見出し画像

夜逃げ

これはあるクライアントの夜逃げの物語。
そのクライアントは土建系の下請け業者。
毎期毎期の決算では微妙な黒字ではあったものの主にゼネコンが発行する六か月手形のせいで資金繰りは常に苦しく商工ローン等でひたすら手形を割り引いては食いつないでいくような会社だった。
今のような低金利だったら所謂手形割引コストが安いので相当儲かっていたんじゃないかな…

そんな会社の若専務(社長の息子)
昼の働きっぷりは真面目そのものだけど水商売とギャンブルが好きでボートに買って会社資金を繋いだとか万引きの自慢をする中学生のようなメンタリティの持ち主だけど不思議と私はその方が嫌いにはなれなかった。

今年も1年何とか乗り切ったねというある決算時期。
専務から先輩と一緒に食事に誘われた。
給料日前はメロンパン1つでランチを済ませる貧乏人にはちょっと厳しい感じの鉄板焼き屋でステーキをご馳走になった後で封筒に入ったお金を
「今年は面倒かけたからチップ代わりにとっといてよ」
と先輩に渡した。
中に入っているお札はピン札ではなさそうなので封筒の厚さから多分最低10は入ってるように思えた。
さて先輩、どうするんだろ、これもらっちゃうと流石にアレだよな
そんな風に思いながら先輩の様子を伺っていると流石にまだ世間に汚されてないであろう後輩社員の手前か先輩は謝礼を固辞していた。

お金は無事返せたのだが、今度はシモの話題を専務が始めた。
中洲のお風呂屋さんが素晴らしかった話を延々聞かされる。
これってこの後、そういうお店を奢ってもらえるのかなとかみたいな雰囲気に多少なりかけたところで綺麗なお姉さんが二人、鉄板焼き屋にやってきた。
専務は彼女たちをテーブルに呼び談笑を始める。
私はすっかりこの女性がお風呂の方たちと勘違いして流石に先輩が選んだ残りの方と××するのかなとか汚れ切った妄想を開始していた。

結局、その女性はクラブの女性でなんて事はない単なる同伴出勤だった。
お風呂デビューではなくクラブデビューを果たした私は終電が終わるような時間まで5件程度のはしごをしてホステスさんとの会話を適当に楽しんだのだった。

で、それから二か月程度たった頃だろうか。
専務は夜逃げした。
その数年後、元専務から電話があり新しい事業を始めたので色々相談に乗って欲しいので代表に繋いでくれと言われたが三か月分のフィーが未払いだったため丁重にお断りしたが数年で新しい事業を始める逞しさに当時はびっくりしたものだ。

お金を払って女性と飲むなんて意味が解らないと思ってた20代半ば
お金を払ってくれる方がいるなら大人のお風呂でも入浴しちゃうぞと思ってた20代半ば

結局50代になってしまったが、お金を払って女性とお話することに関する抵抗はなくなったし他人のお金でもえっちなお店に行こうとは思えない。
人の価値観なんて変わるもの…夜逃げの話をTLで見かけたので小話でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?