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SF小説・インテグラル(再公開)・第六話「インテグラル世界のプロットを生む者」

第五話はこちら。

 この天空の城とやらに、俺が来て何年になるだろう。そのきっかけは、インテグラル世界で開催されていた「インテグラル・プロットコンテスト!」なる妙な企画だった。リアルでのインテグラルのプロットが、脳波記録装置とやらで作られていることは、何度か聞いて、俺は覚えていたが、その……。脳波記録装置を、俺は娯楽室のホロビジョンで生まれて初めて眼にした。
 
「プ……。プロット? ぐぐ…。があ??」
 
 画面いっぱいに表示された、「賞金500万チケット!!」、という文字に俺は驚き、口をあんぐりとあけて娯楽室のホロビジョンに見入った。500万チケット? あはは!! 何それ!! と俺は思った。
 
 応募方法は、お近くの区画管理人にお尋ねください。
 
という表示を見た俺はふらふらと、区画管理人のいるシールドルームに向かった。そこには……。すでに100人をこえる者どもが並んでいた。「ぐあああ!!」、と俺は叫ぶと地団太をふんだ。その後、列の最後に並んでしばらくの間退屈を我慢していると、区画管理人の前に俺はいた。管理人は俺に言った。「はい、そのキャップかぶって」。俺は言われるがままに、管理人の前の机におかれた白いキャップをかぶった。そのキャップから白い火花が飛び出し、俺の眼はくらんだ。「がが、があ」、と俺が言うと、火花は消えた。管理人が、「はい、もういいよ、キャップを取ってベッドに帰って」、と言った。俺はキャップを取り自分のベッドに帰った。どうしていいのかわからず退屈していた俺は、しばらくたってから次のようなアナウンスを聞いた。
 
 通称Gさん、通称Gさん、シールドルームに来てください。通称Gさん、今すぐシールドルームに来てください。以上。
 
「ぐがあ!」、と俺は叫んでシールドルームに走った。その中に、髪の長い妙な人間がいた。そいつは言った。
 
「あなたが『通称G』さんね。おめでとう。500万チケットはあなたのものです。ただし、あなたは今後帝国によって拘束され、新たなインテグラル世界を創り出し続けるのです。何か異論はありますか?」
 
その人間は黙り込んだ。1分、5分、10分……、俺は静寂に耐えかね、「ぐがあ?」とうなった。その瞬間俺の左右に人間が立ち、俺に向かって何かした。俺の意識は薄れた……。俺は長い髪の人間の言葉を聞いた。
「まれに見る特異な脳波とイメージの持ち主ね。この男は使える」
 
こうして俺は、天空の城に住むことになった。俺は今、数え切れない星々の見下ろすこの暗い部屋で、女達の訪れを待っている。長い髪を持つ人間、それが女だ! あいつらは俺が退屈しきった頃にこの部屋に訪れ、クスクスと笑いながら俺にキャップをかぶせる。
 
「おはよう、通称Gさん。今日もあなたのイメージをいただきに来ましたよ?」
「あんたのおかげで私達はぼろ儲けよ。あはは! あははははは!!」
 
「ぼろ……もうけ?」
 
女達は俺を殴り、白いキャップをかぶせた。

(続く)


解説(ネタばれあり):

第六話では、「インテグラル世界」がどのように作られているかが語られます。緻密でフレキシブルな仮想空間での体験が用意されている「インテグラル・ムービーメーカー」。

絶滅寸前の未来の人類には、そのようなソフトを「プログラミング」によって開発するような技術力もマンパワーもなく、そこで考えられたのが、「キャップ」を使って脳内に構築されたネットワークをスキャンするという方法でした。ただ、その技術はこの頃すでに失われており、この時代の人は白い「キャップ」を使い、記憶を吸い出すことしか出来ません。

「通称G」は、「インテグラル・ムービーメーカー」の中毒となった患者で、思考も時折怪しくなるということが、地の文から読み取れるでしょうか? 「アルジャーノンに花束を」みたいなものですね。

彼を拘束し、あざ笑っているのは「帝国」の科学者。つまり子供達の延命手段を探している人達の仲間です。ほとんどの人は正義のためにマジメに活動をしているのですけど、中にはこのような、利己主義的な者もいるのでした。裏切者は、どのような状況においても登場するということですね。

おまけ・執筆時のラフ絵

次回はこちら。

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