小説に出てくる女の子になりたかった話#『悪友 美意識』

劇団雌猫さんの『悪友 浪費』を知っていますか。

「インターネットで言えない話」をテーマとして、様々なジャンルにハマっている女の人達のエッセイ集みたいな同人誌。『浪費』をはじめとして『恋愛』『美意識』『東京』・・などなどのテーマがあります。商業本も出していて、最近は『恋愛』のリメイク版『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』が出ました(もちろん買った)。オタクは全員読んで欲しい。

エピソードそれぞれが好きすぎて、もし自分が載るなら・・・という妄想で書きました。二番目は『美意識』です。

『浪費』がテーマの「小説で浪費する女」はこちら

✂✂✂

私が過去から現在までずっとハマっているジャンル、読書。この歳になって読書が趣味っていうとちょっと高尚そうなイメージを持たれたり、「履歴書に読書って書くと無趣味なんだな~って思われるよ」とか悪口を言われたりする。でも、高尚なものでも他に趣味がないから言ってるわけでもなくて、本当に純粋に、読書に時間とお金をかけている。

ところで小学生~中学生くらいの頃って、読書がすごい教育の場でもてはやされるじゃないですか?朝読書の時間、とか今日は図書室で本を借りる日、とか。あれ、ほんとやめてほしい。教師や大人から言われることって全部ダサくて、その「やったら先生に褒められること」の中に読書を入れないでほしい。おかげで本が好きな子がどんどん「ダサい子」ってレッテルを貼られてるの先生方知ってます??

つまり、私はかなり「ダサい子」だった。というか、「オタクっぽい子」。マンガもライトノベルも好きだし、友達と遊ぶより本読む時間の方が長かった。服も親が選ぶ地味な色合いのもったりしたシルエットのものしか持っていなかった。読書の弊害か目が悪く、眼鏡をかけていた。

ところで小説を読むときには、作品を愛するべきで、作者を対象にすべきでない、という意見が多くある。私も小説家がTwitterとかで極端な意見を言っていると「まじかよ・・」となり、いくら小説を読んでいてもチラついてしまうという経験を何度かしているので小説家に対して深追いはしない、というかあまり個人だと考えないで本を読んできた。

そういうスタンスだったのだけれど、大学1年生の夏、私の意識が変わった。初めて推しのサイン会に行ったのだ。

自分より年齢も上の女性作家さんに「推し」というのが適切かがわからない。けれどここはあえて「推し」でいかせてほしい。

その作家さんのことはずっと追いかけていて、新刊が出るたびに読んでいた。図書館に入り浸っていたので、読んでから気に入ったら買う、というスタイルだったけれど、その人の新刊だけは図書館で読まずにすぐに買っていた。信頼できる作家さん、というのが位置づけ。

大学生になってSNSをするようになって、いろんな情報を手に入れられるようになった。そこで、初めて推しがサイン会をすることを知る。

それまでは新刊こそ楽しみにしていたが、会う、という概念は無かった。著者近影に写真も出ていたが、なんとなく、二次元にいるような気がしていた。高校生の時は制約が多くて、地元で買えるのに本を買うために遠くの書店にいくなんて発想は無かった。でも、今、私、会えるんでない??行っちゃってもいいんでない?!?!と、どきどきしながら予約して、当日を迎えた。

いやもうね、泣いた。半蔵門線神保町駅で大学1年生の芋ガールが泣いた。推し、実在するんだなって。私、ここまで頑張ってきてよかったなって。高校1年生の時に推しの小説を読んで、人生が変わっているのでもう人生は変えようが無いんだけれど、ほんと、第二次ビッグバンというか、そんな感じ。

推しは小説家にしてはイベントが多い。新作の度にサイン会を開いてくれるし、そこで一人一人に割く時間も多い。そしてなにより、かなりのファンを認知してくれている。コアなファンがつく作風だからか、常連化している人達もかなりの割合いて、そういった人たちには「あ!また来てくれたんですね~」とか「今回どうでした?」とかかなり親しい感じで話をしてくれるのだ。

私も、認知されたかった。あわよくば、「可愛い女の子」として覚えて欲しかった。だって推しの小説の中に出てくる女の子は自分なりの哲学を持っていて、強くてかわいい女の子ばかりだった。

その時は大学生なりたてで、なんとなくコンタクトにしてなんとなく髪を茶色く染めていた。化粧も始めてみたけれど、やり方もよくわからないし熱意も無いから、眉毛も描いてなかった。でもそこから自分に似合う服やお化粧をどんどん探していくことになった。

骨格ウェーブなのでウエストマークはマスト。ほどんどの服がウエストインして着るパターンになり、盛り耐性が強いキュートガーリッシュなので顔回りの華やかさを出すためにイヤリングをたくさん揃えた。ただ問題は子供顔なので、似合う服があんまり強そうじゃないところ(当社比)。強くなりたかったので、そこはタイプは無視してタイトスカート・高めのヒール・ロング丈を装備した。自分に似合うし、なにより強そう。自然と背筋が伸びて、自信もあるように見えてきた。

そうしたら彼氏とかもできるようになってきて、「本読むところも好き」とか男の子に言われるようになった。後になって「(自分の隣にいて恥ずかしくない感じなのに読書とか教養がありそうな趣味で、かつオタクっぽくない)本読むところも好き」という意味だったと知り、激怒することにはなるけれど。こっちはしっかりめの腐女子じゃい、と思って別れた。

持っている中で一番の服と高めのヒール、作品のモチーフに使われる月のイヤリング。イベントの当日はいつもの数倍の時間をかけてメイクをする。接触はサインを書いてもらう間の1分くらいなのでぱっと見た印象を大事にする。アイラインを少し跳ね気味に、まつげは長く、眉はきりっとさせる。顔色が悪いイエベなので、オレンジみの強い口紅を塗ると最高に顔が映える。

そんなことをして何回か参加していたら自然と顔を覚えてもらえるようになった。親しげに「あ!今日も来てくださって、ありがとうございます」と言われると、何を話すかまとめてきた内容が吹っ飛んでたどたどしくなる。そんな私を前にしても推しはにこにこ微笑んで、「どの話が好きでした?」とか「私も〇〇(登場人物の名前)好きなんです~」といった感じで話を繋げてくれる。最高。最後に「ずっと応援してます・・!」とだけ伝えるころにはほぼ涙目になっているけれど、「また来てくださいね~」と優しく声をかけてくれる。

もちろん、推しが書く小説が好き。小説と作者は別。でも、こんな大好きな小説を書ける人、たぶん一生で二度と現れない。だったらその人と会うこと自体を楽しみにしてもいいのでは?というスタンスでやっている。

今はお化粧をするのが楽しい。新しい口紅塗って、秋が深くなるころのアウターを買おっかな、と思う。昔はAラインの服が好きだったけど、Iラインの服の方が私に似合うし、なにより強そう。裾に硬めのレースがついたコーディガンをこの前試着して、今も気になってるからきっとそれを買う。推しの新作はこの前出たばっかりだからしばらく何もないだろうけど、たぶん年度末になったらダヴィンチとかで「令和元年の本」みたいな感じでまとめられる気がする。

いつでも単行本だろうが雑誌だろうが舞台だろうが映画だろうが摂取できるように、推しが教えてくれた哲学と美意識で明日からも働くんだと思う。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?