカフェや喫茶店の中でも個性的で実力派として名高い。扉の向こうはコーヒーの香りに満たされ、内と外にはっきりと境界線がある。1階はコーヒーとチョコレートの販売、2階が喫茶室になっているので、狭い階段を上って部屋に向かう。  床と机のブラウンに壁のホワイト、机と壁には一輪挿しの花の差し色。それ以上無駄な色のない喫茶室は豆電球の淡いオレンジに照らされている。先客が10名程いたが無駄な音もなく、コーヒー片手にそれぞれの時間を過ごしていた

正統な"和食"としてのとんかつ #とんかつひなた

 とんかつ激戦区の高田馬場で頭ひとつ抜けた人気を誇る「とんかつひなた」。普段なら衣のインパクトでお腹を満たす対象として捉えていたとんかつも、ここではじっくり味わいたい和食として再定義する。  和食にはカウンターが似合う。調理の過程を見せる潔さ、五感で楽しめるライブ演出、出来立てを食べられる安心感、目の前の凛とした空気感がとんかつに体験価値と気品を与える。料理人の真剣な眼差しを前に、客側としても背筋を伸ばして待たざるを得ない。  メニューはロース・上ロース・上リブロース・上

大手町の"うまい、やすい、はやい" #リトル小岩井

 仕事が長引き、遅めのランチ。大手町の地下街の端、時刻は14時を回っているにも関わらず活気に溢れたお店がある。先客2人の後に並んでどれを食べようか、メニューを眺めながら気分と相談する。それにしても、全てが安い。大盛りもたったの60円。こういうお店はピンかキリのどちらかであることが多いからハラハラしてくる。  並びながらメニューを決めあぐねていると、すかさず店員さんに注文を聞かれて自分の優柔不断さを知る。いや、9種類という絶妙な品数が私を優柔不断にさせている。メニューは多すぎ

【実食編】よかぜ(夜風) #Little MOTHERHOUSE

 失恋した。気分は夏を、そして秋すらも通り越して冬。四季を表現したイロドリチョコレートなら感じたい季節を、感じたい時に感じられるから好きだ。  夜風のテーマは「冬」らしい。四季が美しい国なら、季節ごとの「夜風」を表す言葉があってもいい気がする。それだけ日本の四季には個性があり、言葉が追い付かない分、その些細な違いを味と見た目で繊細に表現していた。  無彩色に詰まった鮮やかな味。色相が無いということは、純粋であるということ。冬の夜空を想像すれば、黒にだって透明性を感じてもい

がっつりお腹を満たしたい時は #金子半之助 Otemachi One店

 大手町近辺で天ぷらを食べるとすれば、選択肢は主に2つある。以前は"天ぷら"そのものを楽しみたい時のお店を紹介したが、今回は天ぷらを通してがっつりお腹を満たしたい時のお店を紹介する。  この店で一番豪華な天丼は穴子がメインに置かれているようで、海老は大きすぎず、他の具材も過不足なくバランスよく配置されていた。見栄えの良い海老に重きを置きすぎて全体として物足りなくなってしまうよりも好感が持てる。味噌汁を一口飲んで簡単に胃を温め、天丼を自分のそばに引き寄せる。  「江戸前」の