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33「MとRの物語(Aルート)」第二章 10節 「君の名は」

一度も見たことがないアニメ映画を小説に登場させるなんて!
と思いながらも書いてみる。

(目次はこちら)


「MとRの物語(Aルート)」第二章 10節 「君の名は」

きらっと光る、Rの眼にMはたじろいだ。

「ん? もしかして、見たい映画があるのか?」

「うん、あるよ! 『君の名は』が見たい!!」

「アニメ……、か……」

君の名は、というのは、結構話題となっているアニメ映画で、
ジブリを超えたとさえ言われているものだ。
Mはジブリの作品の知識も、もちろん持っている。
日本の映画が今ひとつふるわず、アニメに話題をさらわれているのを、
Mはにがにがしく感じてはいたが、しかしそもそも、
日本画というものは、アニメの原点である。
特に浮世絵というものが、アニメに与えた功績は大きく、
アニメが日本文化を引き継ぐものであるという考えも、出来なくもない。

Rの心を、軽くスキャンしてみると、
Rが幼い頃に見た、ジブリのアニメ、
「ナウシカ」、「ラピュタ」、「ぽんぽこ」、「魔女」、「豚」、
などが微笑ましく、思い返される。

Mはそれらのアニメを高速にスキャンしながら、
「これもまた日本文化の一形態……」、などと、
堅苦しく考えていた。

 Mさん、いいかな? 「君の名は」で。

 うん……。
 平成のアニメというものに、興味もある。
 Rさえよければ、俺は構わないよ。

 やったーー(^o^)!!

ウキウキと準備を始めるR。
今回も、水色のワークキャップは欠かせない。
鏡の前でポーズをとるR。

 Mさん、私かわいい?

 ああ。シックな色合いのシャツは、いい感じだ。
 帽子がよく映えている。
 だけど太腿があらわなその短めのハーフパンツは、どうかな?

 えへへ(^^)

まあ、ちょっとくらい露出気味だとしても、俺が一緒だから何とかなる。
そう考えたMは、いや、ちょっと心配しすぎだろう、
俺はRの父親でもなんでもないのだ、と少し自重した。
例えば映画館にいく途中で、Rがもしチャライ茶髪の男に
ナンパでもされたら、俺はどう反応するだろうか?
平安時代には鬼と恐れられた俺の、秘奥義を、
この平成の、軟弱な男どもにお見舞いするのも気がひける。
まあ、何か事件があったら、その時だな、とMは思う。

白い靴下に、ちょっと古びたトレッキングシューズをはいて、
Rは元気よく外に出た。玄関は北に向いているが、
環境光が軽く目を刺激する。まだ、いい感じの夏だ。
遠くに小さく入道雲が見える。

 Mさん、ありがとう。
 「君の名は」、見てみたかったんだ。

映画館は、ショッピングモールの一角にある。
1巻を読み終えた時と同じように、Rはアイスクリームを買い、
3階から広いフロアを見おろしそれを食べたあと、
映画館へ向かった。

 ラブラブな人達ばっかりだね。

 まあね。そういう映画だからかな。

 Mさん、手を握ってもらっていい?

あと少しで上映開始という所で、Rは気弱に、Mにそう言った。

 ああ……。少し左手を借りるよ。

 うん……。

MはRの左手の神経を奪い、そっとRの右手の上にのせた。

 ありがとう、あったかいよ、Mさんの手。

Rは右手で、左手をぎゅっと握った。
Mは少し躊躇しながら、その右手を握り返した。
映画が始まった。抜けるような青い空が、RとMの目にしみた。

<つづく>

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