2024年2月12日の週バイオテックおさらい- 2023年度の大型M&Aトップ10

【前置き】
バイオテック業界は、2023年よりM&Aが再び活発になり、トップ10のM&Aディールの合計は1158億ドルに達し、2022年、2021年、2020年のそれぞれ650億ドル、530億ドル、970億ドルを上回りました。
2023年のトップは、何と言っても、ファイザーによるSeagenとの430億ドルの合併です。2024年のM&Aのニュースもそうでしたが、再びADC(抗体薬物複合体)が注目されています。
元記事はこちらです。

ファイザー&Seagen

  • 取引価値: 430億ドル

  • プレミアム: 前回の終値より33%上

  • 発表日: 3月13日

ファイザーとSeagenの430億ドルの合併は、2023年あたりから、抗体薬物複合体(ADC)分野への関心が急増していること示しています。
ファイザーは過去にも大きながん関連のディールを行っており、Medivationの140億ドルの買収を通して、Medivation社がアステラスと提携していた前立腺がん薬Xtandiを手に入れました。また、Array BioPharmaの114億ドルの買収は、2019年のバイオファーマ取引で5番目に大きなものでした。
Seagen社とのDealにより、ファイザーは4つの商業化がん製品を手に入れました。CD30を標的とするPadcev、組織因子を指向するTivdakはそれぞれADC医薬品、HER2エージェントのTukysaは小分子薬です。
尿路がんにおいてfirst lineでの承認と全生存率改善を得たPadcevは、ピーク時に約70億ドルの売上が見込まれています。
市場に出ている製品の他に、Seagenは中国のRemeGenによって開発されたHER2標的ADC医薬品も持っています。12月に明らかにされた別のライセンス契約では、SeagenはHaror BioMedのNona Biosciencesが作ったメソセリン標的ADCに対して5300万ドルを前払いをしています。

COVIDが落ち着きを見せる中、ファイザー社のCOVID-19製品への需要が低下してやや業績は低下。現在、ファイザーは重要な時期に多様化を図っています。年末には新たな組織構造を発表し、オンコロジーを独立した部門として設立しています。そして、ファイザーは、Seagen社買収後も、ADCの取引に依然目を向けています。

②BMS & Karuna Therapeutics

  • 取引価値: 140億ドル

  • プレミアム: 前回の終値より53%上

  • 発表日: 12月22日

BMSは、ボストンに本拠を置くKaruna Therapeuticsの140億ドルの買収を行い、統合失調症のアセットを入手しました。全てが順調に進めば、BMSはKaruna社の主要アセットであるKarTXからの大きな売り上げを期待できます。KarTXは、M1/M4ムスカリン受容体作動薬としては初のクラスです。Karuna社の薬は、D2ドーパミン受容体と5HT-52Aセロトニン受容体を阻害する従来の方法とは異なるアプローチで統合失調症を治療し、そのdualのメカニズムを通りてより少ない副作用で高い効果を発揮することが期待されています。
その他、Karuna社はアルツハイマーなどへの適応拡大など、様々な付随パイプラインの可能性も秘めており、双極性障害やアルツハイマー病等についても可能性があるとのことです。

メルクとPrometheus Biosciences

  • 取引価値: 108億ドル

  • プレミアム: 前回の終値より75%上

  • 発表日: 4月16日

2021年2月、メルクは免疫介在性炎症性疾患分野において、比較的小規模な買収活動(Pandion Therapeutics、18.5億ドル)を行いました。その16ヶ月後、Prometheus Biosciencesの大きな買収を行いました。
この取引ので、メルクは、潰瘍性大腸炎(UC)、クローン病、および他の自己免疫疾患における新規候補であるPRA-023(現在はMK-7240)を得ました。このモノクローナル抗体は、2022年12月のフェーズ2の結果が非常に良好でした。
UC患者を対象とした研究では、腫瘍壊死因子(TNF)様リガンド1A(TL1A)治療により、第12週で26.5%の寛解率が報告され、プラセボを使用した患者群では1.5%でした。クローン病患者を対象としたフェーズ2試験では、PRA-023を使用した49%が寛解に達し、プラセボでは16%でした。
これらの数字は、TL1A領域の別のトップ候補であるRoivantとファイザーの抗体RVT-310と競合的な位置づけにあります。ファイザーとRoivantは当該医薬品を開発し、米国と日本で商業化するためにTelavant社を設立しており、10月には、そのTelavant社はロシュにより71億ドルで買収されています。
サノフィもTL1A薬を手に入れるために急いでおり、UCおよびクローン病のフェーズ2にあるTEV’574の開発および商業化に参加するためにTevaに5億ドルを支払いました。

このように、TL1A経路は、炎症と線維化の領域と重症度を調節すると考えられており、TL1A薬は、複数の炎症および線維化経路にアプローチできると、大変期待を持たれています。

④AbbVieとImmunoGen

  • 取引価値: 101億ドル

  • プレミアム: 前回の終値より95%上

  • 発表日: 11月30日

アッヴィもADC薬に注目しています。ImmunoGen社は、11月に100億ドル以上を投じて、ADCに焦点を当てたバイオテックとその承認済み薬であるElahereを買収しました。Elahereは2022年にプラチナ化学療法に耐性のある進行性卵巣がんの治療薬として加速承認を獲得していました。

ImmunoGen社との今回の取引により、アッヴィは固形腫瘍領域での戦略をますます強めていっています。アッヴィ社が今回手にしたElahereは、2024年に5億ドルの売上、10年後にはピークセールス20億ドルを期待されています。Elahere以外にも、immunoGen社のパイプラインには、卵巣がんやその他疾患をカバーできる可能性のある抗FRαフォローオンのIMGN-151、および希少な血液がんのフェーズ2試験中の抗CD123 ADC医薬候補品が含まれています。

アッヴィは、がん治療分野において、初期からADCに注目をしていたビッグファーマの1つであり、2011年時点で既に、Seattle Genetics社に800万ドルを支払い、ADC技術を活用したがん治療に取り組み始めていました。Seattle Genetics社は後にSeagenとなり、2023年最大のバイオファーマM&A取引でファイザーに売却されました。こおようにADC分野に関しては各社注目を高めており、その他、BioNTech、GSK、Merck & Co.、等が競ってパイプライン獲得に向けてしのぎを削っています。

アッヴィとCerevel Therapeutics Holdings

  • 取引価値: 87億ドル

  • プレミアム: 前回の終値より26%上

  • 発表日: 12月6日

BMSがKarunaを買収したように、アッヴィも神経科学領域に大きな賭けをしました。アッヴィのCerevel社の買収により、アッヴィはますます、CNS領域のパイプラインを拡充することになります。これには、偏頭痛、運動障害、精神障害等が含まれます。

Cerevel社の臨床パイプラインんの中で最も注目されているのは、emraclidineで、統合失調症とアルツハイマー病を適応として、フェーズ2の段階にあります。この薬は、ムスカリンM4選択的positive allosteric modulatorであり、BMSが12月にKarunaを買収した際の注目パイプラインであるKarXTと同じクラスに属します。Emraclidine以外にも、パーキンソン病を対象とした、ドーパミンD1/DF選択的部分作動薬であるtavapadonも注目されています。

6. バイオジェンとReata Pharmaceuticals

  • 取引価値: 73億ドル

  • プレミアム: 前回の終値より59%上

  • 発表日: 7月28日

CNS領域の買収で、バイオジェンによるReata Pharmaceuticalsの73億ドルの買収は、Reata社が最近FDAの承認を受けた薬、Skyclarysに注目したものでした。Skyclarysは、先天性の希少な神経障害であるフリードライヒ失調症のための、初めてで唯一の治療法として、2023年2月にFDAによって承認されました。この薬は2030年には15億ドルが期待されています。

⑦ ロシュとTelavant Holdings

  • 取引価値: 71億ドル

  • プレミアム: 該当なし

  • 発表日: 10月23日

ロシュは、71億ドルの前払い金と1億5000万ドルの短期マイルストーンで、米国と日本の権利を持つ、フェーズ3準備完了の炎症性腸疾患(IBD)候補医薬品を得ました。RVT-3101とコードされたこの抗体薬は、TL1Aを標的としています。これはメルクのPrometheus Biosciences社買収や、1サノフィのTeva都のディール(抗TL1A候補であるTEV’574を共同開発および共同商業化)でも注目されている標的です。

TL1Aは、炎症と線維化の調節機構として注目されていおり、ロシュは、IBDの他、アトピー性皮膚炎、乾癬、関節リウマチなどの他の主要な自己炎症性疾患においての可能性にも期待を寄せています。

RVT-3101は現在、中等度から重度の潰瘍性大腸炎の患者を対象としたTUSCANY-2試験のフェーズ2bを終えた段階で本ディールがありました。フェーズ3試験に進む投与量では、RVT-3101は維持治療として期待されており、14週目に29%、56週後には36%の臨床寛解率の改善をもたらしました。内視鏡による改善も、以前の36%から50%に拡大しました。ロシュは、同パイプラインのファーストインクラスを目指し、フルスピードでフェーズ3に向けて進めています。

アステラスとIVERIC bio

  • 取引価値: 59億ドル

  • プレミアム: 前回の終値より22%上

  • 発表日: 4月30日

本買収は、アステラスの史上最大の買収です。現在は、その買収で得た医薬品であるIzervayに対し、FDAが承認を出しました。Izervayは、後期の黄斑変性を患う人々に発症するgeographic atrophy(GA)の治療薬です。

同じ適応症で承認された唯一の他の薬であるApellis社のSyfovreは、7月に眼内炎症で問題視されていました。しすて12月には、米国の規制当局がSyfovreのラベルに警告を追加しました。補体阻害剤として同じ作用機序を持つIzervayが同様の安全性警告の対象となるかどうかはまだ分かりません。

SyfovreとIzervayは治療薬ではなく、これらの薬は、中央の視力損失の改善や停止ではなく、病気の進行を遅らせるものです。これらは補体タンパク質に結合し、免疫系が網膜に炎症や損傷を引き起こすのを防ぎます。

BMSとMirati Therapeutics

  • 取引価値: 48億ドル(加えて10億ドルの条件付価値権)

  • プレミアム: 10月4日終了の30日平均より52%上

  • 発表日: 10月8日

10月初旬、BMSは、がん専門のMirati社の買収を通し、FDAが承認した肺がん薬Krazatiを得ました。
このディール当時、BMSはMirati社のパイプラインをKRAS G12C阻害剤のbest-in-classと位置付けました。2022年末にKRAS G12C変異非小細胞肺がん(NSCLC)を既に治療した患者を対象に承認されたこの薬は、アムジェンのLumakrasに対する競合医薬品として上市されました。しかし、Krazatiは2番手として市場に出たにも関わらず、有利な肝毒性プロファイルのおかげでPD-1阻害剤との組み合わせが可能であるという点で、競合他社よりも優位性を持つ可能性があります。

10. BMSとRayzeBio

  • 取引価値: 41億ドル

  • プレミアム: 前回の終値より104%上

  • 発表日: 12月26日

BMSによるRayzeBioの買収は、盛り上がりを見せる放射線薬学(radiopharma)領域での存在感を確立しようとする、BMSの長期的な努力の一環です。本買収で、BMSはアクチニウムを基にした放射性薬剤治療薬(RPTs)のパイプライン得ました。その他、胃腸膵神経内分泌腫瘍(GEP-NETs)、小細胞肺がん、肝細胞がんなどのがんの潜在的な治療法も含まれます。

主要なパイプラインであるRYZ101は、GEP-NETsおよび広範囲ステージの小細胞肺がんで過剰発現するsomatostatin受容体2を標的としており、特定のGEP-NETs患者を対象としたフェーズ3試験の登録段階にあります。RPTsは、腫瘍細胞に結合し、標的放射線を通じてがん細胞を殺すことで作用します。RayzeBioのアクチニウムを基にしたRPTsは、現在市場に出ているRPTsよりもさらに標的を絞ったアプローチと、より強力な効果を提供する可能性があるようです。

放射線薬学の分野の競合には、ノバルティスとルテチウムを基にした薬剤Lutathera とPluvictoや、イーライリリーとPoint Biopharma Globalが挙げられます。

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