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サーフィンの隠れた経済効果

2021年2月にBBCの記事「The unexpected benefits of surfing」を読んで感銘を受けた。私自身もサーファーであることながら、サーフィンの環境的側面・社会経済的側面について、波待ちでボーとしている時にふと考えたりしていたことではあった。以下に、BBCに記載されている内容、その周囲の有益な情報を自分の情報整理のためにも翻訳したものを記載する。
サーファーなら是非とも読んでいただきたい。

Lobitos

ペルーにはLobitosというサーフスポットがあるそうだ。
日本ではあまり聞かないサーフスポットではあるが、夕日が非常に綺麗で波質も良く、サーファーを惹きつける魅力的な場所だそうだ。
Lobitosの波質を確保するために、ペルーでは国の法律として波(Wave)を保護するルールを制定している。この法律により、洋上石油開発・漁業活動などに制限を設け、サーフィンできる波に影響を与えないように保全しているというのだ。

これは、単純ではあるがサーファーにとっては「なんて素晴らしい法律なんだ!」と思うのは私だけではないはず。サーフィンにおける波の重要性は言うまでもないがそれを法律により保護するという半ば空想上の考え方が現実に実施されていることが驚きである。

ただし、この法律は単純にサーファーのための波を確保する役割だけではない。間接的に、Lobitosにサーフィン目的で来訪する観光客集めとして経済的貢献、Lobitos周辺の多様な生態系システム・自然資本の保護という観点からも大きな影響力を及ぼしているというのだ。


バリ ウルワツ

もう少し日本人サーファーにも馴染みのあるバリについて、サーフィンがどの程度経済規模があるのかを調査した内容がある。
バリの有名なサーフスポット、ウルワツについて国際的NGO団体CIやインドネシアの大学が連携して研究した文献がある。

ウルワツの推定した経済的な評価額は以下のようである。
・年間約24万人ほどのサーフツアー客が世界から来訪している
・サーフツアー客は平均$150/dayを現地にて使い、ウルワツの年間歳入は$35 million(日本円換算約37億円)

この金額は経済的価値を表しているだけであり、環境的価値(環境資本)を表しているわけではない。ウルワツは(バリ全体的にも)観光中心主義での開発が続いており、必ずしもそれはSustainable(持続可能)なものではない。
単純に、これが自然資本に依存しない観光地の話であればさほど問題ではないのだが、サーフィンは自然と密接に関係しており波質に影響を与える開発、リゾート開発で汚染された水が海に放流され人体に影響を与える、観光地化されたお店から出る無秩序の廃棄物・ゴミの海洋流出など様々な問題が考えられるわけだ。

Suronomics

そういったわけで、ここ数十年、サーフィンと経済学を組み合わせたSurfonomicsたる考え方がここ十年ほど前から普及し始めているようである。

コンセプトとしては「サーフィン資源を経済的に評価する考え」。
サーフィン資源、それすなわち…「?」で漠然としてるがとりあえず先に話を先に進めよう。

「Save the Wave Coalition」というNPO団体がある。当団体は文字通りサーファーのためにも重要な世界中の波を守ろうと活動している団体である。
様々な文献や活動報告などを行っており、商品も売っているため興味があったらチェックいただきたい。(私もパーカーやらシャツを購入した)

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当団体では先程のウルワツのようにサーフィンの経済的影響を評価する手法(Suronomics)を用いて、他のマーベリック(Mavericks)やスペインのサーフスポットについても調査および活動を行っている。

これらの活動は例えば「政治的関与」を行う上では非常に重要である。
サーファーが、サーフィンをやらない人に対して「サーフィンは経済的価値があるんだぞ!」といくら主張しても「どんくらい?」という問に答えることは難しいと思う。環境的価値は難しくても、少なくとも経済的価値は定量的に言い表せるのは、今後サーフスポットにおけるテトラポットの開発、洋上風力開発、護岸工事などの際に反対意見として大きな影響力を持つだろう。

そういった意味ではSuronomicsは理解を得るのにかなり有力な武器になる。

環境的側面

こうした働きかけによりサーフスポットを保護することは経済的価値を持続するだけでなく、底生生態系(海底面に生息する生き物や植物)が存在し続けるために必要な物理学的特性も保護することに間接的につながっている。
底生生態系は、サンゴ礁をイメージしてもらうのが一番わかり易いと思うが、サンゴ礁が存在することによって周辺の魚やプランクトンに有益な場所を提供できるという基礎的な役割を果たす。

ここで、もう一つ違う文献の内容を紹介したい。

Surfing and marine conservation: Exploring surf‐breakprotection as IUCN protected area categories and othereffective area‐based conservation measures

↑こちらではグローバルのサーフスポットと自然保護地域の関係性について考察している。下図を見てもらうと一番わかり易い。

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青と黄色い丸い点はサーフスポットとして有名な場所であり、青の網掛けで覆われている部分は海洋生態系が豊かなホットスポットである。
この図からも分かる通り、海洋生態系のホットスポットに多くサーフスポットも点在している。
残念ながら日本はサーフスポットととしてプロットされていないが、海洋生態系のホットスポットとしては日本の太平洋側の殆どの場所が該当している。
私自身、湘南の海でサーフィンすることが多いので必ずしもサーフィンをしていて自然豊かな場所だという実感がないのは正直なところだが世界的に見るとサーフィンできる場所は海洋生態系的に豊かな場所が多いことに改めて気づいた。

サーフィンという唯一無二のスポーツ

サーフィンはつくづく特別なスポーツだと感じる。海洋ごみ、下水およびその他の水質汚染、沿岸問題、気候変動など複合的な環境問題が関わってくるスポーツなんて他にない。
また、自然を大事にしている有名タレントなどがサーフィンをマーケティング活動に用いたりすることもあり、一般人からサーフィンに対する先入観というものはものすごく植え付けられている気がする。(かっこいい、自然が好き、イケイケ、チャラい、などなど)実際、サーファーという1つの持ち味だけで芸能人としてもやっている人も出てきているくらいだ。

彼らはよく環境が大事、エコの精神、言葉の意味をよくわからずサステナブルなファションなどという訳のわからない言葉を使う。アイコニックであり、それは大いに結構だ。インフルエンサーとして環境リテラシーのない人々に考えるキッカケになることはあるのだろうし、関連マーチャンダイスが販売されることで経済効果も生むだろう。
サーフィンは極論、板一つを使うだけであって、他のマリーンスポーツ(例えば、船釣り・ダイビング)などは酸素ボンベや船を使用する機会が多く活動自体がエミッションフリー(=二酸化炭素排出なし)である。しかし、サーフトリップに行くときの飛行機、車による温室効果ガスの排出、板やウェットスーツを製造する際の石油由来の材料、サーフワックスや日焼け止めによるサンゴ礁への化学的影響は考慮しているだろうか?
そこまで環境のことに造詣が深く知識や頭が回っている日本人プロサーファーはいたら是非手を上げて、そういった科学的な側面も発信して大いに結構だ。

「良いサーフポイント見つけるために、インドネシアでもどこでも良いからちょっと旅して見ようぜ。そのためにはちょっくら車が走れるためにジャングルの森林、切ってもいいだろ。」
そんな考えはまったくもってかっこよくない。(でも、サーフトリップ動画では、奥地のオフロードを車で走り、ようやくたどり着いたスーパーシークレットスポット。みたいな編集の仕方をするのは少なくないはず)

まとめ

Surfonomicsという考え方はまだ未成熟だが、サーフポイントの重要性を他のステークホルダーに主張していくには有効な手法であると考える。
日本では、サーフトリップに訪れるべき自然豊かな場所は限られているかもしれないが、例えば種子島や父島、新島あたりからこういった調査を進めていくと、良いケーススタディになるのではないだろうか。
普段、自分自身湘南や千葉でサーフィンすることが多く、アザラシやイルカがいるようなところでサーフィンすることはなく、陸側には建物や人工物のほうが自然より見える割合が多いが大半だ。ほとんどの人がそうだろう。

しかし、今後サーフトリップで訪れる海外などではこうした考えがあることをもとに、ただサーフィンを現地で楽しむだけではなく、そこでサーフィンができる観光要素、自然要素、社会的要素などを噛みしめることでより一層サーフィンに対する思いは強くなるのではないだろうか。

最後に、本内容はBBCの記事をもとに記載しているのですが、著作権などでなにか問題があるようであれば連絡いただきたい。

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