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『竜とそばかすの姫』がマジでヤバかった件(もちろん悪い意味で)

大キライだった そばかすをちょっと ひとなでして ため息をひとつ

的な感じで2021年7月16日金曜日公開の『竜とそばかすの姫』、公開日初日にTOHOシネマズで観てきた。

先週、『100日間生きたワニ』を面白くない映画だと言ったばかりだが、この映画はそれを大きく下回るレベルの酷い映画だった

以下、ネタバレ前提でこの映画の良かったところと悪かったところを列挙していく。

本日時点で私は細田監督の長編作品『おおかみこどもの雨と雪』までは鑑賞済みだが、それ以降の『バケモノの子』と『未来のミライ』に関しては未見である。これは私が(劇場で見た作品の中で)人生ワースト映画の二位と三位が『サマーウォーズ』と『おおかみこども〜』だからだ。もう二度と金を払って見るまいと思っていた。

心変わりをしたのは、細田守監督と並んで評されることの多い新海誠監督に関して、私はどちらかというと『君の名は。』までは否定的な立ち位置だったのだが、『天気の子』が人生ベスト級で好きな作品になったこと。
それと、『100ワニ』を鑑賞した時に流れてた予告編で単純に「面白そうかな」と感じてしまったことがきっかけだ。(同時に予告編が流れていた3Dアニメの『テニスの王子様』も面白そうだった。氷帝戦くらいまでしか原作読んでないけど)

悪いところを探すのは、良いところを探すのよりも簡単だというのは重々理解している。今まであらゆる作品に対して悪いところを探すのではなく、いいところを見つけようという姿勢で観てきたつもりである。

今回もそういった姿勢で挑んだつもりなのだが、結果及ばず、非常に申し訳なく思っている。

良かったところ①『映像』

これは良かった。夕日に照らされる川の表現は非常に綺麗だった。

しかし、これに関してはそもそも細田作品はこれを”ウリ”にしてきたようなもので、『サマーウォーズ』や『おおかみこども〜』と比べて著しく進歩しているかとか、映像美に感動するかとか言われると微妙なところである。

加えて、最悪なのは明らかに30年前のディズニー『美女と野獣』をオマージュしている、ほぼ同じシーンを描いているが、そこのカメラワークやクオリティが”オマージュ元”の劣化でしかない。正直、”痛いパロディネタぶっ込みラノベ”で一時期よく見かけた「ジョジョのセリフをパロって書いておけば面白いんだろ」くらいの感覚でやったとしか思えない。

オリジナリティもリスペクトもないオマージュはただのパクリだと思うのだがどうだろうか。

悪かったところ①『不誠実』

おそらく細田監督は世界設定に対して「どーでもいい」と思っているか、あるいは観客がそれを理解することに対して「どーでもいい」と思っているに違いない。

サマーウォーズとほぼ同じ世界設定。四国の”素朴”な田舎と、「U」と呼ばれる仮想空間が舞台。

まず、この「U」と呼ばれる世界に関しての説明が劇中”ほぼ”ない。

これがなんなのかわからない。説明しない。実に不誠実だと思う。

いわゆる『ソード・アート・オンライン』的なゲーム世界にフルダイブする的なアレなのかと思うと、どうもそうではないらしい。「U」の世界に入っている間の主人公の、その間の現実の肉体がどうなっているのか、決して描かれない。不誠実。

「U」の世界で敵に攻撃を受け、アバターが消滅すると現実の肉体がどうなるのか描かない。竜が物語中でアバターを何人も破壊し非難されるのだが、これを描かないことによってこの行為がどれだけの悪行なのか観客には分からない。不誠実。

何故、悪役だけがアバターに特殊能力を用いて”中の人”の姿を出現させることができるのか理由が語られないし、そもそもなんでそんな仕様が「U」に実装されているのかも意味が不明。不誠実。

そもそも「U」というSNSが何をするためのツールなのかが分からない。
ゲーム? 出会い系? 配信?
劇中で描かれる「U」では、なんか漠然とアバターがウヨウヨと蠢いているだけで何を彼らがしているのか分からない。そのくせプレイヤーキルもありならば、ステージを破壊するのもOKってなんだろう。 

もし監督がこれらに関して設定していないなら不誠実がすぎるし、設定していて描かないなら観客を馬鹿にしている。

正直、ふざけるな、と思う。

悪かったところ②『声優』

これに関しては昨今の劇場版アニメでは仕方のないことだとは重々承知している。今更いう必要もないことだとはわかっている。それであっても、この作品は特別に酷い。酷すぎると言ってもいい。先週の『100ワニ』ではネズミの声が酷いと書いたが、これはそれが可愛くなるくらいの酷さだ。どれくらい酷いかというと、例えるなら、劇場版コナンで何故だか起用されている子供、くらいのレベルの酷さだ。

主人公とその友人が特に酷かった。

何も素人声優が全て悪いわけではない。新海誠作品の上白石の姉の方や森七菜は立派に仕事を果たしていたと思う。それと比べるとこれは聞くに堪えない。

ああ、主人公の友人の方は今調べたらYOASOBIのボーカルの人らしい。

これは別に声優が悪いわけではないと承知している。キャスティング側の問題だ。歌手に対して特別な悪感情がなかったが、このような”酷い”芝居を見せられると、嫌でも悪感情を持ってしまう。

話題先行のキャスティングは、もう、やめた方がいい。

予告編で流れてた、新作アニメの芦田愛菜の演技と比べたら酷さが極まってしまう。

悪かったところ③『(悪い意味での)ご都合展開』

ストーリーが酷い。子供向けとしても馬鹿にしすぎである。まだ「100ワニ」の方がストーリーを盛り上げようという意思があった。

ストーリー自体は『アバター』と『美女と野獣』と『心が叫びたがってるんだ』に脚本家の人生観を足してぐしゃっとしたようなものだ。(私は大好きな映画だが)2018年最大の駄作のひとつと言われる『音量を上げろタコ』ともストーリー的には同じようなものだと思う。

①過去のトラウマを抱えた少女が、歌いたいけど声が出なくて
②けど、現実世界ではない仮想世界のアバターでは歌うことができて
③そこで醜くワイルドな竜と出会い、心を通わせあい
④竜の危機を、少女の歌が救う

的なストーリーだ。

まず、主人公が現実では歌えない設定が弱い。これは主人公の母親が見知らぬ子を助けたことで死んでしまったから内向的になる、という一応の理由づけがあるが、どうしてそのことが歌えないことの原因なのか、少なくとも私には察することができない。

例えば同じく歌が重要なテーマのアニメ映画『心が叫びたがってるんだ』では、主人公が喋れなくなった理由を「主人公がお喋りだったことが原因で家庭が崩壊したから」と置いている。
このように「家庭崩壊の原因=喋れなくなった理由」ならスッキリするが、「母親が川で溺れた=歌えなくなった理由」はスッキリしない。

次、これはおそらく映画を見た人全員が抱く感想だと思うのだが、何故、主人公が突然現れた竜に心を寄せるのか、全く意味が分からない点だ。

主人公のライブ会場にいきなり(どうやってセキュリティを突破したか説明もなく)竜が乱入してくる。そして追っての警察組織を次から次に攻撃し惨殺してライブをめちゃくちゃにするのだが、主人公はこの竜を見てあろうことか「あなたは誰?」と口にするのである。そして何を思ったかその竜の身元を特定しようとするのだ。びっくり、どうしてそうなる。

これは推察するに、竜に自分と似た匂いを感じて興味がでた的なアレなのだろうとは思うけれども、それにしても意味がわからない。竜を探して延期したライブをほっぽりだす理由も分からない。主人公の考えが分からない。不恰好でもセリフで説明すればいいのに、それもしない。

クライマックス、主人公が竜の危機を救い出す方法もご都合主義が過ぎる。思いっきりネタバレだが、竜の中身が父親に虐待されている東京の子供だと分かったとして、女子高生が一人で四国から東京に、具体的な住処も分からないのに飛んでいくって。周りに大人もいたんだから同行すればいいのに。案の定、主人公、その父親に怪我を負わされるし。

その後、子供たちがどうなったのかも不明。主人公が父親のことを眼力で脅したからもう二度と虐待はしないと判断したのだろうか。

新海誠の『君の名は。』や『天気の子』でも主人公が走る描写があるけど、あれは具体的な目的がはっきりしているから成り立つのであって、今作のように目的地が判明していないのに主人公が駆け出していくって馬鹿っぽくて呆れてしまうんだけど、私だけだろうか。邦画ではあるあるだけど。

主人公と竜との心の交流がストーリーのメインのはずなのに、彼ら二人の行動全てに「なんで」「どうして」が浮かんでしまう。これは全て登場人物の行動がストーリーの展開ありきで決められたご都合主義だからに他ならない。

悪かったところ④『歌』

他の人のレビューを見ると歌が良かったという意見も多いが私はそうは思わなかった。まあ、これに関しては私に本作の歌が合わなかっただけだと言えるから、普通なら、私もこれは悪かった点にあげたりはしないのだが。

これは映画だ。実際に音声として、歌が我々の耳に聞こえてしまう。

これが小説や、或いは漫画であったならば、歌に「歌」以上の力を持たせてもいい。

しかし、現実の歌で、この物語で主人公の歌った歌のように聴衆たちが「まるで洗脳でもされたかのように、全員が、滂沱の涙を流しながら、口をあんぐりと開けて、素晴らしい素晴らしいと大絶賛」するような光景が引き起こせるだろうか。

これは無理だ。

『20世紀少年』でもそうであったが、映画で歌に「歌」以上の特別な力を持たせるのはやめた方がいい。だってその歌が実際に耳で聞こえる以上、その歌にそんな特別な力がないことが露呈してしまうのだから。

やるのなら『ボヘミアン・ラプソディ』のようにもう既に実績がある曲を使うとか、あるいはストーリー上で観客にその歌に思い入れを持たせるしかない。

主人公の声優さんの歌唱力の良し悪しに関しては、私の判断するところではないが、例え誰を声優にしたとして、このような歌の使い方は無謀だと思う。

まとめ

以上、この映画の感想を述べた。

あまりこういうことは言いたくないが日本映画の悪いところを煮出したような、そんなアニメ映画だった。

この映画をもって私は新海誠と細田守を並べて語ることを卒業したい。

細田監督はちゃんとした脚本家を雇った方がいいのではないだろうか。少なくとも評価されてた『時をかける少女』や『サマーウォーズ』にはいたわけだし。

個人的な歴代ワースト映画を更新した。金を払って劇場で見た作品の中で『キャッツ』よりもつまらない作品。

「この映画が好きだ、という人もわかる」といつもなら映画の悪口を言った後につけるのだが、これに関してはわかりません。もし、いるならどこが良かったか煽り抜きで教えてください。

女子高生の嘔吐シーンが好きな人にはこの映画はおすすめです。

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