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水資源と環境問題② 水不足と排水による環境影響について

アラル海という湖をご存じでしょうか。かつて世界で四番目に大きな湖だったアラル海は農業目的の水利用のために何と1/10の大きさになってしまっております。水がたくさんあった時は漁業がさかんだったアラル海ですが、魚は死に絶えましまっております。日本にいると感じにくいですが、農業用水の不足は世界では極めてメジャーかつ深刻な問題です。

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1989年のアラル海(左)と2014年(右) 1)
今回は水問題の第二回目です。世界的な水不足と排水の環境影響について考えてみたいと思います。アラル海の詳細が知りたい方はwikipediaをご覧ください2)。

前回のおさらい

前回「水資源と環境問題① SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」を解説します」でお話しましたが、水資源も降る量も、必要としている量も地域によって大きな偏りがあります。このため、以下のような問題が起きています。

①安全な飲み水にアクセスできない人がいる
②衛生的なトイレが確保できない人が多くいる
③農業や工業の水不足(水危機、水ストレス)
④排水が川や海を汚染する

①と②がSDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」につながるという話をしましたが、今回は③と④も地球規模で深刻な(環境)問題であるという話をさせていただきます。

農業や工業の水不足(水危機、水ストレス)

日本は水資源に恵まれた国で我々はは水は無尽蔵にあり、タダで手に入れられると考えられています。実は50年前は世界の殆どの人間同は同じように水はタダで手に入ると考えていました。しかし、直近50年で世界の人口は倍になり、水の消費量は3倍になっており、世界各地で深刻な水不足が発生しています

安全な飲み水へのアクセスは本当に健康で文化的な生活の基礎ですが、実は飲むのに必要な水の量はわずかです(1日当たり~数十リットル)。しかし、我々が毎日食べる食料の生産には我々が直接使う水よりもはるかに多くの水が必要です。後で説明しますが、人間の食料生産には人間の飲み水の百倍から千倍(1日当たり数百リットル~数千リットル)は水が必要です。もちろん、農業生産に使う水は飲み水のようにきれいでなくてもいいですが、とにかく量が必要です。

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食糧というと一見先進国の人も発展途上国の人も、人ひとりが食べるカロリーはそれほど違わないように思えます。しかし、先進国の人々は発展途上国の人々10倍の水を消費していると言われています。以下の仮想水の中でその原因について解説します。

仮想水(Virtual Water)という概念

実は食料の中でも生産するために必要な水の量はその農作物や畜産物によって大きな開きがあります。生産に必要な水の量を量る尺度として、仮想水(Virtual Water)と言うものがあります。仮想水はその農産物や畜産物を生産するのに必要な水を現した数字です。例えば野菜ならば畑にまいた水だけでなく、洗った時に使った水など農作物の生産に必要な水を全て計算した値になっています。当然肉類は動物が飲んだ水だけでなく、食料の穀物や豆の生産に使った水、動物や厩舎を洗浄した水が含まれています。計算した人によって数字は違うのですが、UNESCOによると3)1kgの食料を生産するのに必要な水は

米 2500L, 大麦 1200L, ジャガイモ 500L,
牛肉 15000L, 豚肉 4800L, 鶏肉 3700L,

ソースは別のものになってしまうのですが、植物性の食材を1kg生産するのに必要な水4)は

だいこん 128L, キャベツ117L, ねぎ 433L, 大豆 2500L
植物油 1600L, オリーブオイル21106L, 

となっております。総じて言えるのは
・肉は穀物や野菜よりも多くの水が必要
・穀物は野菜よりも多くの水が必要
・油生産に必要な水は多い(種である上に含水が無いから)
になります。

肉がたくさんの水を必要とするのはエサとなる穀物をたくさん必要とするためです。肉については詳細は「野生動物を保護したいなら、植林や寄付より食事の肉を減らしましょう。ビーガンが環境に良い理由ついて分かりやすく説明します。」で書きましたので併せて読んで頂けると幸いです。穀物は基本的に種ですので葉、茎、根のような本体を食べる野菜よりは収穫が少なくなり相対的に必要な水の量が多くなります。油は基本的に種である上に高カロリーで含水がない(水でガサましされてない)のでやはり必要な水の量が多くなります。

発展途上国では肉や油を多く摂取できないのに比べると、先進国では肉や油をはじめとした水を多く必要とする食品を多く摂取していることで水の消費量が多くなっています。

日本は食料自給率の低い国です。例えば小麦などは毎年550万t輸入されています5)。小麦1kgを生産するには2tの水が必要とされています。これは小麦だけで110億tの水を輸入しているのに等しく、琵琶湖の水が275億tと比較するとすさまじい量です。このほかにも肉類や大豆などの水を多く消費する食品が大量に輸入されております。

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排水が川や海を汚染する

水質汚染という言葉には火山等の自然による水質の変化も含みますが、ここでは人間の経済活動で出る排水が川や海の水質に影響を与える事例についてお話します。人間の経済活動による汚染物質を並べると以下の通りです。
①病原体
②有機物(洗剤、石油炭化水素など)
③無機物(農業からの窒素とリン、自動車や鉱山からの重金属)
④浮遊物(プラスチック等)
これらを順番に見ていきたいと思います。

①病原体
前回の「水資源と環境問題① SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」を解説します」でも触れましたが、トイレや下水が整備されていない場合には上流で流された病原体が下流の人間や家畜に影響を与える「水媒介性疾患」が発生します。これも水質汚染の一種と言えます。

②有機物
家庭や工場から発生する洗剤、油脂、農場から流出する農薬などが川や海に流出しております。これらの有機物は一部の生物にとって有毒であるため、生態系に大きな影響を及ぼします。

③無機物
無機物による水質汚染は2つのタイプがあります。一つは重金属などの生物にとって有害なものが微量に流れてる場合と、窒素やリンの流出です。
早くから問題になった環境問題として足尾銅山鉱毒事件、水俣病などはこれに該当します。人的な被害は深刻でしたが、その後の様々な規制の引金となり現在では大きな問題は起きていません。
後者は農業での肥料である窒素とリンが生態系に影響を与えることです。窒素とリンはあらゆる植物に必要な栄養素で、食料生産のために畑に大量に散布されております。これらの一部は雨により河川に流出してやがて海にたどりつきます。窒素やリンは一部の生物には有毒で、多くの植物にとっては栄養となります。このため、川や海の生態系に大きな影響を与えます。重金属の問題は限られた地域でしかおきませんが、この窒素とリンによる富栄養化の問題は世界のどこのかわ、どこの海でも見られる問題です。このため、地球規模で窒素とリンの濃度の上昇が起きており、「環境破壊による地球の限界「プラネタリーバウンダリー」と、深刻な農業の環境問題について説明します。」でお話した通り窒素とリンによる水質汚染は人類が引き起こした環境破壊の中で最も深刻な問題と言われております。

④浮遊物
浮遊物も水質汚染の一種です。近年ではもっぱらプラスチックが問題視されております。プラスチックの海洋汚染については過去に多くのnoteを書きましたのでそちらもご覧いただけると幸いです。

海洋プラスチック汚染となるプラスチックごみはどこから来る?

脱プラスチックで一番初めに知って欲しいこと「プラスチックごみが海に流れつくとどうなるか」

マイクロプラスチックがどこから来るのか?原因物質を元プラスチック開発技術者が分かりやすく解説。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

1)https://en.wikipedia.org/wiki/Aral_Sea
2)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%AB%E6%B5%B7

3)UNESCO "Good water, water to “eat”.
What is virtual water?"

4)バーチャルウォーター(VW)量 一覧表(環境庁)

5)https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0210/02.html#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%80%81%E5%A4%96%E5%9B%BD%E3%81%8B%E3%82%89%E5%B0%8F%E9%BA%A6%E7%B2%89,%EF%BC%88%E3%81%97%EF%BC%89%E3%82%81%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

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