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メットライブビューイング 「カルメン」をみて

 映画館で観たメトロポリタンオペラのカルメンは、設定を現代のアメリカに変えた新演出だった。そのため、19世紀のセビリアのタバコ工場は兵器工場になり、闘牛のエスカミーリは、ロディオのチャンピオンになっている。全ては、現代の人にもオペラを身近に感じてもらうためだそうだ。

 カルメンを演じたA・アクメトチナは若干27歳。カルメンは彼女の当たりどころと言われている。なんと21歳の時に代役でロイヤル・オペラ演じたのが最初だそうである。

 リハーサルで50%を出し、本番で50%  その場で感じた気持ちで演じるとインタビューで答えたのには、私は正直驚いた。特にカルメンは自由度が大切。作り込みすぎるとカルメンらしさが失われると語っていた。だから、その日によって妖艶さと怒りの部分、どちらにウェイトが置くか微妙に変化すると彼女は答えていた。

 アクメトチナの声は鋼のように強い部分もあり、とても伸びやかだった。指揮者が言っていたが、半音(ピアノの黒鍵の部分)をたくさん使っているため、人を誘惑するような旋律が出来上がっていると。まさしく少し怪しく、人があらがえない魅力に溢れた歌である。

  一方、ホセはまっすぐで誠実な雰囲気が出ている。ただ後半に出てくる粘着気質が歌にも表れていると指揮のL・ダヴィドセンが語っていた。私はこれまで気づかなかったが、にじり上がるような旋律。それからはカルメンを失いたくないという執着を感じるということだった。

 私は今までどちらかと言うとカルメンが悪いと思っていたが、今回それが分からなくなってきた。なぜなら、カルメンの心がすでに離れてしまっているのに、追いすがるホセをカルメンが鬱陶しく思うのも無理もないと思うからだ。ただ、ホセがカルメンを選んだことで失ったものが余りにも大きいため、彼がこだわるのも理解できなくはない。

 エスカミーリョはロディオのチャンピオンとして赤いジャガーで登場する。
スタイリッシュでかっこいい。どちらかと言うと、愚直なホセとは対照的である。定番である闘牛士の歌を力強く歌い魅力的だった。
 
 とても感動したのは エンジェル・ブルーの歌うミカエラの表現だった。田舎で暮らす、信仰心のあつい娘の気持ちが痛いほど伝わってきて,カルメンと対照的だった。これからプッチーニの「つばめ」に彼女が出るので、ライブの楽しみが増えた。

 わたしのメットライブビューイングの紹介記事を読んで,初めて観た友人が、とても満足したという感想を伝えてくれ,うれしかった。映画でも、十分雰囲気や歌声を味わえるライブだが,またまた夢が生まれてしまった。

 一生に一度でいいから、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場で実際にオペラを観たい。

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