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夢の話 - 彼女

「他人の夢の話ほどつまらないものはない」などとよく言われる。
こういう言葉の存在は私にとって迷惑以外の何物でもない。
誰もが、夢の話など他人に話すものではない、という規範を内面化してしまう。
人から見た夢の話を引き出すためのハードルがひとつ増えることになる。
私は、見た夢の話を人から聴くのが好きだ。

こんな夢を見たという話を聴いた。

  *  *  * 
 
夢といえばね、めちゃくちゃ変なんだけど、こういう夢見たのよ。
いやね、別れ話してんのよ。それが。いきなり別れ話してる夢なんだよ。
ファミレスの角っこの席でね、四人掛けのちっちゃいテーブル席で。向かいに座ってる彼女が、もう、俯いて泣いちゃってるわけ。肩とかこう、ヒックヒックみたいな、それでお絞りで鼻の下拭ったりとか、もう、めっちゃ気まずいのよ。それは。時間は夜で、店の中は結構賑わってるんだけど、あまりに気まずすぎるのか、私らの周囲の席だけ空いてるのね。笑。だから、賑わい?ざわめきも少し遠い感じでね。店員さんも気使ってか全然来ないんだよね。笑。それで、テーブルの上には食べ終わった後の皿がめちゃくちゃ放置されてるのよ。笑。サラダ皿みたいなのが三、四枚重なってたり、あのグラタンとか入れる感じの丸くて厚い皿とか、グラスが、なんで二人なのに四つもあるんだよ、笑、とかね。別れ話で来たわりには、食うね~~~、という。笑。で、また、テーブルの脇に立ててある紙ナプキンをさ、彼女がね、めっちゃ取るのよ。笑。それで鼻とか目を拭っては、空いた皿なりグラスなりに入れる。笑。で、テーブルの上……なんか……あの……幼稚園のお遊戯会とかで……、紙で作った花いっぱい飾るやつみたいになってきたな、みたいなね。笑。
彼女がね、もう゛~~~、な゛んでえ゛~~~、どうしてよ゛お゛~~~、みたいな感じで、これまたズルズルな声で言ってんのよ。
ま、私は……もう無理、って言ったの、そもそもあなたの方ですよね?って思うわけなんだけどね。笑。いや、理由はないんだけど、なんかそういう記憶があったんだよね、その夢の中では。
私はもう、至って冷静にね、笑、こうなったらもう無理でしょ、って。もうさ、前向きにさ、お互い、忘れてさ、ってね、って言うわけなんだけど。
なんで?
私が悪い?
私が悪いの?
ねえ、私が悪い?
私が悪い?
私が?
ねえ、あのさ、
私なの?
私が?
悪いの私?
私が悪いの?
そう言う彼女の目が、もう真っ赤でズルズルで、睫毛とか取れてるその目が、まっすぐこっちを見てて、かなりキマってる感じだから、あ、これはヤバいかな?って思ったんだ。笑。
テーブルの上、彼女寄りの方に、チーズとか挽き肉の破片がついてるステーキナイフとフォークがあって。もう、彼女と目を合わせたまま手をそっちにソロソロ持ってってね。最悪の事態だけは回避しようと。笑。
で、膠着状態で、睨み合いで。ああ、なんか、中島みゆきの歌でこういうのあったよな。もうね、現実逃避。笑。したら、ふっと彼女の後ろに意識がいったんだよね。席としては、私が店の壁を背にしてて、左側が窓になってて、彼女の後頭部越しに外の道路が見えてたんだよ。
その外の道路、夜で、街灯も少ないのか、すごい暗いんだけどね。ファミレスから道を挟んで向こうが林というか、草むらというか、そういう感じで、そのときはなぜか、湖だなと思ったんだけど。あの林の向こうに湖があるなって。で、とにかく、その道路よ。信号があるんだよね。分厚い、古いタイプの信号ね。
見てると、その信号がずっと赤なんだよね。点滅の赤じゃないよ。点滅の赤だったらずっとでもおかしくないけどね。ずっとベタ赤なのね。話してる間。五分も十分もね。あれ?なんで変わんないんだ?って思ってて、そういえば車も来ないしなあ、って思ってて。
いや、それで終わり。
いや。特にない。笑。
夢だから、そこで。笑。
え?
うん、いや、妻じゃない。妻じゃない、その女は。笑。
全然知らん女。笑。
いや、夢だから、その女が彼女という設定がするっと頭の中にインストールされてただけで、改めて考えると全然知らん女。
誰か?
いや、そもそも顔憶えてないから。笑。概念的な女というか。笑。
いやでも、概念的な女だけど、名前は憶えてる。笑。
いや、名前は一度も聞いてない、夢の中では。ただ、夢の中だから、設定として憶えてる。笑。
よこは、よこ、の、横ね。あ、横浜の横。まちは町ね。タウンね。市場の市。いや、その、市場の場が、葉っぱの葉なんだよね。イチバなんだ、名前が。
横町市葉。
彼女については、その名前だけ、ずっと憶えてる。
結局彼女とはその夢のなかでだけなんだけど、ただ、全然関係ない夢見てるとき、電柱の、あの看板みたいなのあるじゃない、あの、薬局とか、整骨院のさ。笑。他の関係ない夢の中でふと電柱に、看板が留めてあるんだよ。笑。
で、そこに横町市葉って書いてあるの。笑。
うん、夢の内容とか、そんなに憶えてるわけじゃないけどね。
ただ、その看板が出てくると、その部分だけは憶えてて。起きてから……、ああ、またあったなって。笑。


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