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夢の話 - ゲームオーバー

「他人の夢の話ほどつまらないものはない」などとよく言われる。
こういう言葉の存在は私にとって迷惑以外の何物でもない。
誰もが、夢の話など他人に話すものではない、という規範を内面化してしまう。
人から見た夢の話を引き出すためのハードルがひとつ増えることになる。
私は、見た夢の話を人から聴くのが好きだ。

こんな夢を見たという話を聴いた。

 
 *  *  * 


中学生のときに見た夢で、未だによく憶えてるのがあるんです。
私が中学生のときって、ちょうどロクヨン……、あ、分かりますか?そうです、ニンテンドー64が出たくらいの時期で。うちにもロクヨンがあったんですよね。
うちは二階建ての小さい戸建てで、そんなにお金のある家ではなかったんですが、なぜか私の部屋にもテレビがあったんですね。小さいながら。まあそんな環境だったわけですから、ロクヨンにも結構ハマっていて。
当時やってたのが、あの、ベタでちょっと恥ずかしいんですけど、マリオ64です。マリオ64を私、一年間くらいずっと遊んでたんですよ、ふふ。

それで、ある日見た夢でですね、私は自分の部屋にいるわけです。
学校が終わって部屋着に着替えて、だから時間は夕方の五時とか六時だったんじゃないかな。
ご飯の時間まですこしゲームしようと思って、いつものようにロクヨンの電源を入れて。で、テレビを点けたら、何かのバラエティ番組が流れてるんです。あれ、変だなと思って。いつも配線もソフトも挿しっぱなしで、入力切換もゲームのチャンネルのままなんで、テレビ点けたらそのままゲームが始まるはずなんです。それで、ゲームの入力に切り換えようと思ってリモコンを操作したんですけど、画面、変わらないんです。
え、電池切れ?と思ってテレビ本体の入力切換のボタンも押してみるんですが、やっぱり変わらなくて。困ったなあと思いながら片手にコントローラーだけ握って、何秒か画面を眺めてたんですね。
テレビに映ってるのは、スタジオで数人のタレントが動き回ってるような、そんな映像で。見てると、最初は横からのアングルだったんですが、カメラが切り換わったのか、ちょっと高めの視点からスタジオ全体を俯瞰するような感じになったんです。そこでほとんどのタレントはある一定の方向に誘導されるような形で動いていくんですが、一人、取り残されたみたいに同じ場所でくるくる回ってる人がいたんです。白いスーツみたいな服着てて、髪の長い女の人でした。90年代っぽい、明るめの色でボリュームのあるウェーブの……あの、I島さん、っていたじゃないですか、ああいう雰囲気です。
その人がくるくる回ってて、何してるんだろうと思いながら見てるうち、自分が手元でロクヨンのコントローラーを弄ってたことに気づいたんです。あの、ロクヨンってコントローラーが独特で、真ん中を握るようになってて、そこにアナログスティックがあったんですよね。私、そのアナログスティックを親指でぐるぐる回してたんです。
いや、え?と思って。
コントローラーを握り直して、アナログスティックを右に倒したら、画面の中の女の人が右にまっすぐ歩き始めたんです。他のタレントは思い思いに右往左往してる感じで、女の人を気にしてる人は誰もいなかったです。アナログスティックをちょっと戻すと立ち止まってて、うそ、偶然でしょ、と思ったんですけど、また右に倒すと歩き出すんです。
そしたら私、ふと思ったんですよね。画面の端まで行ったらどうなるのかなって。ゲームだったら次の画面に切り替わりますよね。だから気になって、女の人をずっと右に歩かせて。歩いて歩いて、画面の端まであと五センチってなったとこで、

女の人、ヒュッ、って滑るみたいに画面の外に消えたんです。

え、嘘。
落ちた。
画面の外に、落ちた。
画面の端のところがちょうど崖になってるのに、気づかなくてそのまま足を滑らせちゃった、っていう、そういうふうに見えました。
ヤダ、どうしよう、そう思ってコントローラーをガチャガチャやるんですけど、画面、何も反応しないんです。いつの間にか他のタレントもいなくて、ただ俯瞰で上から見たスタジオの床だけが映ってるんです。
そういう抜け殻みたいな映像が十秒くらい続いて、パチッと画面が切り換わって、一瞬黒画面になったあと、アニメのオープニングが始まったんです。当時からしてもちょっと古いような絵柄で、あの、プリキュア的な……魔法少女がくるっと回って、画面に番組タイトルが出たんですよね。
『コマコマ・りんりん』っていうタイトルでした。
正確にはその前に、それこそ魔法少女なのか、スマイル、とかなのか分かりませんが、何かがあった気がします。まあそれは憶えてないんですけど、コマコマ・りんりんっていうのは憶えてて、それはなぜかというと、当時の日記にそのことを書いてたからなんです。起きてすぐに、その言葉だけ書きつけたんですよね。なぜか。
それでまあともかく、コマコマ・りんりんのオープニングが始まって、コマコマ―、コマコマ―、っていうような歌が流れ出して……。
そこでいきなり部屋のドアがドンドンってノックされたんですよね。
で、その次の瞬間に目が覚めたんです。

今でも私、コマコマ・りんりんのオープニングテーマ歌えますよ。
まあ最初の部分だけですけど。
コマコマ―、コマコマ―。もしきみがー、こまってたらー。

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