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evergreen

大学三年生の夏、初めてバンドを組んだ。
初めてのバンドではドラムを担当した。

大学時代、結婚式場でアルバイトをしていて、その余興でバンド演奏がなされた。初めて生のドラムプレイを近くで見て、いつかはやってみたいと思っていた。

その時組んだバンドは初心者が多く、とにかく音を出す、合わせることを楽しんでいた。
このバンドを組むきっかけになったのが、My Little Loverの「Hello,Again ~昔からある場所~」という曲。
この曲がとにかく流行っていて、この曲を好きなメンバーが集まった感じだった。
僕も当時CDを買って何度も聴いていた。
今でもこの曲を聴くと当時のことが蘇る。もう、25年も前のことなのに。

当時My Little Lover、通称マイラバは他にもヒット曲を連発し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。この年の暮れに発売されたファーストアルバム「evergreen」はミリオンセラーの大ヒットだった。このアルバムもよく聴いた。

翌年、僕は大学四年生になり、重い腰を上げて就職活動を始めた。
大学は静岡、希望就職先は東京だったから、なんども静岡、東京間を往復した。
交通費がなるべく、かからないように基本移動は高速バス。
片道三時間位かかっていたと思う。
その移動バスの中で最も聞いたのが「evergreen」だった。
ある意味僕の就職活動ソング。全十曲をカセットテープにダビングしウォークマンで聴いていた。今のようにたくさんの曲をいつでも聞ける時代ではなかった。限られた曲を何度も何度もまさにテープが伸びるほど聴いたものだ。

最近はダウンロードやストリーミング配信が中心になり、アルバムの曲を順々に聞くという鑑賞の仕方が無くなってきた。
アナログの再生機は曲を飛ばすのも時間がかかったり、面倒だったり、基本アルバムを順に聞いていった。
制作側もこの曲順にこだわっていたし、一つの物語として楽しめた。

どの曲も印象深いが、特に思い出す曲がいくつかある。

まず、アルバム一曲目
・Magic Time


チクタク・チクタクという音と共に聞き手をマイラバの世界の中にいざなう。静かな、物語の始まりを感じる曲。バスが静岡から東京へ向けて走り出した感じ。

三曲目
・白いカイト


青空を自由に舞うカイトの姿をこれからの就職活動に照らし合わせ、ワクワクした高揚感に包まれていた。

五曲目
・Hello,Again ~昔からある場所~


バンド結成のきっかけにもなった思い出の曲。イントロのギターが鳴った瞬間、曲の世界に引き込まれる。

そして、七曲目
・暮れ行く街で

この曲はすごく物悲しい。暮れ行く景色、先の見えない不安感、迷い、そんな感情が呼び起こされた。
結局、僕はこの就職戦線を勝ち抜けず離脱していくわけだが、ちょうどその自分の姿がこの「暮れ行く街で」にはまってしまい、ある意味失望に浸るにはピッタリの曲だった。
何度も通った静岡、東京間の帰りのバスの中、就職面接、試験が上手くいかなかった失意の中、この曲を聴いていた記憶がある。
もう、先が無い。明るい未来は来ないのか・・・
ちょうど帰りのバス時間は日暮れが多かった。日の沈むほうへバスは帰って行った。

そうして、アルバムの曲は続いていくが、最後十曲目、このアルバムのタイトルにもなっている曲
・evergreen

きっとこのアルバムはこのクライマックスを迎えるためのものだったのだろうと思うような、壮大な曲。ちなみにevergreen直訳すると永遠の緑という意味だが、別訳で朽ちることのない名曲という意味もあるらしい。
僕にとってはまさに永遠の名曲だ。
それまでの人生を振り返ったとき、歓喜の時、喜びに満ち溢れた時もあったが、失意、絶望を感じ途方に暮れた時もあった。
このアルバムが進んでいくように自分のそれまでも色々な瞬間を連れて走ってきた。

もうだめかも・・・これまでか・・・

失意の中から差し込む一縷の光

このevergreenを聴くとその光に包まれる。
当時も帰りのバスの中、最後はこの曲を聴いて、気持ちを盛り上げていたと思う。

evergreen

朽ちることない名曲、それはひとりひとりが歩んだ人生だ。
その人生には永遠の緑、この星で繰り返す生と死が組み込まれている。

あれから25年、喜びや悲しみとともに生きてきた時間がまたこのアルバムに吹きこまれて、永遠を歌っている。