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38「MとRの物語(Aルート)」第三章 1節 図書室の少女の霊

世界的科学者のホーキングは言う。「霊などいない」と。
それはそうだ。理詰めで考えれば、そうなる。
でも神が気まぐれに、「霊よあれ」と言ったとしたなら?

(目次はこちら)

「MとRの物語(Aルート)」第三章 1節 図書室の少女の霊

 Rは少しずつ、クラスメイトと打ち解けていった。

 Mは考えていた……。新学期になって最初に、Rに声をかけてくれたメガネっ子と、挨拶を交わし始めてからは簡単だった。みんなRの過去、「荒れていた中学校時代」についての噂を信じ込み、怖れていたのだ。しかしそれは誤解だ。なぜRが荒れていたのか、をもしクラスメイト達が知れば、おそらくRには、同情の気持ちもあつまっただろう。しかしその原因となる一件についての記憶を、完全に失ってしまっている今のRには、釈明する余地もないし、Rはただただ、「人生ってそういうものだ」と、思い込もうとしてた。
 しかし今、そういったRを閉じ込めていた結界が、すこしずつ解かれ始めていた。一度その封印にほころびさえ出来てしまえば、あとはもう楽だ。なるようになれ。すべて自然の治癒力、復元力に、まかせてしまえばいい。

  ◇

 昼休みは図書室に行き、PCで色々調べるのが、Rの日課となりつつあった。お昼休みのPCの貸し出しは、結構人気だったけれど、「図書室の怪談」となっている、窓際の一席だけは、いつも空いていた。一学期に図書室でRと話をした男子は、やたらとRのことを心配して、ちょっかいを出してくるが、Rは取り合わない。そんな話に耳をかす時間がもったいなかったし、強気を装っているが、実はRは臆病な普通の女の子で、怪談は苦手だった。もし男子から、怪談の内容を詳しく聞いてしまったりしたら、Rも怖くなってPCを借りられなくなってしまうかもしれない。それだけは避けたかった。

「ねえR、お前その席借りはじめて何日目?」

「またその話? やめてよ!」

「俺心配なんだよ。その席に座った人はね……」

「うるさい、やめろって!」

Rの声に、他の席でPCを使っている人達がちらっと視線をよこし、くすくすと笑った。

「わ、悪かったよ。じゃ、じゃあさあ、心配だから俺の席と交換しない? ずっとは無理だけど」

あまりのしつこさに、さすがのRも少し、気になり始める。

「あんた、なんでそんなに心配してくれるの? 私のこと好きなの?」

「な! 何を……、いや、好きだよ。好き好き! だから替わろう、ほらほら」

男子の手が肩に触れ、思わずRはそれを振り払いたくなったが、かろうじてそんな自分の条件反射を抑止した。男子に嫌われたくないからではない。これも修行なんだ、とRは考えていたのだ。何の修行なのかは、わからないけれど……。

「あのね……。そこまで言われたら、気になっちゃうでしょ?
 ずっとは無理って、どういうことなの?
 霊障? っていうの?
 私の替わりにあなたにそういう悪い事が起こるんだったら、
 私は譲らないよこの席」

男子は心の中で、ほくそえんだ。Rに自分の意志で、話を聞かせることに成功したからだ。これだから俺は、Rことが好きだ、と男子は思った。男子は顔をRに近づけ、小声で言った。

「お前を怖がらせるつもりはないから、簡単に言うよ。
 その席を連続で借りていると、そのうちその人は、自殺か失踪する。
 理由はわからないけど、そうなんだ。
 実際俺は、貸出の記録を調べてみた。
 大体、15回連続でこの席を借りると、その後何かが起こるんだ」

「15回? 少ないね……」Rは怖くなった。
これだから怪談なんて嫌いだ、とRは思う。

「そうなんだ。お前、もう3回くらい借りてるだろ?
 このままだと、9月の途中でお前は……」

「あなた……。
 もしかして、その話をするために、ずっとここに座って、
 誰かがこの席を借りるのを待ってるの?
 あなたもしかして、ロールプレイングゲームの案内役?」

「案内役って、モブキャラかよ! 違うよ、逆だよ逆!
 俺は昼休みには、だいたいここで、PCを使って勉強してるの。
 周りにいる人と俺は、大体知り合いになる。
 興味がわいて、俺の方から声かけちゃうんだけど、
 そこの席に座った人は、必ず不幸になる。俺はそれが嫌なんだ」

「じゃあ……。
 理由はともかく、ここの席に幽霊が出るって、
 広めてるのもあなたなの?」

「いや……。ごめん、否定ばっかりしちゃうけど、それも違う。
 そこの席に女の子の幽霊が出るっていうのは、結構有名な話だよ。
 俺が毎日ここに来てる理由のひとつでもあるかな、その幽霊は」

「ふうん……、ありがとう、大体わかったよ」

「わかるだけじゃなくて、この席は借りないで欲しいんだけどね」

「うーん……、ちょっと待ってね、考えるから」

 Mさん、聞いてた?

 ああ。

 人を自殺とか、失踪させる幽霊って、ありえるの?

 ああ。なんだってあり得るよ。
 幽霊、妖怪、妖精、モンスター、悪魔、神。
 人が想像したあらゆるものには、必ず原型がある。
 そのうちの幽霊には、二種類ある。
 ひとつは人の脳のエラーが作り出すノイズ。幻だな。
 もうひとつは実際の霊現象。
 ただし、霊として存在し続けるためには、膨大なエネルギーが必要だ。
 だからほとんど見かけることはない、スーパーレアカードだ。

 カード……。

 でもこの場所には確かに、何かの異常を感じる。
 その少年の目も、嘘をついているとは思えない。
 いや、正直いうとさっき、そいつの記憶を読んだ。
 15回連続、という数字は少し怪しいが、
 なんらかの不幸が起こっているのは事実。
 さらに……。

 さらに?

Mは自分の、膨大な記憶をサーチする。もし神が記憶を消してないとすれば、ここで亡くなった、あるいは失踪した生徒の記憶を、Mは持っているかもしれない。

 あった……。
 ここで少女の霊を見た者の記憶……。
 その後自殺をした人が二人。失踪した人が三人。
 少女の霊は、相当邪悪な存在のようだ。
 ただし、霊を見て、その後この席に一定回数座ることが、
 霊障の発動する、きっかけとなっているっぽいな。
 Rはまだ霊を見てないから、大丈夫かもしれないな。

 ふうん……。
 あ、その少女の霊の、記憶は調べられないの?

 たぶん無理だ。俺の記憶は阿頼耶識から取り出したものだが、
 霊の記憶というのは、まだ阿頼耶識に還元はされてないはずだ。
 うん、やっぱり、それらしき記憶はひっかからなかった。

 ありがとう……。怖いね。

 うん……。

「おい、R……、大丈夫?」Rの表情の変化と、無反応ぶりが心配になり、
少年が声をかけた。その瞬間、Rの顔に生気が戻った。

「うん、大丈夫。忠告ありがとう。あなたの言葉に従うよ。
 明日から別の席にする。競争率が高いけどね」

「そうか、よかった! なんだったら俺が、Rの分も取っとこうか?」

「ううん、それはいいよ。
 それより……、あなたはその、図書室の少女の霊、みたことあるの?」

「ああ、あるよ! 夕方、校庭からよくこの窓を見上げるんだけど、
 1回だけ見えた。白い光に包まれた、女の子の姿がね!」

少年が顔をあからめ、遠い目をしたのでRは少しいらっとした。

「だったら、私のことより、あなたは自分のことを心配するべきだよ」

「え?」

「あなたにはフラグが立ってるよ。絶対にここに座っちゃだめだよ。
 あなたに失踪なんかして欲しくないから、言うんだよ。わかった?」

「あ、ああ……、ありがとう」
やっぱりこの子すごい……、なんかすごい! と男子は思った。

RはPCに向き直り、頬杖をついた。
知っちゃったからには、放っとけない。
私とMさんで、調べてみないといけないのかな。

 「ゲゲゲの鬼太郎」とか、「恐怖新聞」という
 アニメやマンガのような展開になりそうだな。

 なにそれ古い!
 今は「学校の怪談」か「妖怪ウォッチ」でしょ!

 はは、それはそうだ。

Mは思う。Rにはここに住みついている「少女の霊」の、
禍々しさが、わかっていない。できればRには、関わって欲しくない。だがだからと言って、そんな禍々しい存在を、放置しておくのも危険だな。しょうがない。俺だけでなんとかするか……、いやそれはもっと危険か……、うーん……。

と、その時……。。

カタタ! カタタタ!!

PCのキーボードが音を立てた。戦慄する、RとM。
見るとRの肘が、キーボードに触れて音を立てていたのだ。

 おい、びっくりするだろ!

 てへ!

Rは頬杖をやめて、キーボードの位置を直した。
時刻を見ると、まだ少し時間がありそうだ。
Rは「幽霊」について、調べてみることにした。

<つづく>

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