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変態名人 竜王戦

A県にある県立女学校にて、とある男が深夜校舎に忍び込み、生徒の所持品を盗難したとして逮捕された。

男の名は笑(えみ)といい、
血色の悪い青白い肌にゲッソリと痩せた頬、ギョロギョロとした大きな目が溢れ落ちそうなほど飛び出ており、何とも怪しい風貌が特徴的である。

笑の取り調べはベテランの正岡警部により、行われた。
正岡警部の取り調べに対して、笑は快活な声でハキハキと答えた。

その見た目とは裏腹に健康的な喋り方に、最初は皆、面喰らって唖然としていた。

以下にその時の正岡警部と笑とのやり取りの一部を記す。


「まずは、如何にして校内へと忍び込んだのだ?」

「へい。校内へ入ったのは実はアレが始めてではないのです。一度、校内の道順を確認する為に、下調べで入ったことがあります。
ですので、中に入ることは割と容易でありました。
あの、ポプラの木がおありでしょう?アソコの横に丁度人っ子一人が入れるような隙間があるのですよ。」

「あの日が始めてではなかったのか。とんでもない奴だな君は。だが校舎の中へはどうやった。鍵はかかっていた筈だし、窓ガラスが割られていたわけでもかった。」

「へい。それも事前の調べで。
古いあばら屋がらおありでしょう。その横のポプラの木との間に丁度人っ子一人が入れるような穴があるのです。その穴が体育館の倉庫へと繋がっておるのですよ。」

「体育館。そう、体育館だ。我々が一番不可解だったことは、体育館の床にマスキングテエプでマス目みたいなものが作られていたことだ。アレも君が?」

「へい。アレは将棋をしていたのですよ。」

「将棋。何を言っているのだ。」

「将棋です。将棋です、はい。
アレは将棋に勤しんでいたのです。」

「あのテエプが張られた床が将棋の盤と言うわけか。では、駒は何なのだ。」

「へい。ブルマアにございます。」

「何?押収品のブルマアか。」

「へい。ブルマアが駒であります。
駒がブルマアと言っても差し支えございません。」

「いよいよ以て、君がわからなくなってきた。頭が痛い。
ブルマアが駒と言うなら、王将はあるのか。」

「へい、ございます。」

「飛車と角行は、あるのか。」

「へい、もちろんございます。」

「桂馬は、あるのか。」

「あっ、そう言えば桂馬はございませんでした。こりゃ、失敬。アハハハ。桂馬無くしてどうやって将棋が指せるのかと。

「何だか、不思議と愉しい気分になってきたじゃあないか。桂馬が無いなんてアハアハ。」

「『桂馬無し 生きる価値無し 曼珠沙華』」

「誰の句かね。」

「私の姉です。」

「君のお姉さんは、とんだ才能があるようだね。マルコ・ポーロかお姉さんか、と言うくらいだよ。アハアハアハ。」

「一つダンスでも踊りましょう。Earth, Wind & Fireなんて、如何ですかな。」

「僕はダンスには厳しいよ。ナンチャンとでも呼んでくれないか。」

「愉快です。愉快です。アハハハ。」



笑は犯行を自供し終えると、満足げな顔で遠くを見つめていた。

ブルマアを将棋の駒に見立て、一局打つという前代未聞の諸行は、世間を大きく騒がせ、同時に将棋ブームとウーパールーパーブームを巻き起こした。

笑は電気イスですげえビリビリして死んだ。
スーパーピース。

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