今後のスペイン代表

 2023年2月24日(現地時間23日夜)、衝撃のニュースが舞い込んできた。
 
 セルヒオ・ラモス代表引退。

 2022年のカタールワールドカップ終了後退任を表明したルイス・エンリケに替わってU-21から昇格する形で就任したルイス・デ・ラ・フエンテは、無敵艦隊の一員にして最多キャップ数(180)の偉大なカピタンに戦力外通告を突きつけた。「モドリッチやメッシ、ペペのような選手を羨望の眼差しで見ている。」と話すように、本人は他国のベテラン選手のような扱いを羨み、実際にそうされるだけのことをしてきた。しかしデラフエンテとラ・ロハの選考会は亡き親友を背負って旅を続けた男に突然の別れを押し付けた。自身が一族の長となり、子分を従え家族を作ることを生業とするルチョにとって、ラモスのように圧倒的な個性と影響力を持った選手は反乱分子になりやすい。そのためルチョは暫く招集していなかった。そしてラモスが呼ばれない度にニュースで騒がれた。デラフエンテはそれを避けたかったのだろう。

 現在のスペイン代表は若返りに奔走している。ペドリやガビ、バルデ、ファティといったバルサ組からニコやピノ、F・トーレス、オルモ、といった10~20代前半の選手を多く招集し起用している。EUROではベスト4に残り、NLでも決勝フランス相手にあと一歩まで迫った。コスタリカを7-0で破ったように、無敵艦隊と呼ばれたあの栄光を取り戻しつつある。その一方で20代後半からベテラン層がパッとしない。チームに覇気を吹き込む頼れるカピタンもいない。フレッシュに走り回って若さゆえのアグレッシブなティキタカを展開するが、予定が狂うと若者は狼狽え、秩序を取り戻せる経験豊富な選手も少ない。経験値と安寧秩序、カピタンという意味でラモスにはまだいて欲しかった。ブスケツは劣勢に立たされるといつも気持ちで負ける、いわば負け癖がついていて向いていない。そもそも声を出して鼓舞するキャラクターではない。背中で語る男。アルバはEURO準決勝イタリア戦のPK戦でキエッリーニに飲み込まれた以上厳しい。副官や兄貴分としては貴重だが先頭に立つ器ではない。また20代後半の全盛期に差し掛かる選手たちも存在感が薄い。確かにモラタはビジャやトーレスを彷彿させるようにチームを勝たせるゴラッソを決めてくれた。ロドリ、ラポルトのシティ組も後ろでどっしりと構えてくれた。この二人が最終ラインにいるおかげで失点を最小限に抑えられていることは忘れてはいけない(日本戦はP・トーレスが穴だった)。しかし同世代のほかの選手はどうだろうか。ここ一年招集され続けていた選手を見てみよう。アセンシオやG・モレノ、サラビアは代表になるとどうも試合全体のプレーの質が低い。ゴールの数も少ない。アセンシオはゴラッソ製造機、モレノはケガがちで安定しない。サラビアはモロッコ戦でヒーローになり損ねた。中盤もファビアンやソレール、チアゴ、ジョレンテらがいるがアクセントを加える程度で試合の流れを変えたり、スタートから試合を掌握することはできない。先の三人は運びに苦労する。そしてジョレンテは内側よりも大外で勝負するタイプ。そもそもファビアンやソレールはPSGでコンディションが上がらない。バックスも先ほどのアルバに加えアスピリクエタやガヤなどがいるが、安定性に欠ける。そして攻撃面で大きなスタッツを記録できない。カルバハルは三笘にぶち抜かれた。

 ではこれからどのようにチームを構築するべきか。少なくとも今言えるのはGKはこのまま弄らないでいいだろう、ということ。シモン(アスレティック)を正GKとし、サンチェス(ブライトン)、ラジャ(ブレントフォード)が控える。割り込むとするならレミーロ(ラ・レアル)やケパ(チェルシー)が挙げられる。
 デラフエンテにはルチョが残した若返りのそれをさらに加速させ、次のワールドカップだけでなくその先も中心を据え置ける長期的なチームを構築して欲しい。初陣はEURO予選という舞台で怪物と神童を迎え撃つことになるが、思い切って若手で染め上げるチームをデザインして怪物相手に戦えることを証明し自信をつけたい。実際そうするだけの選手がスペイン国内だけでも多くいる。もちろん最初は難しくなるだろうが将来への投資という事で我慢をしながら長期目線で作り上げたい。
 基本フォーメーションは4-1-4-1で構成したい。エストレーモに頼れる選手が少ない一方で、インテリオールは潤沢なため中盤インテリオールを横並びに4枚配置しピボーテがフィルターになる。守備時は4-5-1の構えを擁したい。
 まずバックスだが、まずはじめにどうやらデラフエンテはエルモソ(アトレティコ)をスカッドに含めてチームを構築しているらしい。それを考慮したうえでもやはりCBは一旦ワールドカップと同じくロドリとラポルトのシティ組でいきたい。ただロドリはアトレティコ時代からの本職ピボーテ起用の可能性も考慮している。サブで呼ぶならP・トーレス(ビジャレアル)やスベルディア(ラ・レアル)、I・マルティネス(アスレティック)、ジェライ(アスレティック)、ルノルマン(ラ・レアル、スペイン国籍取得獲得以降)あたりになるだろう。ダビドガルシア(オサスナ)やビビアン(アスレティック)、バチェコ(ラ・レアル)の線も一応考えておきたいが現状は先の選手たちに軍配が上がるとみている。なお、個人的にエリックガルシア(バルサ)は無しとみている。いずれにせよラモスのように前に出て潰せるCBがいないのは厳しい。コントゥンデンテな守備という意味ではマルティネス、イェライのアスレティック組は貴重な存在だろう。
 右SBはジローナのアルナウを推したい。暫くはカルバハルがスタメンになるだろうが、彼の成長を見据えての起用も考えたい。両足使えて走りながらのクロスも正確に蹴れる。ジョレンテSBとかいう迷走は二度としてはいけない。
 左SBはチョイスが難しい。今後の成長も見るとバルデ(バルサ)の1stチョイスは堅いだろう。バルデはああ見えてドリブル突破をほとんど許さない(リーガでは今季バルベルデに突破された程度?)守備力を持っている。そして攻撃力もある。中外使い分けながらエストレーモを囮にして自分がゴール前に侵入するシーンも少なくない。まだ19歳だがnextアルバになる準備はすでにできている。一方2番手以降が定まらない。3月はアルバが入るだろうがこれからを見るといつまでもアルバを頼れない。既に衰えが見えているからだ。実際バルサでのラテラルとしての序列は3番手に落ちている。見方によってはそれこそ現在2番手のアロンソを招集してもよいだろう。ただ、代表の経験値を見るとアルバはまだ必要に見える。さて他の2番手候補はどうだろう。ガヤはバレンシアでの不調を引きずっている。ペドロポロ(トッテナム)やアレックスモレノ(ヴィラ)、ゴロサベル(ラ・レアル)らは伸び悩んでいる印象。ミランダ(ベティス)やブエノ(ウルヴス)、来夏マドリー復帰のフランガルシア(ラージョ)らの成長を待つのが賢明だろう。ちなみにこのバックスの話をするうえで敢えてここまで一人の選手の名前を隠しておいたが、ここでその話をしてみよう。
 ナチョは今季マドリーで素晴らしいシーズンと相変わらずピンチの時に颯爽と現れ秩序を作り続けている。ロシア以降見ていない彼を重用しても良いのでは? 
 続いて中盤、ピボーテ候補は間違いなくスビメンディ。4-1-4-1が務まるピボーテは彼しかいないという具合に適正度は高い。交代でロドリを入れることも可能だがその場合は4-3-3に可変するだろう。現状ピボーテはこの二人。ブスケツは正直限界が見えているので世代交代のタイミング。数人他に挙げるならギジャモン(バレンシア)やベルトラン(セルタ)あたりか。
 いよいよ豪華絢爛なインテリオールの選出。と言ってもペドリ、ガビは当確だろう。となると残り2枠と控え、試合の中でのシステムの変更を加味するとエストレーモも数人ここに入れる必要がある。
 サンセ(アスレティック)、バリオス(アトレティコ)、バイチェティッチ(リヴァプール、スペインを選んだ場合)、ベイガ(セルタ)、メリーノ(ラ・レアル)、セバージョス(マドリー)、現状は2枠をここで争うだろう。コケやジョレンテといったアトレティコ組、ファビアンやソレールといったパリ組らが相変わらず招集される可能性もあるが、将来を見据えた場合、上記の選手に未来を委ねたいところではある(カピタンを任せるうえでコケだけは必要かもしれない)。バリオス、バイチェティッチはまだ時間がかかるかもしれないが(特に強豪相手の質)ベイガとサンセ、メリーノは3月で早速見てみたい。バルサでガビを4-3-3の左エストレーモに配置するやり方をチャビは最近多く取り入れていることから、4-1-4-1の場合2列目の一番左にガビを置くことになるだろう。中央はペドリとベイガ(もしくはメリーノ)、右はジョレンテで見てみたい。サンセやコケで締めるもよし、セバージョスでテクニカルにするもよし、バイチェティッチで強度を上げるもよし。インテリオールだけでこれだけの可能性があるのはうれしい悩みだ。そしてピノ(ビジャレアル)、ニコ(アスレティック)、ヒル(セビージャ)、オルモ(ライプツィヒ)といったアタッカーをサイドに配置してサイド攻撃に切り替えても面白いし、これまで通りの4-3-3に戻してもよい。フアンミ(ベティス)やカナレス(ベティス、怪我で3月は無し)、アセンシオ(マドリー)、ブライスメンデス(ラ・レアル)、チアゴ(リヴァプール、怪我)、トラオレ(ウルヴス)らを招集する可能性はもちろんあるしアイマール(オサスナ)やアレイクス(ジローナ)、テラッツ(ビジャレアル)も今後が楽しみな存在。ちなみにベイガは先ほど羅列した選手の中でも一つ抜けている、言い換えればペドリ、ガビに最も近い男だといえる。ぜひセルタの試合を見て欲しい。
 最後にストライカーになる選手を定めるわけだが、将来性を見るアンス・ファティ(バルサ)、現状からキャリアの最盛期に入るアルバロ・モラタ(アトレティコ)、この2択になるだろう。しかしこの両面を高い水準で保持し、組み立てからフィニッシュ、サイドでもできるユーティリティ性、次ではなくさらにその次のワールドカップも見ていける選手が一人だけいる。
 ミケル・オヤルサバル
 ラ・レアルのバンディエラにして今後のラ・ロハのまごうことなき中心人物、カピタンでさえもこの男に担って欲しいという全幅の信頼がある。昨年3月練習中にじん帯断裂の大怪我を負い、今年に入ってようやく復帰したばかりであるため3月の招集には一旦見送るだろう。実際怪我の前と比べると今は8割程度のパフォーマンスにとどまっているように見える。もちろんトップフォームに戻ればすかさず招集だ。ビジャのような嗅覚とスペースへの侵入、両脚高い技術でのフィニッシュ、ラインブレイク、PK職人、セットプレーキッカーというように点を取るうえで必要な要素をすべて持っている。背丈があるストライカーではないのでアグエロやスアレスをイメージするとわかりやすいだろう。もし、ケインやムバッペ、ハーランドに対抗するならば、オヤルサバルをこちらは差し出す必要があるだろう。またトップ下やサイドからの攻撃も非凡なものを持っているため、フィニッシュだけでなくチャンスメイクやアシストに関わることもできる。パス、ドリブル、フィニッシュ全てを兼ね備えた25歳のストライカーに期待したい。
 ルチョのサッカーを最後まで支え続けたモラタももちろんファーストチョイスだ。トップとファルソ9を高水準でこなせるストライカーはそう多くない。その中でもモラタは卓越なものを持っているし、EUROやワールドカップなどの大舞台でも決めきってチームに勝利を呼び込むメンタリティも備わってきた。またファティの今後の成長を信じたい。現時点ではレヴァンドフスキとのそれがあたり、クラシコでケシエを邪魔したりと何かの歯車がうまく回っていない。だが間違いなく持っている才能は非凡であり、若くして今後の代表とバルサを担う人材であることはすでに証明している。デラフエンテはすでにファティをプランに入れてチーム作りをしていくことを明言したそうだ。この10番に未来を委ねたい。
 スペインのストライカーの枠は決して豊富ではない。しかし彼ら以外にもG・モレノ(ビジャレアル)、RDT(ラージョ)、ロドリゴ(リーズ)、イグレシアス(ベティス)らがいる(前者二人は今季出場時間が短すぎるが…)。今季前半戦だけを見ればワールドカップはロドリゴのサプライズ召集をしてもよかっただろう。

 さて各ポジションの現在と未来を見てきたが、最後に個人的な3月の構成を載せたい。
 1-4-1-4-1ベース、もしくは今まで通りの1-4-3-3ベースでいくことになるだろう。どちらもGKからピボーテにかけては同じメンバー構成にしている。ロドリを中盤登録して、本職CBを4人招集する形。アルナウとカルバハルは逆かもしれない。
 中盤以降だが、最前線はモラタとファティで戦う。4-1-4-1の場合右のSHにジョレンテを配置。バリオスやメンデスが控える形を作る。左はガビ、オルモ、サラビア。中央はペドリ、とベイガにコケ、メリーノ、バイチェティッチが控えるメンバー。4-3-3の場合は右が大きく変わる。やはり純粋なエストレーモが欲しいため、フェランやニコといった右WGが主戦場の選手をチョイス、もちろんメンデスも戦えるだろう。ムバッペやヴィニシウス、マネ、サネといった左WGのトップ選手がスペインにいないためこのフォーメーションだと左が若干見劣りするが現状はこの2択でよいだろう。
 なお、オヤルサバルが間に合うのなら、サラビアを外して招集したい。

 以上になるが、まず間違いなくこれからのスペイン代表はいばらの道を進むことになるだろう。デラフエンテが若き才能をどこまで活用し、チーム戦術に落とし込めるかがカギとなってくる。アンダー世代の監督だったことから教え子を招集する場面も少なくはない。例えば東京五輪のメンバーをすでにそれなりにA代表として羅列している。
 ラモスの代表引退によって事実上栄光の無敵艦隊の時代は幕を閉じただろう。若い風が吹いている。カスティージャ、カタルーニャ、アンダルシア、バスク、ガリシア…様々な地方から新たな無敵艦隊の候補生がラ・ロハを背負おうと奮起している。2024年にドイツで、2026年にアメリカでトロフィーを掲げることを夢見て、新たなスペイン代表を応援していく。

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