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2021J2第1節SC相模原 VS 京都サンガF.C.レビュー~風ニモマケズ~

皆さんこんにちは、Ryu-Yです。

2021シーズンJ2リーグがついに開幕しました。

曺貴裁監督が就任ということで例年に増して注目度の高い今季の京都サンガF.C.。どのような戦い方で12年ぶりのJ1昇格に挑むのか深堀していきたいと思います。


両チームスタメン

相模原Aスタメン

サンガは大方の予想通り4-3-3の配置。気になるところで言うとキャンプから主力組で攻守に渡り貢献度の高い存在になると思っていた武富がベンチにも入らず、左WGに入るのは宮吉。右サイドはSBに飯田が入り、それにより白井は右WGへ。

対する相模原もほぼ予想通りのスタメン。主力選手の流出をほぼ防ぎ、J3で活躍した選手をうまく補強した中、鎌田、ホムロなど主力となるであろう選手がケガで出遅れているのは手痛いか。昨シーズンニッパツでYSCCとの試合を観た印象では、ボール保持では和田が前線で起点を作りながら2列目と連携しながらゴールを狙っていて、この試合では富山から新加入の平松が既存の選手とどのように絡んでいくのかに注目した。

<キックオフ~試合の入り>

まずこの日のピッチコンディションとして、非常に強い風が吹いていた。画面向かって右から左に吹く風で、風上、風下どちらに立つかで戦い方まで左右されてしまうほどであった。コイントスで陣地かマイボールを選ぶ立場になったサンガは、風下を選択。曺監督の試合後の会見の中にもあったように、前半は敢えて戦いにくくなる方を選び、ある程度耐えた上で後半勝負の戦い方を選択したようだ。

-参考-

<ブロックを組む相模原、ボールを持つサンガ>

試合開始からボールを握ったのはサンガ。とはいえサンガがビルドアップを仕込んだというわけではなく、相模原が撤退した守備を行ったから。相模原のプレス開始はバイスか本多がハーフウェーライン手前辺りまできてからで、5-3-2でゴール前のスペースを消してブロックを組む戦い方を選んだ。相模原2トップの間に川崎が立ち、バイス、本多と三角形を作り数的優位を確保した上で、両SBの飯田や荻原へパス。相模原中盤の3枚がスライドしたり5バックの両WBがアプローチする前に小気味よくパスを回して攻撃する狙いが見て取れる。5-3-2は實好前監督の基本配置だったので、サンガからすれば相模原の狙いとどこが空いてくるのかはすぐに感じ取ることが出来たのではないだろうか。

ボール支配率とは裏腹に試合が進むにつれ何度かチャンスを作り出したのは相模原。サンガが前からプレスをかけること、両SBが高い位置を取るので背後のスペースが大きく空くことは想定していたようで、クリアボールやGKからのパントキックは平松を狙って、そこで収めて攻撃につなげていた。昨季富山で9得点を挙げた平松は得点能力だけでなくバイスや本多との競り合いに勝つシーンも多く、ストライカーとして強さもある選手だと感じた。

相模原A1

CBとFWが数的同数でマッチアップするなんてシーンはプレミアリーグでしかお目にかかることは無いと思っていたが(リヴァプールでさえ、ファンダイクとジョー・ゴメスがいなくなってからはアレクサンダーアーノルドが、低めの位置で構えることも多い)、このリスクに関しては目をつむるというか、曺監督としては許容しているようだ。

場合によっては和田が少し下がって起点となり清原が裏へ走るなど、相模原としても狙いはシンプルだったがバイス、本多に加え、荻原が猛スプリントで帰陣し、フリーな状態で相模原の選手にシュートを打たせることは無かった。若原が前に出てカバーリングするという手もあるが、この試合ではそのようなシーンは無く、2CB+誰か帰陣で何とか対応出来ていた。サンガとしては敵陣のネガティブトランジションのところで本当はもっと寄せを早くして即時奪回したいのだろうが、相模原もそれを分かった上ですぐにロングボールを蹴ることを選択したのでショートカウンターを繰り出す場面は前半に関してはほぼ無かった。

<サンガの狙い~サイドの三角形~>

相模原A2

こちらは前半22分頃のシーン。キャンプから取り組んできたことが出たと思われる場面を取り上げる。左IH松田と左WG宮吉が幅を取ったところで内側のレーンを左SB荻原がインナーラップ。瞬間的な三角形を作りながら敵陣のハーフスペースと呼ばれる辺りを狙う動きはYoutubeのダイジェストで観たコンサドーレ札幌とのTMでも同じような場面があった。誰々が外で誰々が内側というような明確な縛りではなく、あくまで立ち位置でタスクが決まることを前提にしているように感じる。荻原に関してはもう少し前の場面で外に張ったところから内側へカットインしてクロスを上げるシーンがあり、相手と味方の配置によって自分自身を生かす動きを使い分けているようだ。

また、この場面で更に着目すべき点は逆サイドの選手のポジショニングである。右SBの飯田は中央まで絞って、右WG白井や右IH福岡はPA内まで侵入している。クロスが上がるかもしれないチャンスではPA内に複数人、もっと言えば3人以上上がることはチームとして共有しておりこぼれ球でも狙っていく攻撃的な姿勢が見受けられる。ちなみにこの後の25分のシーンではPA内にサンガの選手が6人入ってきており、相模原が5バックで重めな重心だったことも影響してかゴール前の人数は両チーム合わせて非常に多かった。

給水タイムを終えた辺りからはサンガが徐々に押し込む展開が増え、ゴール前までは迫るものの決定機と呼べるまでのチャンスは作り出せずハーフタイムへ。風上だった相模原は早々に何度かチャンスを作り出したのでそこで先制すればなお良しだったのだろうが得点までには至らず。一方のサンガは攻撃的に振る舞うとは言いつつも、0-0でもOKというような割り切りも透けて見える戦いぶりだった。

後半に入り、両チームとも1枚ずつ交代カードを切る。(相模原:和田→安藤、サンガ:白井→中野)両チーム共に前半から戦い方のベースは変わらず、ボールを持ちながら前進するサンガに対して自陣でブロックを組みカウンターの機会を窺う相模原。しかしながら前半と後半では当然ながら攻める方向が変わるわけで、相模原のロングボールが風に押し戻されることもありホームチームはボールを上手く収めることが出来なくなってくる。立ち上がりこそスペースがある中での攻撃で2度ほどゴール前に迫る場面があったが、選手個々人のパワーの差というか、力の差の面でもサンガに分があることで徐々に相模原が前に出る元気を失っていったようにも感じられた。

後半10分にサンガは李に代えてウタカを投入。コンディション面ではまだ道半ばといったところだろうが、早めに投入されたことを考えても得点して勝ちに行く姿勢をチームとしても見せる。

前半は李が中央に陣取ってボールを収めたりワンタッチでサイドに展開する動きが多かったが、後半にウタカが入ってからは彼がある程度自由に動きながら時折下りてくる動きをすることも多々ある。そうすると中央最前線のスペースが空くのだが、そこに福岡などが移動する。空けたスペースに走り込むというよりは、あらかじめポジションに立っておいて、そこから短いパスワークで中央をこじ開けたい意図が感じられた。

<前線に6枚を並べるサンガの攻撃>

その中で象徴的なのが後半13分過ぎのシーン。

相模原A3

両SBが引き続き高い位置を取りつつ、ウタカがボールを持つと福岡、更には中野もPA内へ裏抜けを窺う。このシーンでは結局バイスにボールが出て、そこからウタカへの縦パスがずれてシュートまではいかなかったが前線に6枚が並ぶ今季のサンガの攻撃を象徴するシーンとなった。前半から荻原が中を見ずにクロスを上げるシーンなど、長身の選手がいなくとも「こぼれ球でもいいからねじ込むんじゃ!」の強い気持ちが感じられる。

その後も相手が引いてきた時の定石とも言えるミドルシュートやフリーキックでゴールに迫るもののネットを揺らすことは出来ない。段々と試合終了の足音が聞こえてくる後半37分、遂にサンガが松田のコーナーキックからバイスが合せて先制!!!このコーナーキックにいたる過程としては、相手GKが風で押し戻されてこぼれたボールをウタカが回収し、クロスを上げて相模原DFがクリアしたところから。ウタカは中を見ずにクロスを上げたが、福岡がちゃんとPA内に走り込んでいることからもわかるように、前述したPA内へ必ず人数をかける原則が徹底されていることはこの場面からも感じ取ることが出来る。後藤よりも適切なポジショニングでヘディングしたバイスと高精度なキックの松田は褒めて然るべきなのは勿論のこと、実況の方も仰っていたようにここでは福岡の役割も素晴らしかった。彼は相模原GK竹重の周りを動きながら錯乱し、松田が蹴った直後に一度竹重に身体を預けている。それにより竹重はジャンプしてボールをクリアすることが出来ず、結果的にバイスの下へボールが届いた。もし福岡があそこで牽制していなかったら、竹重は飛び出してパンチング出来たのではないかと思われる。コーナーキックの駆け引きを存分に堪能出来るワンシーンであった。

更に後半40分には、途中交代で入った三沢が川崎からボールを受け、それまでの逆サイドへの展開とは打って変わって相手をワンタッチでうまくかわして強烈なシュートで追加点をゲット!Twitterで彼のビューティフルシュートを見ていて実践でどうだろうかと疑心暗鬼な気持ちもあったのが正直なところだったのだが、いきなり結果を出したのは素晴らしい。「京都のデブルイネ」誕生の瞬間である。

ここでも勿論川崎の働きを忘れてはいけない。前半よりもお互い疲れてくる後半の方が彼のボール奪取能力が生きるシーンが目立ったような気がする。このシーンでもその前のシーンでもボールが出そうなところに予め移動して、相手に収まる瞬間にガツンとアタックして奪い切る力は昨季からパワーアップしている印象すら見受けられる。今季はアンカーでボールの運び出しというタスクが加わり求められるものは増えているのだが、その中でも自分の得意でやらなければいけないことを理解して遂行しているこの19歳には今季どこまで伸びていくのか楽しみしかない。

2-0とリードを広げた後もバイスが前線に上がったりと、逃げ切るよりも攻撃する手を緩めないことを選択したサンガ。曺監督の思いも同様だろうから、これは好き嫌いあるとはいえそれが今季のサンガの戦い方である。

攻撃的な姿勢を裏返されて若干攻め込まれる時間を作られつつも、そのまま逃げ切ったサンガが2-0で久々の開幕戦勝利を飾った。

<まとめ>

開幕戦にして強風やゴール前を固めてくる特徴的な相手にセットプレーとミドルシュートという一発(いや、二発か)で見事相模原を下したサンガ。昨年見られなかったゴールシーンが緒戦から出たのは、チームとして約束事を仕込んでいるからだろうし、ポジティブな要素と言えるだろう。

ネガティブトランジションでのボール奪取に関しては奪い切れない場面も数多くあったので、攻撃時からボールを奪われた時に即時奪回しやすいポジションにいられるかどうか、攻守にシームレスな戦い方を構築出来るかは今後のチームを占う上で非常に重要な要素だと感じる一戦となった。

監督が試合後の会見で話した、

「後半アディショナルタイムに近づくほどエネルギーが増していくようなチームにしたい」-曺貴裁監督試合後会見より

そんなチームになってほしいと、私も心の底から思っている。


ではまた。


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