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罪と祈り

貫井徳郎先生の「罪と祈り」です。

2020年9月に読んでいたのですが、こちらでの紹介は遅くなりました。

登場人物やあらすじを長めに紹介です。
そして、最後にネタバレしています。

濱中亮輔 会社が倒産し、現在無職の30代。
濱中辰司 亮輔の父。元警察官。遺体で発見。
芦原賢剛 亮輔の幼馴染。警察官。
芦原智士 賢剛の父親。1989年に自殺。
岸野 捜査一課の刑事。賢剛と共に辰司の事件を捜査。
小室翔 智士と同じ職場の無口な男。
生島彩織 辰司の幼なじみ。幼稚園の先生。
生島道之助 彩織の祖父。
さくら 喫茶店「チェリーブロッサム」のママ。


現在と過去。
時代を行き来しながら、話が展開されていきます。


ある日、亮輔は父親が殺されたと警察から知らされます。
偶然にも、その現場は亮輔の友人で警察官の堅剛の捜査管轄内でした。
堅剛から捜査進捗を聞かされた亮輔は、自分がいかに父親のことを知らなかったかを知り、自分なりに過去の父親について調べ始めます。
浮かび上がってきたのは、過去に起きた未解決の身代金誘拐事件の真相でした。

亮輔はうだつの上がらない三十代です。
勤めていた会社が倒産してしまい、現在は求職中の身です。
ある日、警察から、父親の辰司が隅田川で死亡しているのが発見されたと連絡を受けます。
辰司の頭には殴られた痕跡がありました。
辰司は町のおまわりさんとして慕われ、既に退官していました。
亮輔は真面目でトラブル一つ起こさなかった辰司の死に納得がいかず、一週間だけ求職活動を休んで、父の死の原因を調べることにしました。
辰司の事件を捜査するのは、偶然にも亮輔の友人の堅剛でした。
堅剛は幼いころに父親が自殺し、それからは辰司が第二の父親のような存在でした。
そんな辰司の死を捜査することになり、堅剛は必ず真相を明らかにすることを誓います。
堅剛は亮輔が独自に調査を始めたことを知り、初めのうちは良く思いませんでしたが、調査をすることで亮輔の気持ちが落ち着くならと思い、話せる範囲で捜査状況なども亮輔に伝えます。
亮輔は辰司の知り合いなどに話を聞きまわるうちに、辰司は堅剛の父、智史の自殺をきっかけに性格が変わったと知らされます。
智史の自殺の理由は、智史の家族さえもが知りませんでした。
亮輔は、智史の自殺の真相が、今回の父親の死に繋がっているのではないかと考えるようになりました。
そんな時、亮輔が辰司の部屋の整理をしていると、過去の虐待死事件と誘拐事件のファイリングを見つけます。
警察官だった辰司にとっては不思議なことではありませんでしたが、亮輔はなんとなく引っかかるものを感じます。

過去編で、物語は亮輔と堅剛が幼稚園児だったころまでさかのぼります。

彼らの父親、辰司はおまわりさん、智史は飲食店の店員として働いていました。
彼らが暮らすのはバブル絶頂期の浅草です。
彼らは平和に暮らすことができていましたが、地域周辺の人々は地上げ屋に目を付けられ、落ち着かない日々を過ごしていました。
あくる日も、立ち退きを迫られたある一軒家が、やくざ者に庭に豚の血液をまかれるという事件が発生しました。
そんな事件が頻繁に発生し、地縁を大切にする人々も泣く泣く立ち退いていくことが増えました。
立ち退きの際には高額の立ち退き料が手に入ります。立ち退いた人々はその金に目がくらみ、引っ越し先で良くない暮らしをしているという噂も耳に入ります。
辰司も智史も胸を痛めていました。
そんなある日、二人の同級生で、浅草の住居を高額で手放した比奈子と和俊の夫婦が自分の子どもを衰弱死させたというニュースが耳に入ります。
大金を手にした和俊は毎日パチンコ生活で、子ども一人を押し付けられた比奈子はストレスで子どもを虐待してしまったのです。
比奈子は重度のうつ状態で、事件を起こしてしまったことを病んで自殺します。
この話を聞いて激怒したのが智史と同じ飲食店で働く翔でした。
翔は幼いころから比奈子が好きで、比奈子の結婚後もずっと片思いをしていたのです。

智史は一連の騒動は地上げ屋、ひいてはバブルの時代のせいだと感じます。
周囲の人々が立ち退きに苦しみ、挙句には死に至るのを、智史も辰司も苦痛に感じ、いつしか時代に復讐できないかと考えるようになります。
次第にその考えは具体的になり、いつしか地上げの元締めであるマンション開発会社の社員の子どもの誘拐事件の計画にまで発展しました。
その計画は、開発会社の子ども二人を誘拐し、二億円を奪って子どもは無事に還す、というものでした。
今まで未解決となった誘拐事件はありませんでしたが、辰司は天皇即位の日に目をつけます。
この日なら、町中でパレードが行われて警備も手薄になります。
同じように心を痛めていたクラスメイトで保育士の彩織と、沙織の義祖父の道之助、翔もこの計画に加担し、彼らは行動に移しました。

彼らは念入りにタイムシフトを作成して、計画を実行しました。
保育士の彩織が子どもを二人さらい、沙織と道之助が住む家まで連れてくるところまではうまくいきました。
家には子どもが好きそうな食べ物やゲームをたくさん用意して、子供たちには楽しい思いをしてもらおうとします。
彼らは、マンションの管理会社に痛みを知ってほしいだけであって、子どもを傷つけるつもりは全くありませんでしたが、昼食時にアクシデントが起きます。
彩織が用意した昼食はグラタンでした。
しかし、子どもの一人が乳製品のアレルギーを持っていたのです。
アナフィラキシーショックを発症した子どもはそのまま死んでしまいました。
彩織は警察に捕まる覚悟で救急車を呼ぼうとしましたが、道之助はそれを許しませんでした。
その後、一人の子どもは生きたまま親元に還し、死んでしまった子どもは河原に遺棄しました。
この騒動が起きている時、亮輔と翔は身代金の受け渡しに成功していました。
彼らの計画は成功しましたが、子どもを死なせてしまったという事実が重くのしかかり、誰一人お金には手をつけようとしませんでした。
この事件を受けて、計画の発案者である智史は自殺します。

警察は、この誘拐事件を解決することはできず、唯一の未解決誘拐事件として歴史に名前を残しました。

そして、物語は現代に移ります。

辰司の遺品や、偶然訪れた翔の家で見つけた誘拐事件にまつわる資料から、亮輔は辰司と智史が誘拐事件に加担していたことを知ります。
彩織や道之助の存在にも気づきますが、でもどうして今更父親が殺されなくてはならないのかは納得がいきませんでした。
また、正義の人だと思っていた自分の父親が誘拐事件の主犯であり、子どもまで死んでいるとなると、亮輔は自分の父親を許すことができなくなります。
そんな時、辰司の殺害事件が起きた際に、辰司と会っていたという女性が浮かびます。
その女性は、さくらという名で、地域の住人の憩いのカフェを経営する女性でした。
さくらは誘拐事件に関わった彩織を慕っていました。
彩織は子どもを死なせてしまったことを後悔して事件後は引っ越していました。
その後彩織は妊娠しますが、そのまま一人で病死ししてしまいます。
さくらは彩織の死を悲しみ、妊娠している沙織を放置した相手の男に責任があると感じ、相手を探し始めます。
そこで出会ったのが辰司でした。
彩織は学生時代から辰司のことが好きで、さくらにも相手は辰司であるとほのめかしていました。
しかし、それは父親が辰司だったらいいのにという彩織の嘘でした。
実際の相手は翔だったのですが、誤解をしたままのさくらは辰司を責めます。
辰司はさくらを隅田川まで誘導し、さくらは辰司をバッグで殴りました。
辰司は自分の罪を責めていたので、殴られたのをいいことにそのまま自力で川まで落ちました。
隅田川は智史の死んだ場所でもあったのです。
この真実にたどり着いた亮輔と堅剛は愚かな父親を持ってしまったと気落ちし、さくらは自分の誤解で人を死に追い込んでしまったと嘆きます。
どうしても父親の過去を受け入れられない亮輔は浅草の地を離れることを決意し、堅剛に十年後にまた会おうと別れを告げるのでした。


以上です。
二世代に渡る事件の真相と、友情を描いた物語でした。

少し誘拐事件の詳細が粗削りな気もしましたが、ハラハラする場面が多く、一気読みできる一冊でした。

貫井徳郎さんの作品は全て読んでいるのですが、ハズレがないと個人的には思っています。

どれも面白い。

ほとんどはやりきれない終わり方をしてしまうのですが、そこも好きなのです。

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