ショートショート「プロット」

ひさしぶりに、「サイコライティング」を使わない、
アイディア重視の執筆をやってみよう。

そういう小説を書くのに重要なことは、
もちろん、「アイディアを思いつくこと」、なんだけれど、
私はそういうトレーニングは、あまりやったことがない。

しょうがないので、手持ちの「創作本」の中から、
「ストーリーメーカー 著・大塚英志」を手にとり、
ペラペラと眺めてみる。

>第一章 物語の基本中の基本は、「行って帰る」である。

なるほど……。
私はぱたっと、本を閉じる。すべてを読む必要はないのだ。
何も長編ファンタジーを書こうというのではない。
ショートショートを書くには、この程度の発想のタネで充分。
どこかへ行き、戻ってくるお話、を書けばいいんだ。
どこへ行くのかが、重要ということだね。

「宇宙」「海底」「異世界」「あの世」「ご近所」「旅」「外国」。

バリエーションは、この程度、か。
ちょっと「ご近所」で考えてみよう。

ある作家志望の貧乏学生が、
ちょっと気分を変えてみようと、
いつもとは違うお店で食事をしようと思いつく。
普段はいかない裏道をいくつか曲がると、
そこには学生の見たこともない、おかしな風景があった。

うん、導入としてはいい。
ここで何が起こり、どう解決し、どう帰ってくるか。
「普段訪れたことがない場所」というのを強調するために、
言葉をしゃべる、巨大なドブネズミがいることにしようか。
「何か食べ物を置いていけ。そしたら見逃してやる。
 何も持ってないなら……、後はわかるな?」
ビルに囲まれた、暗いじめじめとした空間の、
あちこちに潜んでいた無数の巨大鼠が顔を出す。
学生は、窮地に陥る。
貧乏学生だから、何も持っているわけはないのだ。
さあ、どうしようか?

(1)逃げて、食われる
(2)話し合いで解決する
(3)身体の一部を差し出し、見逃してもらう。
(4)逃げずに、食われる
(5)逆に食う
(6)羽のある巨大猫が現れ、鼠を追い払ってくれる。だが食われる。

3は似たようなホラー小説を読んだことが、確かあったはず。
飢えて死にそうな人に、その身体を与えていくうちに、
確か最後に身体全部を食われる、聖人の話だった。
6は私好みの、サイコライティング的な展開だ。
普段なら迷わず、6で書くだろう。
でも今回は、「行って帰る小説」を書こうとしているのでNG。

何かいいアイディアはないものか……。

(7)悪魔的契約を結ぶことで、見逃してもらう
(8)周囲のビルが解体のために爆破され、偶然助かる
(9)即興のお話を語ることで見逃してもらう。

9……、いいかも。仮決めしてある、「プロット」というタイトルにも繋がる。
これで書いてみよう。

ショートショート「プロット」

ある貧乏学生が、小遣い稼ぎのために、小説を書き始めた。
いろんな賞に応募したり、なろう系サイトに投稿したり、
noteで販売してみたりしたんだけれど、泣かず飛ばずだった。
彼は少し気晴らしに散歩でもしようと、近所の商店街をさまよう。
小腹がすいてきたので、何か食事でもと思って、
普段はいかない裏道を選んで歩いてみたが、
やがて彼は、自分が迷っていることに気づいた。

「もしこれが、僕の考えた小説のプロットなのだとしたら、
 その角を曲がった所に空き地があり、
 ドラム缶の上に、太った巨大ドブ鼠がいるはずだ」

彼は角を曲がった。確かにそこには空地があり、
ドラム缶があった。しかし、そこにいたのは一匹の白い子猫だった。

「残念でした。これはあなたのプロットじゃない。
 私のプロットの中なのよ、にゃあん」猫が言った。

彼は周囲を見回した。
暗がりのあちこちに、黄色い目が光っている。鼠だ。
やはり鼠はいたのだ。ここは僕のプロットの中だ。
ならばこの世界を、僕は思うままに動かせるはずだ。

「白猫よ、鼠を退治しろ!」

猫はきょとんとした顔で、彼をみつめ、くすっと笑った。

「言ったでしょ。ここは私の考えた世界。
 私のプロットの中。
 ちなみに、私はここでは猫の姿だけれど、
 現実にもどると美しい女性の姿なの。
 そう、私はあなたと同じ、人間よ。だから安心しなさい」

「人間……?
 それがどうやって、猫の姿に?
 ここで何をしてるんだ?
 僕はどうなるんだ」

「どうもしない。
 私の小説の中に、あなたのような男性が必要になった、
 だから役者として、出演してもらっているだけ」

「役者? 小説?」

「ええ。もうすぐここに、ナイフを持った不良が現れ、
 あなたと戦うことになる。
 私としては、あなたに勝って欲しいんだけど、
 本当に勝つ可能性があるのかを、あなたで実験したいの。
 がんばってねw」

「なにを……」

じゃり……。
背後の砂を踏む音に彼が振り返ると、痩せて顔つきのおかしい、
ナイフを持った男が立っていた。
男はいきなりナイフを振り下ろした。

「残念、ゲームオーバー……、全然参考にならないわ。
 もう一度やり直し」

学生は、自宅のPCの前で眼を覚ました。居眠りをしていたようだ。
小説の執筆はまだ、全然進んでいなかった。

「もしこれが、誰かの考えた小説のプロットなのだとしたら、
 僕はこの後、散歩に出かけるのだろう」

彼は夢の中で見た、美しい白猫を思い出す。
少し迷ったあと、彼は立ち上がり、外出の準備を始めた。

<おわり>

しまった!!
プロットに沿って書くのは、どうも苦手で、
結局サイコライティングを使ってしまいましたw

かかった時間はちょうど1時間。
やっぱりちゃんとしたお話を作ろうとすると、
時間はかかってしまうものですね。

気晴らしは終わったので、また「MとR」の世界に戻ります。

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