知りたくて、わからなくて【推し活リベンジ!04】
推しのプロフィールに関して、最低限の情報しか判明していない。
出身地、生年月日、身長体重、出身校、野球選手としてのキャリア……と、どのメディアでも大体この程度。余裕がある媒体だと趣味や家族構成くらいなら載ってるが、ざっくりとした情報しかない。
例えば「趣味:音楽」とある場合、聴くのが好きなのか、楽器を演奏するのが好きなのか、ジャンルはなんなのか、最近聞いて良かったオススメの曲はあるか……といった具体的な話まで掘り下げてもらえない。
活躍している現役選手ならありとあらゆる情報がインタビューなどでピックアップされるが、推しは現役時代にそれほど注目されていなかった(=活躍があまりなかった)ので、そのような情報があまり出てこない。
もしかするとどこかで語っていたかも知れないが、「その時」は果てしなく遠くへ流れてしまった。こうなってしまっては、探すのは困難だろう。
推しが現役を引退した約10年前はスマホ黎明期。インターネットの情報サイト数も現在の半分以下だったと記憶している。
現代のように「とりあえずググればなんか出てくる」時代ではなかった。
やはり紙媒体に頼るしかない。貪欲に、泥臭く、どうにか時間を確保して、図書館かどこかに行って関連書籍を片っ端から漁るしかなさそうだ。
指導者・指揮官になってからの推しは、現役選手の仕上がり具合や、戦略的な話の回答ばかりを求められる。推しの人間性は二の次で、チームの調子はどうか、優勝できそうか、課題は何だ……取材者たちはそんなことばかり尋ねる。
仕方のないことだが、推し本人ではなくチーム全体に関心が向いている。
立場的にそれが至極当然だが、もう少し語り手の人間性に興味持ってほしい……と思ったり。
また、推しは現在SNSアカウントを持っているが、更新頻度は超少ない。特にここ最近は1ヶ月以上何もない。シーズン終了に向けての大切な時期、SNSなど更新している場合ではないだろう。一分一秒も無駄にせず、集中していらっしゃるとお見受けした。
それは尊重する。全てが終わった時に、ちょっと何かあれば御の字だ、くらいに思っている。
アイドルや芸能人だったらSNS戦略も大切だが、彼はプロ野球関係者。最優先すべきはチームの勝利だ。
ファンとして寂しくないと言ったら嘘になるが、同時に推しが思い描くいいイメージの未来に理解あるファンでありたいとも思っている。
なんかカッコいいこと言った気になっているが、つまるところ私の推しはパーソナルな部分を知る手がかりが極端に少ない。
本人が隠しているのではなく、聞かれないから出ていないだけ。
だから、断片的に転がっている情報から推察するしかなく、確実なものを掴むことが難しい。マスコミ用語でいうところの「裏が取れない」のである。
そのため、メディアでのインタビュー記事は隅々までチェックするし、新規の画像や動画を見つけた際は、ヒントになりそうなものがあるかもしれないと目を凝らしている。
その中で、とある週刊誌の取材記事でこのような記述を見つけた。
ちりめん山椒ってなんだ?
漫画なら今、私の頭頂部に巨大なクエスチョンマークが浮かんだに違いない。
どうやら京都名物の一つで、ちりめんじゃこと山椒……つまり、山の幸と海の幸を絶妙に混ぜ合わせたご飯のお供らしい。
東北人の自分には馴染みのないものだが……ただ、上品な味がしそうなイメージではある。あとちょっと高級そう。
ちりめん山椒がたっぷり混ざったおにぎりを、ニコニコしながら頬張る推しを想像する。
……あ、かわいいかも。
ちょっと笑った。
ほかにヒントはないものかと探したら、奇跡的に推しの現役時代のブログが見つかった。
2つ持っていたらしいが、一つはアカウントが削除されていた。
残っている方は本当にルーキーの頃のもので、ネットを介してファンとコミュニケーションを図ろうとする痕跡が残っていた。
文章や構成は上手いとは言い難く、写真(恐らく当時は「写メ」)の構図も”映え”とは程遠いものだったが、なぜか引き込まれた。あと絵文字・顔文字がよく使われていた。世代のせいだろうか。
経歴とベンチに立つ姿からクールな印象を持たれがちだが、意外とお茶目な人柄は当時から変わっていないようだ。
削除された方のブログも魚拓が見つかった。
気丈に明るく振る舞っているが、その後のインタビューでの発言から察するに、この頃の心中は相当不安でいっぱいだったことは想像に難くない。
戦力外通告、現役引退、指導者への道、憧れの先輩とのやり取り……推しのリアルと心情が綴られていて、胸がギュッと掴まれるような感覚に襲われた。
指導者になってからブログが削除されたようだが、チームの戦略や選手の状況が外に漏れないよう、機密保持の観点からそうしたのかもしれない。更新しないまま、残してくれてもよかったんだけどなぁ……。
また、現役時代のファーム(二軍)広報担当者が更新していたブログも発掘した。
今の姿からは想像つかないような、若くてやんちゃで、そして誰よりも真っ直ぐに練習に励んでいた推しが一軍で結果を出したことを、その人は心から喜んでいた。
そして「この色があせることなく輝き続けますように」という言葉で締め括られていた。
チームを愛し、愛された推し。
思い出すのは、退団報告の記者会見。
ユニフォームを脱ぎ、スーツ姿で心境を語る推しの姿を見て、何人の関係者が心を痛めたことだろうか。
当時、推しに向き合えず、ファンとして支えられなかった今の自分にできること。
それは、今の所属チームがどんなに負けようと、成績を咎めて推しを責める心無いファンが湧いて来ようと、「それでもあなたを信じる」と叫んで応援することだけ。
(できることなら、推しを誹謗中傷するファンを特定して球場近くの湖に沈めるか、山に捨ててイノシシのエサにしてやりたい……とは思っている。思っているだけだからどうか安心してほしい)
(大丈夫、思っているだけだから)
推しを一つ知るたびに、応援する理由が見つかる。気持ちが強くなる。
現役時代から応援している古参ファンの人たちには時間という観点では適わないが、気持ちの強さでは絶対に負けない。負けるものか。
知らない相手に誰も得をしない対抗心を燃やしながら、今日も推しを求めてインターネットの海を行く。
クリエイティブ不毛の地・仙台出身の平成元年生まれが、令和元年に上京して「平面系マルチクリエイター」を目指しております。皆さまから格別のお引き立てをいただけることが、何よりの励みになります。