満月の夜

「今日先輩遅いね。」


「あ?あぁ。」


さとしと別れて一年半。

ゾンビのように生きのびた私は

今日も今日とてバイトに明け暮れていた。



あれから私は何か目標が欲しくて

バイトを増やしてお金を貯めていた。


引っ越そう。家具も変えよう。


ここにずっといたら、さとしをずっと待って

ヨボヨボのおばあちゃんになって。。


それも悪く無いけど
今はとにかく何かに一生懸命になっていたかった。


先輩が来てない。


たまに少し遅刻はしてたけど、


なんだか今日は遅い。


森本も、なんだか元気がない。


どうしたんだろう。


「お前先輩に電話してこいよ」


明後日の方向を向きながら

森本は小声で私に言った。

「え?あ、うん。事故とかだったら大変だもんね」


私はそっと休憩室に戻りケータイをとった。

プルルルル。。。


出ないな。


プルルルル。。。


「はい。」

「先輩?寝てました?」

「グスン。。。」


泣いてるの?

「先輩?大丈夫ですか?」


「森本は?」


「来てますよ。」

「はぁ。あそう。今日私休むわ。店長に言っといて」

「わかりました。先輩大丈夫ですか?」

ツーツーツー。

言い終わる前に切れた。


どうしたんだろう。

彼氏と喧嘩でもしたのかな?

でも、なんで森本がいるか確認したんだろう。


「出たか?」


「うん。出たよ。今日休むって。店長に言ってくる」

森本はうつむきながら服を畳んでいた。

「店長、今日先輩具合が悪いみたいでお休みするそうです」

「あそう!そりゃ大変だな!あとで電話でもかけてやるか!」

何が起きても明るい店長だよな本当。


森本はため息をつきながらハンガーをまとめている。

「森本、どうしたの?なんか、あった?」


「いや。先輩なんか言ってたか?」


「森本が来てるか、確認されたけど。」


「先輩、彼氏と別れたみたいなんだ」

え。。。あんなに仲良しだったのに?

「先輩大丈夫じゃないじゃん。私先にあがって先輩のところ行ってくる。」

「やめとけよ。」


。。。


「別にお前が行くことないだろ」

森本が行った方がいいか。

「じゃあ、森本が行った方がいいかな。」


「俺も行かない。」


は?行けよ。先輩強気のサバサバ人間だけど本当はへなちょこだって知ってるよね?彼氏と喧嘩しただけで大変なことになってたの知ってるよね?!



森本?



「なんか、あったの?」

「後で話すよ。」


そのあとの私たちはうつむきながら目も合わなかった。

お互い、考えていた。


「お疲れ様ー!今日も頑張って働いたからビールでも買って帰るかな!しょうこちゃん、鍵よろしくね!」

店長は先輩に電話するのも忘れて元気に帰って行った。


私と森本は帰る支度をしていた。

「実は。。先輩が別れたのは俺のせいなんだ。」



「先輩が、別れたから付き合おうって言ってきたんだよ。でも、俺、断った」


「。。。好きなんでしょ?」


「好きだよ。でも、今は気になるやつがいるから付き合えないんだ。」


「そっか。」


「今日後ろ乗ってくか?」


「ううん。歩いて帰るよ。」


「そうか。」


森本も大変だなぁ。
顔がいいから、モテるだろうし。

先輩、辛いだろうな。



私はだんだん、さとしのことを考える時間が減っていた。

信号を待っていたら

森本のバイクが通り過ぎた。

私は森本に手を振った。

目の前に停まっていた車の運転手がこちらを見た。


違うんです。向こうのバイクに。。。。






さとし?



気が付いたら穴が開くほどその運転手を見つめていた。

運転手も、私を見ていた。



信号が青になったのに

渡りそびれて


後ろの車からクラクションを鳴らされるまで


見つめあっていた。


後ろには女性が乗っていた。


そのまま車は発進した。


私はその場に座り込み

鼓動が落ち着くのを待っていた。


たくさんの疑問が湧いてきたけど

落ち着かなきゃ。

どうして。
なんで。
どういうこと?

落ち着け。


あの後ろの女性は誰なの?


落ち着いて。


ブーン。バイクがいきなり目の前に停まった。


「轢かれるぞ。乗れよ。」


森本。。


涙が出てたみたいで

森本は私を見て驚いて

怒ってるように見えた。


家について

ようやく落ち着いた。

森本は私の部屋の電気をつけた。


「ごめん」


「何がだよ。」

「泣いてたから。」

「さっきの車、前にお前の家の前に停まってた車とナンバーが一緒だったからもしかしてと思って追いかけようとしたらお前が変なとこにしゃがんでたから行けなかった。どうしてあんなとこにしゃがんでたんだよ」

「…さとしが、運転してた気がして」

「やっぱりな。。そんなこったろうと思ったよ。ムカつく。」

私は天井を見つめていた。

私は森本からあの車が家の前に止まってたと聞いて

また、疑問の嵐にあっていた。


「なぁ。お前さ。俺と一緒にいろよ。。ずっと。。俺はどこにも行かないから。」


森本を見ると

泣きそうな顔をして私を見てる。


ひとつ、答えが見つかった。
どうして,困った時森本が助けてくれるのか。

さとしと別れてから
森本はいつも先輩のそばにいながら
私のそばにいてくれてた。

2人と一緒にいると
楽しかった。

2人のおかげで
私はゾンビとしてだけど生きてこれた。

「森本、ありがとう。いつも一緒にいてくれて。でも、付き合えないよ。私、たぶんおばあちゃんになっても、さとしを待ってると思うから。」





「なんでだよ。。。」
森本は少し笑って泣いていた。



満月が明るい夜だった。

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