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虚無が山になるまで 一年目の登山記・A

去年の冬にバンジージャンプをした。


漫然と「一生に一度はやりたいこと」みたいなのが頭の中にあって、そのうちのひとつがコレだった。
一生に一度なら、一番高いとこだろう、みたいな発想で、日本で一番高いジャンプ台から飛んだ。
当時はそんな実感もなかったが、後になって考えるとこれがメンタリティの根っこの部分に作用してしまったように思う。
何と言えばいいか、「やりたい(が、できっこない・自分には不似合い・何となくやらない)こと」の価値が、一斉に一段階下がった。「案外できること」になった。

寒いうちは、小学校以来のプラモ制作に本気で取り組んでみたり、怪談賞に応募してみたりなど、文化的なことにキャパを割いていた。
二度目のターニングポイントは春になって日原鍾乳洞を訪れたことだったように思う。

「鍾乳洞行きてえなあ…でも遠いだろうな」と思って、以前ならそこで終わってたと思うが、バンジー効果でとりあえず考えたことの実現可能性を探るようになっており、調べるだけ調べてみた。
すると、東京都内に関東で最大級の鍾乳洞がある。
そんなん行くよ。
で、鍾乳洞自体も素晴らしいものだったのだけど、近くの食堂のおばちゃんから「近くにいくつか有名な巨木がある、なかでも都内最大のヒノキというのが見ものだ」というような話を聞く。
バスまで時間もあるしというので、向かってみる。
ところがこの道のりが意外なほどきつい。
片道15分ほどで今思えば全然大したことないが、このときは普通に街歩きと同じ靴と服装で、少しの山道が相当に堪えた。

この木に辿り着いたときにまた何かのスイッチが入ってしまった感じだ。

一か月後にはもう、山にいた。
「言葉が追いつく前に心が決めていたんです」とは『モブ子の恋』・入江くんの名言であるが、それに倣えと調べるのもそこそこに、見切り発車気味に山に向かってしまっていたように思う。

初めての登山には何を持っていくか?
結論から言えば、ザックと靴だけ買えば充分と思う。
「登山 はじめて」くらいで検索してみると真っ先に出てくる必需品、いわゆる三種の神器といえば「ザック・靴・雨具」だが、この中で一番金がかかるのは意外にも雨具。そんなわけで自分は最初、雨具は持っていなかった。今思うと退路を確保しておく気持ちもあったかもしれない。
ともかく、神保町でキャラバンの登山靴とモンベルの20Lザックを調達し、500mlペット二本と昼食、タオル、ダイソーの雨合羽だけ詰めて山に向かった。

寄り道になるけど、道具のことに触れたので、これは必ずということを一点だけ書く。
山道具は基本的に必ず、実店舗で買うべきと思う。そして特に初めてのものを買うときには、店のスタッフに相談する。
理由のひとつには、山道具には体との相性がある、ということ。
靴を買うときに足の横幅を図られたことってあるだろうか?
バックパックを買うときに背中の長さを測られたことは?
理由のふたつめは、単純に、店で山道具を買うことは面白い、ということ。
正直、自分は服屋などはメチャクチャ苦手なのだが、山道具屋にはあの「困る感じ」のいろいろ、「自分も色違いで何色か揃えちゃいました」「そのサイズはこれが最後の一着になります」に象徴されるような諸々が、一切ない。
山道具が実用性のものだからなのか、スタッフも山が好きでそこで働いているからなのか、あらゆることに整然とした理由があって、山道具を買うことはいつも「気持ちの良い買い物」になる。

基本のものだけ揃えたら、次に決めること。
初めて登る山はどこにするか?
高尾山か筑波山にしておけ、というのが様々なところで書かれているけど、正直自分が登りたいところに登るべきだろうと思う。
やまクエでざっくりと難易度は確認できるので、初級のところをザッと見て、何なら気になる山でイメージ検索などもしてみて、自分が本当に登りたいと思う山に決めればよいと思う。
自分の場合は見たいのは巨木か巨岩か崖だろうと考えていて、この岩殿山か千葉の鋸山か、というところまで絞った。
当日の朝の天気を見て岩殿に向かったという流れ(この登山がよほど良かったということなのか、鋸にも四日後に登っている)。

600mほどの標高の岩殿から969mの棒ノ嶺、1724mの百名山である両神山、2031mの乾徳山と、毎週山に向かっては、どんどん高度を上げていった。
梅雨が近づいて気温と湿度が上がってくると、速乾性に優れたウェア各種・タオル、水筒としてサーモボトル、もちろん雨具、と少しづつ装備を整えた。行動食のちょっとした菓子と速乾タオルをサコッシュに入れて胸の前に提げておくのがお決まりの格好になった。
なんだか怒られそうな話だが、ヘッドランプもこのあたりでようやく持つようになった。


虚無が山になるまで 一年目の登山記・Bに続く

それぞれの山の細かな登山記録と写真はYAMAPの自分のページで公開している

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