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エビやカニ、イカ、タコも痛みを認識するなら、生きたままゆでることを禁止すべきか?

2019年に改正された動物愛護法では、「人と動物の共生する社会の実現を図ること」を最終的な目的とし、動物の福祉を確保するための基本的なルールを定めている。

動物を殺す場合の方法

「動物を殺さなければならない場合には、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によってしなければならない」
ことが求められており(動物愛護法第四十条)、これに基づくガイドラインとして、「動物の殺処分方法に関する指針」が公開されており、苦痛の定義や、痛みを認識する動物をどうやって殺すべきかなどが定められている(後述)。

動物愛護法が対象とする「愛護動物」

・牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと、あひる
・人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬は虫類に属するもの

が対象であるとされている(動物愛護法)。
これによれば、エビやカニ、イカ、タコなどの甲殻類や軟体動物は動物愛護の対象とならないと考えられる。

甲殻類や軟体動物は痛みを感じるか?

甲殻類や軟体動物は、ほ乳類と違って単純な神経系しか持たず、動物のように「痛みに対する認識」をしないと考えられていた。
しかし近年、タコやイカ、カニなどにも苦痛を感じる「知覚」があるとする報告書がまとめられ、これらの無脊椎動物は痛みに単に反射的に反応しているのではなく、痛みを記憶し認識して行動しているのではないかと考えられるようになってきた。

痛みや苦しみを感じることができる甲殻類や軟体動物も動物愛護の対象とすべきか?

苦痛とはなにか?

痛覚刺激による痛み並びに中枢の興奮等による苦悩、恐怖、不安及びうつの状態などをいう(「動物の殺処分方法に関する指針」環境省、2007年11月)。

痛みを認識する動物をどうやって殺すべきか?

化学的又は物理的方法により、できる限り殺処分動物に苦痛を与えない方法を用いて当該動物を意識の喪失状態にし、心機能又は肺機能を非可逆的に停止させる方法によるほか、社会的に容認されている通常の方法によること(「動物の殺処分方法に関する指針」環境省、2007年11月)。

動物愛護法は誰のどんな利益を保護するか?(保護法益)

動物への殺傷行為や虐待行為や遺棄行為を処罰するものではあるが、その保護法益は動物そのものではない。
動物愛護法の第一条(目的規定)によれば、

「国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵かん養に資する」

ということであり、保護法益を「『動物を愛護する気風という良俗』(動物愛護の良俗)に求めるのが妥当だろう」とされている(『日本の動物法 第2版』青木人志(一橋大学副学長、法学研究科教授)東京大学出版会、2016年)。

諸外国の例

スイスでは2018年1月に動物保護規定が見直され、ロブスターを含む甲殻類を生きたまま熱湯でゆでる調理法を禁止する規則を設けている。
ノルウェーやニュージーランドも甲殻類を生きたまま茹でる行為を禁止している。

イギリスでも、タコやイカ、カニなどにも苦痛を感じる「知覚」があるとする報告書がまとめられ、動物愛護法で対象とする「動物」の定義について、甲殻類や軟体動物も含むべきということを明文化した「動物福祉(感覚)法」の審議が行われており、軟体動物や甲殻類を「知覚」動物に含めることになるとみられている。
なお、イギリスには動物知覚委員会という専門家の委員会がある。

アニマルウェルフェア

アニマルウェルフェアとは、動物が生活及び死亡する環境と関連する動物の身体的及び心理的状態をいう。
ヨーロッパにおいて定着し、国際的にも知られた概念。

5つの自由

①飢え、渇き及び栄養不良からの自由
②恐怖及び苦悩からの自由
③物理的及び熱の不快からの自由
④苦痛、傷害及び疾病からの自由
⑤通常の行動様式を発現する自由

がアニマルウェルフェアに役立つ指針として示されており、日本でも考慮する必要がある(「アニマルウェルフェアの考え方に対応した肉用牛の飼養管理指針」公益社団法人 畜産技術協会、2020年3月)。

(参考)野生状態にある動物以外の飼養動物

①家庭動物(家庭などで飼育されている)
②展示動物(動物園などで飼育されている)
③実験動物(実験用に飼育されている)
④産業動物(肉・乳・卵・皮・労働力などのために飼育されている)

動物愛護法にはこれらの明確な定義はない。

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