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奇跡を喚ぶ

とある村での出来事。

その村では「食事」に関するモラルや何やらが著しく欠落しており、肉や魚、野菜なぞ、一般的に日本人が食しているものというものは決して手をつけない。
食すものと言うと、良くて虫、悪くて鉄屑や銅線という徹底的な変態ぶりである。

ある日、その村に突然の来訪者である「岡園」と名乗る男が現わす。
滅多に部外者が入ってくることの無い村である。皆、ひどく驚いた。

村の長である秋曼荼羅(あきまんだら)が一歩前へと踏み出し、岡園に問い掛けた。

「こんな何もない村に何かご用ですかえ?」

岡園は人の良さそうな笑みを浮かべると、村に来た経緯について話し始めた。

岡園は、過疎化の進む村の復興事業を国より委託されていた。
日本各地の過疎村の中でも、特に色々な意味で酷い状況にあった、この村の担当に抜擢されたのだ。
村で何かしらの誘致活動を行い、観光地として村を栄えさせてほしい、というのが国から依頼であったが、これが何とも難しいことであった。

岡園は、以前より村の惨状を見聞していたので、ひどく頭を悩ませたが、成功した暁には膨大な金が手に入ることを約束されていた為、全身全霊を込め脳ミソをぐるぐるした。

三日三晩寝ずにぐるぐるし、岡園が導き出した答えは、
「村にレストランを開店させる」
というものであった。

「自然豊かな村で採れた新鮮な食材」「地産地消」なぞ謳い文句に宣伝さえすれば人は呼べると踏んでいた。
もちろん、村人が育てた野菜も何もないが、適当にどこからか仕入れ、産地を偽装でもすれば大丈夫であろうという至極明るい見通しだ。

幸い「自然豊かである」点だけは大正解であった為、店の外観が出来上がるにつれ姿を見せる、緑の中に佇む真新しいレストランのコンティラストに、岡園は「これは流行る」と確信を抱いた。

内装工事も順調に進んでいる最中、思わぬ事態が発生する。
レストランの厨房係は岡園の知り合いに声を掛け集めたのだが、ホール係が一人として集まらないのだ。
確かに、こんな得体の知れない村に誰が来ようかと、今さらになって気が付いた岡園は頭を抱えた。

開店までの時間が近づく中、いよいよ追い込まれた岡園は一つの決心をする。

ホール係に村人を雇おうと考えたのだ。

虫だの何だの食ってる蛮族じみた村人であっても、注文を聞いて、料理を運ぶくらいなら出来るであろうと、岡園は百回くらい自分に言い聞かせ、半ば強引に大丈夫であると納得すると、直ぐ様、村中を駆け回り村人達に声をかけた。

結果、秋曼荼羅村長含む好奇心だけは盛んな十人の村人が集まった。

教育さえしっかり行えば大丈夫。
虫や鉄を食うことを除けば七割位は同じ人間である。またも、自分に言い聞かせ気を落ち着かせると、ようやく無事開店できるぞと安堵することができた。

しかし、岡園には最後の試練が待ち受けていた。

営業を行う為には、従業員全員の検便検査に合格しなければならないのだ。
奴らは、マトモなモノなど何一つ食べてこなかった。
これでは合格レベルの糞が出る筈がないのだ。

一か八か、厨房担当に代便(検便を他人に委託すること)を依頼したが、誰一人として首を縦に振らない。尽く断れてしまった。

万が一の可能性にかけて、秋曼荼羅村長改め秋曼荼羅ホールリーダーに、「この中にまともな糞が出る人はいますか?」と確認したところ、
「いないでしょうな。昨日は皆、立派なオオカマキリを食べましたもんでせえ。」
と手でオオカマキリのサイズを示しながら、朗らかに言われる始末。
岡園は再び頭を抱えた。

そんな最中一筋の光が差し込んだ。

「郷田」と呼ばれる男が村に帰還したのだ。
ホールリーダー曰く、郷田は村で一番頭がよく、唯一、定期的に村を離れ、都会へ出稼ぎに出ている男だというのだ。
おまけに気は優しくて力持ちだと言うからこんなに痺れることはない。

試しに郷田に都会へ出ている間の食生活について問うてみると、
「はい。スニッカーズばかりを食べておりました。」
と頼もしすぎる返答。

直ぐ様、代便(検便を他人に委託すること)を依頼すると、「あっ、はい」と、これまた頼もしすぎる返答が返ってきた。

事の重大さを恐らく誰一人としてわかっていないであろう馬鹿村人共は、何故かハイテンションに、
「ここで糞出せ。」
と郷田に詰め寄る。
こんな脅迫は、産まれてこのかた一度も聞いたことがないと岡園は戦慄した。

郷田も郷田で「いやあ、恥ずかしいですね。」と言いつつ、下着をおろして雄々しい尻を丸出しに臨戦態勢となる。
それを見た村人が雄叫びやら奇声やらを発すると、いよいよ地獄の何かががひっくり返る。
「あんた、一発かましなよ。」
と快活な母ちゃんの声を合図に糞を放りだす郷田に、岡園は最大限に冷ややかな眼差を向けたのであった。



無事、検便検査を合格し、レストランも何とかオープンした。
しかし、翌日には全てがバレてレストランを潰れた。
あーあ(笑)。

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