創作1ー⑤『タイトル未定』 2022.12.21
すぐに治ることを期待して、毛布を頭からかぶった。
食道から胃にかけて食べたパンの圧迫感を感じる。
三上はぐるぐると回る深い溝の世界にいた。
なかなか眠りにつけない。
頭からずっと溝の底へと落ちていく感覚はするのに、眠くなるどころか
逆に緊張していくかのようだった。
ふとどこからともなく視線を感じる。
それは三上の足の方からだった。
落ちていく三上にピッタリくっついてくるように追ってくる。
あの、ゴミの山にあった男の目であった。
見上げて、目が合った瞬間、締め付けられるように頭が痛い。
たまらず目を開けた。
嫌な汗をかいている。
いつの間にか眠りに落ちていたのか。夢だったのか。
三上は自分の感覚がわからなくなっていた。
頭痛の中にあの目がある。
キッチンに行って水を飲んだ。
水が喉を通ることで余計に渇きを感じる。
三上はそのままシャワーを浴びることにした。
蛇口を思い切り捻りヘッドノズルから勢いよく水を出す。
古いせいか温かくなるのに時間がかかる。
その間、寒さなのか恐怖なのか三上はずっと震えていた。
ようやく湯気が立ち上がると、頭からかぶった。
目を閉じるのが怖くてずっと開けていた。
お湯は肩、胸、腰と三上の体を通り、足先からタイルに流れ
排水溝へと吸い込まれていく。
昨日の雨と違って温かさを感じ、少しだけ冷静になれた。
しかし、ずっと視線は注がれているようでもうどうすることもできなかった。
三上は服を着て、上着を羽織ると外に出た。
うっすらと東の空が淡くなっている。
ポケットに手を突っ込んで、大股で歩く。
吐く息は白く、街灯の明かりをぼんやりと拡散したが、
三上の意識ははっきりとしていた。
昨日見つけたゴミの山に着くと、再び男と目が合った。
三上は唾を飲む。
どうしてそうするのか自分でも全く理解できなかったが、
積まれたゴミを分け入り、男の頭を両手で掴んだ。
すっと上に持ち上げると三上よりもずっと大きくて、
仕方なく横に引っ張ってそこから助け出した。
三上は男の上げる右手の脇を抱えて、家に向かって歩き出した。
三上をそうさせたのは、怒りだった。
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