記憶の夜

「もしもし、店長、今日熱があるのでお休みしてもいいですか?」


「しょうこちゃんも熱??流行ってるのかな!お大事にね!店は任せて〜!俺がいるから大丈夫よ〜!」

店長はいつも明るくて陽気で心が広い。

ここ最近微熱が出ていた。

しばらく偏頭痛もしている。

薬を飲んでも効かなくなってきた。

疲れやすくてもうおばさんなのかな。

最近本当に体が弱い。

子どもの頃から体が丈夫なことだけが取り柄だったのに。

とりあえず病院に行かなくちゃ。


今日、先輩バイト来るかなぁ。


先輩は無神経だけど素直で可愛い。
元気がないと心配になる。
私の中の男心をくすぐられるような。

先輩がモテる理由がわかる気がする。

小さくて元気な人。


私もそんな風になれたらいいのに。


あー頭が痛い。

10時か。

とりあえず病院に行かなきゃ。


シャワーを浴びて

着替えた。

あれ?こんなにこの服ブカブカだったっけ?

なんとなく体重計に乗ると

3キロ減っていた。

また痩せてる。。


本物のゾンビみたい。。




ドン!!!



急に頭を鈍器で殴られたような。。


気が遠くなる。。。






「おはようございまーす。店長、今日先輩は?」

「森本くんおはよう!今日もお休みするみたいだよ!あ、あとしょうこちゃんも熱が出たからお休みするってさ!流行ってるのかな?!森本くんも気を付けなよ〜」


しょうこも休み、か。


なーんだ。


しょうこに会いに来てるのに。

今日はつまんねーな。


帰りに寄ってやるか。


今日はこどもの日なのか。

大人になってからこういうイベントに疎いな。

桜餅でも買っていってやるか。


仕事終わりにスーパーに寄るなんて
主婦もいける俺ってポテンシャル高いなやっぱ。



しょうこのアパートへ向かった。

まさに
好きな人に会いに行くこのワクワクが俺は大好きだ!!


ピンポーン。


ピンポーン。


電気もついてない。

いないのか?

プルルル。。

プルルルル。。



携帯も繋がらない。



玄関の横の窓の鍵が開いてる。。


「おーい。いないのか?」



足だ。


足が見える。


もしかして、寝てるのか?


小石を足に向かって投げたが反応はなかった。


俺は怖くなって下に住んでる大家さんのところへ行った。


「すみません!!!上の階の友達がもしかしたら、、倒れてるかもしれません!!」


大家さんは慌てて合鍵を持ってきてくれた。


しょうこの部屋のドアが開いた。


大家さんが先に入る。


「及川さん!!!及川さん!!!ちょっと君!救急車!!!頭から血が出てる!!!」



血の気が引いた。



慌てて救急車を呼んだ。




「おい!!しょうこ!!!起きろ!!!起きてくれ!!!ダメだ!死んじゃダメだ!!!」



必死に人工呼吸と心臓マッサージをし続けた。



救急車が来て、

しょうこは目を覚まさずに


運ばれて行った。


大家さんがしょうこの両親に連絡をしたらしい。


俺は、群がる人ゴミを避けるようにしょうこの部屋へ戻ろうとした。


「きみー、ちょっと今は入れないんだ。事件性があるかどうか、調べなくてはいけないから。忘れ物かい?」


警察に止められて


しょうことの関係を洗いざらい話し、



俺はどこにいるのか、分からなくなった。



たぶん、しょうこは死んでいた。



冷たくなっていた。


病院には行かなかった。


怖かったんだ。


本当になりそうで。


俺の勘なんて

滅多に当たらないんだから

大丈夫。

そう

思いたかったんだ。



最後に握った、しょうこの手が、



まだ

俺の手に記憶として残ってて



最後に触った、しょうこの髪の毛が、



まだ俺の手に記憶として残ってて。。。






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