お気に入りの服

お気に入りの黒いワンピースがある。

それを着ていると

何もかもが優雅に感じて

掃除して皿を洗い

日の当たる窓側で

紅茶でも淹れてレモンでも浮かべて
角砂糖を小さいトングでポチョンと落としたくなる。

薔薇の咲いた庭を眺めて…



現実は階段を上るのに裾を捲し上げて
膝まで出して登り
皿を洗うたびにびしょ濡れになり
インスタントコーヒーに
喉が痛いからハチミツを入れて
日が入りすぎた窓側では薄目で外を眺めている。
庭では伸びすぎた芝生と
枯れかけたマリーゴールドが北風に吹かれている。


あーなんて愛おしい現実。

乙女もこんなに長い放屁をするのかというぐらい
長い屁が出たりして
子どもを驚かせて笑う現実。


こんなにお下品でこんなに笑える日常の
今に集中できるようになったのは
今年一年、走り続けて
先を心配したり
過去を悔やんだりしたからだ。

ずっと今を探し続けていた。

ずっと明日のために洗濯をして
明日のためにお茶を沸かし
いつかの不安を抱いていた。

今、笑えるこの時に

今のために洗濯をして
今のために皿を洗う。

今日はもう2度とやってこない。

こんなに愛おしい日々は

1秒も戻ってこない。

感謝と喉の痛みが全身を貫く
年末をどうもありがとう。

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