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エウレカ 私は見つけた 第14話

14  目が覚めて

 ぼーっとして目を開けたとき、まず飛び込んできたのは、疲れのためかまぶたが落ち込んでいるミケーネの顔。
 たぶん、何日も寝ていないのだろう。でも俺の顔見て、ポロポロと真珠のような涙を流しながら、目覚めたことを喜んでくれた。
 

 彼女の話によると、3日3晩高熱が続き、何かうわごとを言いながら寝ていたそうだ。医者も原因が不明なので
「薬が処方できない。体を冷やし、水分を補給し、本人の回復力に期待するしかない」と言ったそうだ。

私はまずミケーネに謝りたかったので
「すまない。あの時は…」
と言いかけたら、彼女は、口の前で
「もう言わなくていいから」と、指を立ててそれを遮った。

「あなたの気持ちはわかっているから大丈夫。安心してゆっくり休んでください。私もほっとしたので、少し横になります」
と微笑んだ。

 何と言う懐の広さだろう。こんな女神のような女性と暮らしていたのに、不幸せだと思っていたなんて… .…。
 目の前の曇りが取れたとき、妻は輝いていた。
 
 ミケーネの顔を見て安心したのか、俺はまた数時間眠っていたらしい。キッチンから何か美味しそうなスープの匂いがしてきた。

「またミケーネの料理が食べられる」
彼らにとっては、あの肉そのものの味がする料理が、最高のご馳走だった。
私にとっては、オリーブオイルで炒めたニンニクの香ばしい香りやレモンの風味、様々なスパイスが必要なのだ。


 しばらくすると、以前はあまり気にならなかったランドルのことがとても心配になってきた。自分が寝込んでいた数日、ミケーネは、俺の看病にかかりきりだったから、一体誰がランドルの世話をしたのだろう。

 『温かく消化の良いもの』とミケーネが持ってきた野菜スープを飲みながら、
「誰がランドルの世話をしているのか?」とロドリゴは尋ねた。
するとミケーネが話し始めた。

 ロドリゴが仕事に来ないと心配して、1番初めに訪ねてきたのはアントニス。
そのとき、ロドリゴの病状を心配し、回復するまでランドルの面倒を見ると言ってくれたらしい。

 彼曰く、「1頭も2頭も世話することに変わりはないから、ランドルのことは任せてください。ロドリゴさんにはいつもお世話になっていたから、自分ができる事は何でもします。だから、困ったことは、言ってください」と申し出てくれたそうだ。

『ああ、なんて心の温かいやつなんだ。最近の俺はアントニスの人気にやっかみ、冷たい態度をとっていたと言うのに…』
 彼が揺れの少ないたずなの引き方を教えてくれと言ったのは、今ならほんとうにお客さんのためだとわかる。

『そうだ、俺の体力が回復したら、アントニスに俺の経験やたずなの引き方のポイントを伝えよう。自分もそろそろ引退の時期が迫ってきた。狭い考えを持つことをやめて、次の若手に技を伝えよう』

 ロドリゴは方針を決めて、心が楽になった。これまで、自分だけのものだと頑なに離さなかったものを、相手に惜しげもなく全て渡そうとしているのに、どうしてこんなに心が安らかで、幸せなのだろう。

 「ありがとうございます。ロドリゴさん、ほんとにいいんですか?」と驚くアントニスのぱっと輝く顔が、彼には浮かんできた。


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