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夢の話 - 白いワゴン

「他人の夢の話ほどつまらないものはない」などとよく言われる。
こういう言葉の存在は私にとって迷惑以外の何物でもない。
誰もが、夢の話など他人に話すものではない、という規範を内面化してしまう。
人から見た夢の話を引き出すためのハードルがひとつ増えることになる。
私は、見た夢の話を人から聴くのが好きだ。

こんな夢を見たという話を聴いた。

  *  *  * 
 

見た夢でですか。見た夢。
そだなあ、めちゃくちゃ憶えてるやつがひとつあって。
あのですね、白いワゴンに乗せられてるわけです。山道をね。
いや、その前段階が一個あって、都心っぽい、ビル街の前のターミナルからちょっと出たようなとこですね、太い通りがあって、その路肩なんです。ガードレールがちょうど空いたとこに白いバンが止まってて、それに乗せられるんです。
あ、時間ですか。昼か、昼過ぎか、まあ、明るい時間ですね。夏っぽかったけど汗かくような気温でもなかったので、夕方だったかもしれない。あと、雲がでかかった気がする。
まあとにかくそれで、路肩の白いバンのドアが開いてて、そこに白いポロシャツの男が立ってるんです。真ん中分けみたいな髪型で、顔にやけにできものが多くて、その顔は、なんか憶えてます。車はミニバスというか、ハイエースみたいなやつですね、八人くらい乗れるような。白くて、ちょっと汚れてた気がします。十年くらいは使ってそう。
男と目が合うと、手板に挟んだ紙に何か書き込んで……名簿なのかな?……頷いたんで、俺、車に乗り込んだんです。いや、その、乗る理由とかは特にないんですけど。夢ってそういうのあるじゃないですか。なんか、乗るもんなんだなと思って。
俺が乗ったら車はすぐに出たんですけど、他に三人、男が乗ってて。三人……だったと思います、いや、そいつらのことはあんま憶えてなくて、顔も分かんないです。
さっきの手板の男がハンドル握って、何も言わずに走り出して。都心っぽかったのに、すぐ山の中みたいな雰囲気になったんです。道は一応舗装されてるんですけど、結構ガタガタというか、ツギハギみたいな。土とか木の枝も落ちてて、この道、大丈夫かなっていう。
それで、そうやって車揺られてるうちに、目的地思い出したんですよ。思い出したというか、ずっと憶えてたけど全然気にしてなかったってほうが近いか。ああ、そういえば、って感じで。
あー、お笑い番組の収録に行くんだよな、これから。唐突にそう思ったんです。
いや、俺は全然、実はお笑いやってるとか、そういうのは全くない。ははは。M1とかはそりゃ見るけど、出たいとか、そういうのも全然ないです。ははは。
まあそういうわけなんで、収録に向かってると。なんか、スタジオで撮るってのも分かってて、じゃあそんな山奥にスタジオがあんのかって話なんだけど、そこは疑問を持たないんです。夢だから。ははは。
で、そういうことを思い出すと、カーステからなんかのコントの音声が流れてるのに気づくんですよ。細かい流れとかは覚えてないですが、鳥居があって、みたいなこと言ってて、神社で……あるじゃないですか、厄払いとか七五三とか、ああいうやつですね、あんなシチュエーションのコントだったと思います。
それを聴くでもなく聞きながら車の外を見てると、どんどん道が狭くなってくんです。一車線で、土をえぐって通したような感じになってて。車の横とか天井に、枝がバチバチ当たってるんですよ。でもスピードは結構出てて。うわー大丈夫かなみたいな。
そのうちに、窓の外から音が聴こえてきたんです。ブイーーーーンっていう、あれですね、あの、木を伐ったりとか……チェーンソーで伐採してるような。あるじゃないですか、街中でもときどき街路樹伐ったりとか。あの音がですね、外からしてるんです。それでなんか、林業の業者さんとかが入ってる山なのかな?と思うんですけど。ただ、その音がですね、ずっと遠ざからないというか、車と並走してるのかってくらい、同じ感じで鳴り続けてるんですよ。え、何?って思って。
そういう変な状況だから、他に乗ってる人らが……初対面っぽくて話しかけたりする感じではなかったけど……なんか反応してるかなと思って、それまでは窓の外見てたんですけど、車の中を改めて見たんです。
そしたら、その座席の他の……三人ですかね、その人らが、俺の方じっと見てたんです。なーーーんにも言わずに。じーーーっと。
え、なに、めっちゃ怖、って思って、車降りたいと思ったんですけど、結構なスピードで走ってるし。
そう、席の配置でね、こう(テーブルの上に縦長の長方形を指で書いて、左辺の真ん中あたりをトントンと叩く)俺は最後に乗り込んだから、ドア側の席にいたんですけど、右前が運転席じゃないですか。そっちは透明のビニールのカーテン?で区切られてたんですけど、ちょっと、運転手さん!って。そう言おうと思って、運転席のほう見たんですね。
そしたら、運転手さん、体ひねって頭ごとこっち向けて、俺のほう見てたんです。ビニールのカーテン越しなんで、それがぼんやり見えてて。
うおおっ、って思って。前見て、前。前見て運転して、ってね、そういう感じですよね。そう思ったら運転手さんが前に向き直ったんですけど、またすぐこっち向く。で、車の外にはブイーーーーンっていうあの音がずっと鳴ってる。カーステからはコントの音が流れてる。そのコントの音が、なんかオチに行きそうで行かない感じというか……。
いや切れよ!ってね、言ってるんですよね。切れって、そこは!切ろうよ!切るだろそこは!みたいな、よく分かんないツッコミが延々入ってて。ボケ役の声なのか、ああ、うん、みたいなテンションの低い合いの手があって……切れよ!切らないのおかしいだろ!うん。だから切ろうって。ほん。切ろうって!もう!ああ。刃物もあるんだしさあ、切ろな!?うん。切るから、もう切るから!ええな!切るよ?

みたいな感じで、その先は分からないので、たぶんそこで目が覚めたんだろうな、という、そういう夢ですね。よく考えたら俺、中学のときに一瞬お笑い芸人になりたかったときあって、それでその夢見たのかもしれない。




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