奧信濃伏野峠 奧越後星峠ラウンドライドメモリー
序章
奧信濃とは前回も触れた様に、長野県北部の東側、新潟県、群馬県境の飯山中野地方を指す呼称で有る。奧信濃は新潟県の上越市、十日町市、中魚沼郡などに接していて新潟県から見れば、奥越後といってもおかしく無いと思う。奥越後という表現はあまり耳にしないが、ネットで検索すれば、いくつかヒットするので存在する呼称である。特に長野県飯山市、上水内郡栄村に接している新潟県地域を「越後妻有」(えちごつまり)と呼ぶ。妻有とは 十日町市、津南町の事で「どん詰まり」から転じた呼び名だという説があり、信濃川の最上流の四方を山に囲まれた「奥深い行き止まりの地 」という意味であるらしい。しかし僕はあえて奥信濃からのアプローチなので、奥越後と呼ばせていただく。その十日町市に「星峠」と呼ばれる峠がある。名前からして唆られるではないか。その峠から見下ろす棚田は「星峠の棚田」と呼ばれ十日町市も観光の目玉にしているので、絶景であるらしい。そんな新潟県妻有(十日町市・津南町)地方で、3年に一度開催される現代アートのイベント「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」において、建築家伊藤嘉朗が2006年に企画・発案したサイクリングイベント「ツールド妻有」が開催されている。これは自転車で巡るアートツアーで、星峠もそのコースの一部になっていて、一度は訪れたいと思っていた。今回紹介するライドは2021年の真夏に奥信濃と奥越後の峠を繋いでラウンドした記憶である。(表紙の写真は星峠から見た棚田 「にいがた観光ナビ」から借用したものである。
計画
真夏である。寒さを気にせず思う存分ライド出来る良い季節である。しかし日中は30℃を超えるのでこれもまた試練である。真夏のライドは裸になっても暑い。(裸になればもっと暑い)寒さの対応は重ね着や、使い捨てカイロがあるので何とかなると思うが実はそういう訳でも無い。ロングライドを嗜むのは真夏と真冬を避けるのが良いに決まっている。しかし、空いた日にちに計画を詰め込まなければならないので、剛には郷に従えである。目的は十日町の星峠なのだけれど、地図を眺めているとコースが出来上がった。飯山市の「道の駅花の駅千曲川」に車をデポして「戸狩野沢温泉駅」「なべくら高原」「みゆきのライン」を経由、R403の県境「伏野峠(ぶすのとうげ)」を超えて新潟県上越市に入り「キューピットバレイスキー場」をダウンヒル、R405を上がって「星峠の棚田」へ。そのまま新潟県道80号線を十日町方面へダウンヒル、R353経由でR117津南町へ繋ぎ、長野県栄村、そして飯山市の「道の駅花の駅千曲川」に戻ってくると充実のラウンドが出来るではないか。しかし高低差が脅威であるのは確かであった。検索した結果は距離112.5km、獲得標高3060mと出た。
マジか。
2021年8月29日 日曜日 朝
朝5:00準備をして家を出た。車を「道の駅花の駅千曲川」にデポして、6:00少し前スタートした。此の季節の飯山市の日の出は5:16、日の入りは18:20 「未知の道」のライドには日が長く、しかも真夏の朝は快適な気候で何のストレスも無く申し分無い。信州の朝は真夏でも寒い位だ。最初の課題はひたすら「伏野峠」を目指す。R403をそのまま辿れば良いのだけれど、県道上越飯山線95号を温井集落へ登っていく。スタート早々、戸狩駅で道を間違えるが、直ぐに修正した。途中、奥信濃の銘醸造所「角口酒造店」を通過する。以前ここの清酒、「北光政宗純米吟醸雪明り」を頂いたが、甘過ぎない発泡性の飲み口に感動したのを思い出した。
此の道は鍋倉山に毎年冬、山スキーに訪れていて、入山地である温井集落の積雪の無い真夏の風景は、雰囲気が違い新鮮であった。
伏野峠へ
このまま県道95号を登って行くと、開田峠を超えて新潟県上越市板倉区に向かう。(此の県道は長野、新潟両県共95号で、番号を共有していて両県共、県道95号である)長野県と新潟県を分ける、東西に延びる開田山脈を超える車道ルートは、西から順番に「開田峠」「牧峠」「伏野峠」「野々海峠」「深坂峠」の5箇所で勿論冬季通行止めである。今回のルートは、「みゆきのライン」を経由して「開田峠」から東へ2番目の「伏野峠」を目指す。途中、95号を右折すると直ぐに「みゆきのライン」である。ここからR403迄の約5.6kmで、途中紅葉のスポットとして有名な「羽広大橋」がある。
快適なアスファルトのアップダウンの広い農道が続く。暫くしてR403に呆気なく直交すると(現場に行けば納得する、本当に呆気ない)いよいよ「伏野峠」迄の距離8.3km、獲得標高536mのヒルクライムが始まる。平均勾配は6.3%程か。高度が上がるに連れて振り返ると遠くに苗場山、草津白根山などの上信越国立公園の山並みが見渡せた。登りのワインディングロードが続き正直キツイ。当時SuperXのギアはフロントシングルで、リアは11段、一番軽くて40tx34t、ギア比は1.17でクランク1回転でホイールが1.17周する計算になる。どんな登り坂もこれでこなさなくてはならない。これで充分だという人もいるけれど、僕にはもっと軽いギアが欲しい。(現在はリアに42tを取り付けてある)登っても登っても、幾つカーブを超えても終わりが見えない道に気が遠くなる思いだった。すれ違う人や車も無かったがエンジン音が聞こえて来ると、1台だけ長岡ナンバーのジムニーがガソリン臭を残して追い越して行った。やがてブナの原生林の深い森の様相となり、心拍数は爆上がりだが、とても気持ちが良かった。勾配も緩くなるとやっとの思いで「伏野峠」に辿り着いた。一息入れると木々の香りが新鮮だった。
伏野峠は、「信越トレイル」という新潟、長野の県境に位置する標高1000m前後の開田山脈の幾つかの峠のひとつで、近年整備された尾根上に延びる、全長110kmに及ぶ国内でも稀なロングトレイルの通過点の一つである。この開田山脈は昔から信濃と越後を結ぶ交通の要所として、トレイルと車道を含めると、両県境には現在16もの峠が存在し、その昔、越後からは塩や海産物が、信濃からは内山和紙や菜種油が運ばれた主要道路だったそうだ。
廃道
伏野峠の辛い登りに開放されると「菱ヶ岳」の西面を縫うように、棚岡集落迄、距離13.7km 高低差810mの長いダウンヒルが始まる。菱ケ岳の北面にはキューピットバレースキー場がある。途中R403を離れてスキー場を横断し、大島区菖蒲集落まで下ると、保倉川沿いの長閑な山村風景となった。県道229号線菖蒲棚岡線を直進、三竹沢集落から星峠へ向かうR403迄林道があり、計画段階でサイコンにルートを入れて来たが、すでに廃道化していて、藪が煩く突っ込む勇気は無く引き返す。 おまけに大量の藪虻に刺されるは、新調したサングラスは落とすは、無駄な体力を使うはで散々な目にあった。何度か周辺の道を模索するが、無駄な時間だけが過ぎていった。 結局そのまま県道229号を棚岡集落まで下り、素直にR403に合流して星峠へ向かった。物事は慌てずに着実に進めることが、結果としてうまくいくということである。(急がば回れ)
星峠へ
保倉川を渡りR403に合流すると「星峠」迄、距離4.7km 高低差244mで、5.2%の登りとなる。真夏の10:00を過ぎると流石に暑くなってきた。おまけに天気も良く、太陽の光に焼かれてバテテきた。途中トンネルが有り心地が良い。何時もならトンネルは鬱陶しいが今日は別だ。後続の車も気にせずゆっくりとペダルが回る。しかしジッとしても居られず先を急ぐ。蝉の鳴き声が煩くなってくると、お待ちかねの「星峠」にようやく辿り着いた。
峠には「星峠の棚田」と書かれた大きな看板とモニュメントが有り、広い駐車場と道路を挟んで展望台も整備されていた。カップルのローディが登って来て軽く挨拶を交わした。景色を見下ろしたが、木々が繁茂した夏より、稲穂が黄金色になる秋か、雪が積もった冬の方が良かったかもしれない。地図を見てみると此の辺りには幾つかの棚田が観光名所として記載されていた。流石、米どころ新潟である。ボトルの水も無くなっていたので、自販機を探したが見つからず、諦めて先を急いだ。下る道を間違えて修正(方向音痴と地図を見ないのが僕の欠点)棚田をダウンヒルして新潟県道353を進む。此の道も雰囲気が良くて気に入った。やっとの思いで食堂の自販機を見つけ、身体とボトルに補充ができた。(ここで食事を取れば良かったと後で後悔する)トンネルが数箇所あり、暗くて車に突っ込まれるかもの恐怖で決死で突っ込んでいった。それでも下り勾配でペダルがストレスも無くよく回ったのを思い出した。その後も何度か喉が渇いて道沿いの自販機を見つけては水分補給して津南駅に辿り着いた。
試練のゴール
そのまま「信濃川橋」を渡りやっと信号「津南駅前入口」R117に合流した。ラスト33.5km 359mの登りである。津南あたりで食堂に入ろうと我慢して来たけど、メイン道路の食堂は日曜日は定休日なのか、全てクローズ。諦めて先を急ぐ。ハンガーノックと脱水に耐えて、自販機のたびに水分補給、暑くてやっていられない。やっとの思いで「みちの駅さかえ」に辿り着き、具合が悪いが、胃袋に無理やり「焼き肉定食」を詰め込んだ。 その後「道の駅野沢温泉」でソフトクリームと水道水を浴びてクールダウン、「道の駅花の駅千曲川」迄の僅か11.8kmは大した勾配も無いのだけれど、なかなか辿り着けなくて、一番辛かったかもしれない。試練の1日であった。
サイコンデータ
走行時間:6時間45分24秒
走行距離:110.99 km
平均速度:16.43 km/h
最高速度:62.06 km/h
ケイデンス(最大):106 rpm
ケイデンス(平均):57 rpm
心拍数(最大):172
心拍数(平均):125
心拍計を装着していたので記載。
あとがき
此の冬(自転車のオフシーズン)に、過去の記録を思い出しながら幾つか掲載してきたが、改めて振り返ってみると鮮明に当日の事が、タイムスリップしたかの様に蘇ってくる。まだまだ行ってみたいところは山ほどある。今年のオフシーズンは大雪と春の様な陽気が両極端で山スキーにはあまり出かけなかった。2月に夏の様な陽気になり、その後大量の降雪が有り、3月の山は雪崩事故のニュースが多かった。この記事を仕上げている3月18日、明日からまた大雪の予報が出ている。今年は娘とゲレンデスキーで終わりそうだ。過去に自転車の記録をアップしていた「サイクルリング」というウェブサイトがあったが、閉鎖されてしまい、バックアップをしていなかったので、大半の記録がデータと共に飛んでしまった。幾つかはパソコンにGPSデータは残っているので、探しながら振り返ってみたいと思う。それにしても、花粉症の症状が昨日辺りから出てきた。もうすぐ4月である。今シーズンの自転車は、まずは何処に行こうか思案中である。
完
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